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フランスの自動車ブランド「シトロエン」がクルマづくりを始めて今年で100周年になる。業界きっての個性派は、どんな道のりを歩んできたのか。そして今、どこを目指しているのか。取材で数多くのシトロエンに接してきたひとりとして考えた。

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フランスの個性派「シトロエン」はどこへ向かう? 100周年で考える

SEP. 17, 2019 11:30 Updated DEC. 23, 2024 17:57
Text : 森口将之
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フランスの自動車ブランド「シトロエン」がクルマづくりを始めて今年で100周年になる。業界きっての個性派は、どんな道のりを歩んできたのか。そして今、どこを目指しているのか。取材で数多くのシトロエンに接してきたひとりとして考えた。我が国で開催される100周年記念イベントもあわせて紹介しよう。

  • シトロエン「2CV」

    100周年を迎えたフランスの個性派「シトロエン」。その歩みを振り返り、今後の方向性を考えてみたい(写真は「2CV」)

技術、生産、広告と多方面で革新を追求

自動車メーカーには、第2次世界大戦前にクルマづくりを始めた老舗が多い。フランスのシトロエンもそうで、創始者アンドレ・シトロエンが第1号車「タイプA」を送り出したのが1919年だから、今年でちょうど100周年になる。

シトロエンは昔から、個性的なクルマを送り出すブランドとして知られている。それもそのはずで、創業者のアンドレ・シトロエンその人が、独創性や革新性を好む経営者だった。

アメリカのフォードが「T型」で確立した流れ作業による大量生産に興味を抱いていた彼は、第1次世界大戦が終結した1919年に自動車業界に参入するにあたり、同じ手法を導入した。おかげで、タイプAの価格は当時の同クラスの約半分に抑えられ、多くの人がシトロエンでクルマの魅力を知ることになった。

1922年には、ひとクラス下に位置する2人乗りのシティコミューター「5CV」の生産を始めた。こちらではボディカラーをイエローに統一し、「プティ・シトロン」と名づけた。「シトロン」とはフランス語でレモンを表す単語だが、もちろん、シトロエンという名前とも掛け合わせていた。

どちらもクルマそのものはオーソドックスだったが、生産や広告の手法が革新的だった。そして、1934年に発表された「トラクシオン・アヴァン」では、クルマそのものも画期的な内容になっていた。

トラクシオン・アヴァンとは、前輪駆動を示すフランス語だ。多くのブランドが第2次世界大戦後に実用化するこのメカニズムを、現在のクルマで一般的な構造であるモノコックボディとともに、シトロエンがいち早く採用したのだった。

クルマの開発や生産に巨額な投資をしたことが裏目に出て、シトロエンは経営危機に陥り、同じフランスのタイヤメーカーであるミシュランの傘下に入る。しかし、トラクシオン・アヴァンの開発に関わったエンジニアのアンドレ・ルフェーブル、デザイナーのフラミニオ・ベルトーニはその後も主役であり続け、第2次世界大戦後の1948年にベーシックカー「2CV」、1955年には上級車種「DS」という、今日のシトロエンを象徴する2台を生み出したのである。

  • シトロエン「DS」

    1955年に誕生した上級車種「DS」

特にDSは、宇宙船を思わせる流線型のボディに、金属バネではなくオイルとガスを使った「ハイドロニューマチックサスペンション」を組み合わせ、極上のクルージングを実現。世界中に衝撃を与えた。

デザインと快適性にこだわる

2CVとDSで軌道に乗ったシトロエンは、他社との提携を進めるようになる。同じフランスの老舗パナール・ルヴァッソールを傘下に収めると、ロータリーエンジンの開発に乗り出すべくドイツのNSUと手を結び、高性能車の開発に際してはイタリアのマセラティを買収し、フィアットとも資本提携した。

1970年代に入ると、その成果として、ロータリーエンジン搭載を想定した小型車「GS」、マセラティの高性能エンジンを積んだ「SM」、DSの後継車「CX」を次々に発表する。エンジニアやデザイナーは世代交代していたものの、空気抵抗の少ないデザインやハイドロニューマチックの快適性は継承していた。

  • シトロエン「CX」

    「DS」の後継車「CX」

しかし、CXが登場する1年前に、フィアットとの提携は商用車を除いて解消となる。直後にオイルショックが起きたことで、シトロエンはまたも経営危機に陥った。ミシュラン単独では支援が難しかったこともあり、シトロエンはプジョーと合併。現在のグループPSAが誕生した。

その後、シトロエンのプラットフォームとパワートレインは同じクラスのプジョーと共通となった。しかし、その後に登場した「BX」「XM」「エグザンティア」などは、伝統の快適性にイタリアのベルトーネが描いたスマートなデザインを組み合わせ、新たなユーザーを獲得していった。

  • イタリアのカロッツェリア「ベルトーネ」がデザインを手掛けた「BX」

2000年発表の「C5」からは、今も使われている「C+数字」という新しい車名に切り替わる。ただし、この時期のシトロエンは、数を売ろうとする中で万人向けのクルマづくりに傾きかけていた。でも、そんなシトロエンを望む人は逆に少なかった。彼らは再び、個性にあふれた車種の開発に力を注ぐことになる。

シトロエンはコンセプトカーによって、いくつかの「シトロエンらしいデザイン」をユーザーに提案していく。その中から、今のシトロエンの方向性を示す車種が生まれた。2014年に発表された「C4カクタス」だ。ボディサイドの「エアバンプ」をはじめとする独創的なデザイン、シートに座っただけでほっこりするコンフォート性能は、その後のシトロエンのマニフェストになった。

  • シトロエン「C4カクタス」

    現在につながるシトロエンの方向性を示したのが「C4カクタス」だった

100年の歴史を体感できるチャンスも

この流れを引き継ぎ、100周年を迎えた今年、我が国で発売されたのがシトロエン初のSUVでもある「C3エアクロス」と「C5エアクロス」である。一部の人は「またSUVか」と思うかもしれないが、写真を見てもらえれば、他のどのSUVにも似ていない形だと理解してもらえるだろう。

  • シトロエンの「C3エアクロス」と「C5エアクロス」

    「C3エアクロス」(右)と「C5エアクロス」。シトロエン初のSUVだ

グリルを大きくして迫力をアピールするクルマが多い中、エンブレムのダブルシェブロンを両端に伸ばしたスリムなフェイスは新鮮だし、サイドウインドーやピラー周りの造形も独特。そこにレッドやオレンジのアクセントカラーが、遊び心を絶妙にトッピングしている。

  • シトロエン「C3エアクロス」

    カジュアルな印象の「C3エアクロス」

カジュアルなC3エアクロスと落ち着きのC5エアクロスというキャラクター分けもうまい。インテリアの素材や色の使い方も、それを反映している。上から下まで同じ仕立てのドイツ車では得られない味わいを感じる。

  • 「C3エアクロス」のインテリア

    「C3エアクロス」のインテリア

パワートレインはC3エアクロスが1.2リッター3気筒ガソリンターボエンジンに6速AT、C5エアクロスが2リッター4気筒ディーゼルターボに8速ATという組み合わせ。前者は小さくて軽いエンジンで、コンパクトSUVらしいキビキビした動きを生み出す。後者はディーゼルの粘り強さと経済性がロングランでありがたい。両車のキャラクターに合ったチョイスに感心した。

  • シトロエン「C5エアクロス」

    落ち着いた雰囲気の「C5エアクロス」

C3エアクロスは快適性も高い。このクラスのSUVで最もリラックスして乗れる1台だろう。しかし、快適性ではやはり、C5エアクロスの素晴らしさが際立つ。かつてのハイドロニューマチックの生まれ変わりといえる「プログレッシブ・ハイドローリック・クッション」の「ふんわりゆったり」なおもてなしに、誰もが魅了されてしまうはずだ。

  • 「C5エアクロス」のインテリア

    「C5エアクロス」のインテリア

ここまで、シトロエン100年の歴史と最新SUV2台のインプレッションを簡単に紹介してきたが、読者の皆さんにも、これらを実地に確認できる機会がある。9月17~23日に東京の赤坂アークヒルズで歴代シトロエンが展示されるのだ。さらに、10月25~28日には全国各地を巡るクラシックカーラリー「ラ・フェスタ・ミッレミリア」に協賛し、11月25日~12月1日には東京の二子玉川ライズで展示会を予定している。

これらのイベントには「バーンファインド」、つまり、最近納屋から発見された1923年式5CVが展示されるという。フランスの個性派の一世紀を体感できるチャンス。気になる方は足を運んでみてはいかがだろうか。


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※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。