イタリアンコンパクトカーの代表格、フィアット「500」(チンクエチェント)が電気自動車(EV)に進化し、「500e」(チンクエチェント・イー)として登場した。既存の「500」を電動化したわけではなく、プラットフォームもボディも新設計となるこのクルマ、走りの小気味良さもさることながら、イタリアならではのデザインの力に魅せられた。
サイズはほぼ同じだが見た目は別物
日本では当面、エンジン車「500」との併売となる「500e」だが、本国では「500のEV版」ではなく「新型の500」という位置付け。見た目はエンジン車の500に似ているが、実はプラットフォームから新設計となっているのだ。
全長3,630mm、全幅1,685mm、全高1,530mmというボディサイズはエンジン車の「500」より大きいが、依然として5ナンバー枠に収まる。スタイリングは「500」らしさ全開。フロントマスクでは上半分を輪郭だけにしたヘッドランプ、センターに据えた「500」のロゴといった新しい要素を取り入れている。
個人的に感心したのは、フロントマスクのヒゲや張り出したサイドのウインカーなど、昔の「500」や「600」のエッセンスを取り入れていることだ。
サイドではドアハンドルをフラッシュサーフェスとしてボタンを裏側に埋め込んだ。サイドウインドーのモールは後端で回り込み、折り返しの部分に「500e」のロゴが入る。日本車ではなかなかお目にかかれない粋な処理だ。
電動化というとドライでシームレスなイメージを持つ人が多く、実際にそういう方向で造形するクルマが多い中で、イタリアならではのデザインの力で明るさや親しみやすさを前面に押し出したセンスは、さすがというほかない。
見ているだけで楽しいメーター
インテリアデザインも一新している。ゆったりとした曲線で囲まれたインパネは、筆者が試乗した上級グレード「アイコン」および「オープン」では短冊切りのレザーを編みこんだ素材で覆われていた。シートには「FIAT」のロゴが入ったレザー調リサイクル表皮を使用する。
ホワイトのステアリングやセンターパネルなどでポップなイメージをアピールしていたエンジン車とは対照的に、500eの車内は大人っぽい空間に変貌していた。500万円近い価格が納得できる仕立てだし、プレミアムコンパクトと呼びたくなるクオリティを手に入れていた。
メーターは昔の円形をモチーフとしつつもデジタル化。右半分が赤で「パワー」、左半分がブルーで「チャージ」を示したグラフィックはカラフルでわかりやすい。ここでもまた、電気で走るクルマを楽しく見せようというディテールに惹かれた。
デジタルなので表示をいろいろと切り替えることも可能。ナビの地図や先進運転支援機構の状況も表示可能で、その場合は上に速度の数字、右にパワーとチャージのバーグラフが出る。左には常に電池の残量が%表示と棒グラフで示される。どこもグラフィックに凝っていて、デザインの国だと改めて教えられる。
ドアトリムにもニュースがある。オープナーがレバーではなくボタンになっているのだ。ここもまた、わかりやすい電動化のアピールといえる。一方でボタンの脇の取っ手の奥には、リアエンジンの「500」のイラストが「MADE IN TORINO」の文字とともに入っている。細かいところまで本当に演出が行き届いている。
リアシートの広さはエンジン車と同等。身長170cmの筆者が座ると、足元には余裕があるものの頭が天井に触れる。でも、主に2人で乗るシティラナバウトとしては充分だし、フロアが高くなっていないところなど、EV専用設計であることも理解できる。
小気味良い走りも魅力
前輪を駆動するモーターの最高出力は87kW、最大トルクは220Nm。後者についてはエンジン車を大きく上回るうえに、車両重量は1,320~1,360kgとEVとしては軽いので、加速はかなり力強い。
ドライブモードは「ノーマル」「レンジ」「シェルパ」から選べる。停止時以外はワンペダルドライブができる「レンジ」モードの回生ブレーキは、瞬時に反応するのに唐突感がないという絶妙な設定。小気味良さが印象的なこのモードを多用したくなるほどだった。
ハンドリングはエンジン車の500にあったフロントが重い感じが薄れて、ボディ全体で曲がっていくようになったし、低重心であることも感じる。エンジン車の軽快感とはちょっと違うフィーリングだが、サイズの小ささをいかした動きの良さはそのままだ。
一方、高速道路では、エンジン車の「500」にはなかった「アダプティブクルーズコントロール」が装備されており、乗り心地も重厚になっている。満充電での航続可能距離335kmの範囲内なら、ロングドライブの快適性も高まっている。
でも、個人的には「500e」のいちばんの魅力はデザインだと思う。「500」らしさとEVらしさを融合したテクニックはさすがイタリア。「これならEVにしてみようか」という人が多いのではないだろうか。