大人気のスズキ「ハスラー」にライバルが現れた。ダイハツ工業が「東京オートサロン 2020」に展示した軽クロスオーバー「タフト・コンセプト」だ。まだコンセプトカーの段階ではあるが、そのタフなデザインはハスラーとの真っ向勝負を予感させる。オートサロンではデザイナーに話を聞くことができたので、そこで得た情報も交えつつ、このクルマのデザインを見ていきたい。
昔の名前で新登場? 旧タフトとの関係は
タフト(TAFT)・コンセプトが登場したのは、先日の東京オートサロンだった。同イベントは日本最大、いや、世界最大級といってもいいカスタムカーおよび関連製品の展示会だ。今年は3日間で33万6,060人の来場者を集め、過去最多の動員を記録した。
東京モーターショーがモビリティの未来を見せる方向にシフトしつつあることで、クルマの楽しさを掘り下げることにこだわったオートサロンとの色分けがはっきりしつつある。しかもオートサロンは、かつてのようなスポーツモデル中心ではなく、SUVやミニバンのカスタムも多く見られるようになってきた。ゆえに近年は、自動車メーカーも展示に力を入れており、この場で新型車を発表することも多くなっている。
今年のオートサロンでは、トヨタ自動車がコンパクトカー「ヤリス」のスポーツモデル「GR ヤリス」を発表。ホンダはマイナーチェンジした「シビック」と「S660」に加え、今後の登場を予定する新型「シビック・タイプR」を出展した。スバルのブースでは、「東京モーターショー 2019」で参考出品した「レヴォーグ・コンセプト」のSTIスポーツ・バージョンを披露していた。
スポーツカーの「コペン」をラインアップしてはいるものの、どちらかというと生活に密着したクルマのブランドというイメージが強いダイハツ工業も、東京オートサロンにブースを出展。軽自動車クロスオーバーのタフト・コンセプトを初公開した。つまり、これがワールドプレミアとなる。ブースにはダイハツ 第一デザイン室課長の芝垣登志男氏が来ていたので、このクルマについて話を聞いてみた。
まずは名前だ。ダイハツはかつて、「タフト」という名前の小型SUVを販売していたことがある。現在の軽自動車枠に収まるほど小さなボディだったが、ラダーフレームに前後ともリジッドアクスルのサスペンションという、スズキ「ジムニー」に近いメカニズムを持つヘビーデューティーな4輪駆動車だった。
かつてのタフトがデビューしたのは1974年で、10年後にはモダンなボディにモデルチェンジするとともに、車名を「ラガー」に変更する。1990年には、前輪独立懸架サスペンションを組み合わせてATを用意するなど、乗用車テイストを高めた車種が「ロッキー」としてデビューした。ロッキーといえば、ダイハツは先日、同じ名前を持つ小型SUVを発売したばかり。今回のタフト・コンセプトが市販化につながれば、ロッキーに続く車名の復活となりそうだ。
タフト・コンセプトが昔の名前で出てきた理由について、芝垣氏はこう語る。
「名前は直接の担当ではないので、分かる範囲でお話ししますが、トヨタとの協業が多くなり、ダイハツらしさを考える機会が増えていることが、影響していると思います。ダイハツらしいデザインや機能を考えたとき、かつての車名を復活させるというアイデアが出てきました。実際は『Tough & Almighty Fun Tool』の頭文字を取ったもので、昔のタフトが意味していた『Tough & Almighty Four-wheel Touring vehicle』とは少し違いますが、意識の中には入れていました」
あの「ワクワク」が商品化?
2019年の東京モーターショーに足を運んだ人であれば、タフト・コンセプトのベースとなった車両として、思い浮かべた1台があるはずだ。コンセプトカーの「ワクワク」である。「東京モーターショー 2019」でダイハツは、メインステージに4台のコンセプトカーを展示していた。その中から、まずはワクワクが市販化に一歩近づいた格好だ。残り3台についても、市販化が期待できるかもしれない。
ワクワクに比べ、タフト・コンセプトのリアドアまわりは、より一般的になったといえる。それは、多くのユーザーを満足させなければならない量産車としては当然の方向性だ。角張ったフォルムやフロントマスクなど、イメージを継承しているところも多いので、タフト・コンセプトをワクワクの市販型と捉えた人も多いと思う。
タフト・コンセプトの方向性について、芝垣氏はこう解説する。
「ゴツゴツ感は最初から狙っていました。都会的でシャープなラインを持たせつつ、お乗りになる方にとっては頼れる相棒となるようなコンセプトです。乗用車的なテイストよりも、大胆でタフなモノを目指したいという気持ちは、当初からありました」
軽自動車のクロスオーバーというと、スズキ「ハスラー」を思い浮かべる人もいるだろう。タフト・コンセプトが市販化されれば、最大のライバルがハスラーになることは明白だ。これについては、「ハスラーを見ていなかったかというと嘘になりますが、意識したわけではありません」というのが芝垣氏の答えである。
タフト・コンセプトはハスラーに比べ、よりゴツゴツした外観をまとっている。その理由は、ダイハツとスズキの商品構成を考えると分かってくる。ジムニーをラインアップしているスズキは、ハスラーのデザインをある程度、ソフトな路線に振ることができたのだ。
かつてのダイハツ「タフト」はジムニーに近いテイストで、そのデザインはゴツゴツした無骨なものだった。ダイハツは今回のタフト・コンセプトをデザインするにあたり、ある程度はジムニーのキャラクターも狙って、ゴツゴツとした造形を与えたのではないかと想像できる。
タフト・コンセプトのディテールで、個人的に注目したのはフロントまわりだ。バンパーの一部が切り欠いてあり、そこからタイヤがチラッと見えている。この点について芝垣さんは、「大胆な造形を目指す中で、タイヤの張り出し感を強調するような作りとしました。保安基準などを満足させるのに試行錯誤したり、上司とともに生産現場の人たちを説得したり、いろいろな苦労がありました」と述懐する。
ボディサイドをワクワクと比べると、リアドアのオープナーはフロントと同じグリップタイプに、オレンジのパネルが埋め込まれていたリアドア上半分はウインドーに変わるなど、違いが見られる。それでも、タフト・コンセプトというクルマは、車体の前後でかなり雰囲気が異なる。その理由は芝垣氏の話を聞いて納得できた。
「前席まわりは安全にドライブできる空間とし、後方はシートを折り畳んで荷室としてもしっかり使えるスペースにするというパッケージングを、外から見ただけで分かるように表現できないかと考え、前後のサイドウインドーの高さに段差をつけたりしました。リアフェンダーもそのための処理ですが、跳ね石がぶつかっても大丈夫という機能的な効果もあります」
前席には大きなガラスルーフを採用し、ルーフキャリアを車体後方のみとしたのも、前後の空間の役割の違いを印象付けるためとのことだった。そのインテリアについては、次のように語っていた。
「外観と同じように、レゴブロックで組み上げたような大胆な造形を考えました。男の子が好きそうなイメージという声もありますが、特に男性向けというわけではありません。アウトドアシーンを見ても、昨今はジェンダーレスになってきているので、みんなが楽しく乗れるように意識しました」
コストの関係で、インテリアパーツを複数の車種で共用している軽自動車は多い。そんな中、タフト・コンセプトは流用で済ませがちなエアコンのルーバー周辺も独自になっているし、攻めているなと感じた。
荷室を見ると、ワクワクでは横+下開きの2分割だったリアゲートがタフト・コンセプトでは1枚の跳ね上げ式となった。畳むとフラットになる後席はウォッシャブルな処理となっているなど、ガンガン使い倒せそうな作りはワクワクから継承している。壁はポールなどが装着できそうな構造になっていて、アフターパーツもいろいろと設定されそうだ。
ダイハツが2020年夏の市販化を目指すタフト・コンセプト。現状では、ハスラーもジムニーも超がつくほどの人気であるだけに、このカテゴリーの新たな選択肢を待ち望んでいる人は多いはずだ。