パッケージングを一新したトヨタ自動車の新型「ミライ」は、デザインが大幅に変化している。良くも悪くも未来的だった旧型と比べると大人っぽく、シームレスになった印象だ。ちょっと「クラウン」に似ているようでもあるが、それにも理由がありそうな気がする。
未来指向から現実路線へ
前回の記事にもある通り、ミライはパッケージングを一新した。その結果、プロポーションが変化している。ボディに対してキャビンが後方に移動し、前輪はキャビンから離れ、後輪も少し前進した。ルーフが低くなり、ずんぐりした印象が消えたことも目立つ。モーターをフロントからリア、燃料電池スタックを前席下からフロントに移したことが功を奏しているようだ。
同じトヨタでは「クラウン」に似ている感じも受ける。ただし、ノーズはクラウンよりも低くて長い。燃料電池スタックがエンジンほど背が高くないことを象徴するような造形だ。そういえば、新型ミライと似たパッケージングだったレクサスのコンセプトカー「LF-FC」(2015年の東京モーターショーに出展)もノーズは低かった。
ボディサイズは全長4,975mm、全幅1,885mm、全高1,470mmで、旧型よりも85mm長く、70mm幅広く、65mm低くなっている。ホイールベースは140mmも伸びて2,920mmになった。全高とホイールベースの大きな変更は、パッケージングの一新がなければ難しかっただろう。
スタイリングは、かなりシンプルになった。旧型が備えていた、水の流れをイメージしたというサイドのキャラクターラインは消え、プレーンなボディサイドになった。現在のカーデザインのトレンドでもあるシームレスな形になったともいえる。
フロント/リアまわりも、台形基調であることは旧型と共通するものの、フロントの空気取り入れ口は台形の外側から内側に移されたので、かなり一般的になった。リアもこのフロントの開口部に合わせた逆三角形のルーバー風演出が消えて、落ち着いた雰囲気になった。
補助金を使えばハードルは下がるとはいえ、ミライは700万円以上する高価格車である。新型は、その車格にふさわしい大人っぽさを身につけたと感じた。
天井に水のモチーフを発見!
インテリアについても同じことがいえる。旧型は曲線をふんだんに用い、デジタル式センターメーターから伸びるラインがフロントピラーにつながり、その下のディスプレイはドアトリムに流れていくなど、世界初の市販燃料電池自動車(FCV)ということで、かなり独創的だった。それが新型では、一転してオーセンティックになっている。
メーターパネルが運転席の前にあり、その横にディスプレイを配するというレイアウトは、近年多くのクルマが採用するものだ。巨大なタッチパネルを使っていたエアコンのスイッチは一般的な押しボタンになるなど、インターフェイスも普通になった。価格が高いので保守的なユーザー、より具体的にいえばクラウンなどの顧客層を意識しているのかもしれない。
低めの着座位置と幅広く高めのセンターコンソールからなる前席はセダンらしい環境だ。セダンとしては高めに座っていた旧型と比べると、スポーティーな雰囲気さえする。しかも、コンソールの高さはアームレストとして最適だった。サイズが大きめのシートはふっかりしたかけ心地で、トヨタブランドのセダンらしい。
後席は、身長170cmの筆者がドライビングポジションを取った運転席の後ろに座ると、ひざの前は15cmぐらいで、頭上は手のひらが楽に入る。ミニバンやSUVのような広々感はないものの、傾きがあって座面、背もたれともにくつろげる乗車姿勢になる。
旧型の2人掛けから3人掛けになったことも新型の特徴だが、センタートンネルが幅広いので、中央席は足を開いて座ることになる。ただ、この幅広さのおかげで、前席の間を通しての見晴らしはいい。ふと頭上に目をやると、天井に水紋をイメージしたグラフィックが入っていることを発見した。外観からは消えたFCVらしいディテールはここに隠されていた。
デザインについて全般的にいえば、未来指向が薄れ、現実指向になったという印象を抱いた。ミライという名前から連想する先鋭的な雰囲気は薄れたような気がするが、個性を抑えて受け入れやすい造形にしたことは評価できる。SUVになるという噂もある「クラウン」との関係も気になるほど、トヨタブランドの最上級セダンにふさわしい作りである。