多くの自動車ブランドがSUVを送り出し、クーペのようにスタイリッシュな4ドアを登場させる一方で、減り続けているボディ形状があることに皆様はお気づきだろうか。それは、4/5人乗りの2ドアクーペだ。このまま絶滅の道を歩ませるにはあまりに惜しいので、このボディを愛する者のひとりとして魅力をつづってみたい。
新型「スープラ」も2人乗りに変身
2019年に復活するトヨタ自動車「スープラ」の事前試乗会でプロトタイプに触れて、残念なことがひとつあった。ボディがリアシートのない2人乗りになっていたことだ。
新型スープラを復活させるにあたりトヨタは、「直列6気筒エンジン」と「後輪駆動」という初代からのパッケージングを守るため、BMWのスポーツカー「Z4」との共同開発という道を選んだ。Z4は2シーターのオープンカーであり、プラットフォームやパワートレインの基本を共有するとなれば、スープラも2人乗りになることは予想できた。
しかもスープラは、以前の記事で紹介したように、モデルチェンジのたびにホイールベースと全長を短くしてきた、珍しい車種である。その目的のひとつがスポーツ性能の向上であり、この方向性を推し進めた2シーター化は理解できる。
この結果、日本で販売される日本車の2ドア2人乗りは日産自動車「フェアレディZ」、本田技研工業の「NSX」と「S660」、マツダの「ロードスター」と「ロードスターRF」、ダイハツ工業「コペン」を加えて7車種となる。
一方、同じ2ドアながら4/5人乗りの車種は、トヨタ「86」、スバル「BRZ」、日産「GT-R」、レクサス「RC」「LC」の5車種にとどまる。使い勝手の面では明らかに不便な2人乗りの方が多数派という、異例の状況になったわけだ。
昔のことを振り返ると、スープラのベースとなった「セリカ」をはじめ、2ドア4/5人乗りの車種はかなり多かった。逆に、同じ2ドアの2人乗りはフェアレディZやトヨタ「MR2」くらいしかなく、そのZさえ「2by2」という名の4人乗りを用意していたほどである。
欧米でも減り続ける2ドア4/5人乗りの車種
実はこれ、日本に限った話はではない。我が国以上に2ドアクーペが根付いていたアメリカでも車種は減っているのだ。日本で輸入しているモデルを見てみると、2人乗りがシボレー「コルベット」のみで、4人乗りは同じくシボレーの「カマロ」しかない。
ヨーロッパではスポーツカー専門ブランドや1,000万円以上の高価格車を除くと、ジャガーとアルファ・ロメオではかつてあった4人乗りが消滅して2人乗りの「Fタイプクーペ/コンバーチブル」と「4C/4Cスパイダー」のみになり、プジョーやボルボでは2ドアそのものがなくなった。レンジローバー「イヴォーク」はSUVクーペという姿が鮮烈だったが、新型は5ドアのみとなった。
クーペとはいえないかもしれないが、フォルクスワーゲン「ザ・ビートル」が販売を終了するのにも、似たような理由があると思っている。同じように古き良き時代のベーシックカーをリバイバルさせたミニが「クロスオーバー」などを展開し、フィアットは「500」(チンクエチェント)に「500X」という5ドアを追加していく中で、オリジナルの面影を継承した3ドアにこだわったのがザ・ビートルだった。しかし、その点にこそ、このクルマがおよそ80年にも及ぶ歴史に終止符を打つことになった要因があるのではないかという気がするのだ。
SUVブームも遠因に? 2ドア4/5シーターが減った理由
2ドア4/5シーターがここまで減ってしまった理由は何か。簡単にいえば、4ドアでもカッコいいクルマが作れるようになったことが大きいだろう。
そのひとつはSUVだ。中でも、それまでスポーツカー専門だったポルシェが2002年に送り出した「カイエン」の影響力は大きかった。
ポルシェを代表するスポーツカーは「911」だが、この1台で全てをカバーできる人は少ない。ほとんどのユーザーは、別に他社のセダンやワゴンを持っていた。ポルシェは911オーナーの“もう1台需要”を狙うべく、SUVを企画したのではないかと思っている。
ところがカイエンには、それとは異なるユーザーが殺到した。2ドアは生活シーン的に無理という人々が、4ドアのポルシェとしてカイエンを選ぶようになったのだ。以前、あるカイエンオーナーに話を聞いた時、「ポルシェは好きだけれど911には興味がない」と言い切っていたのは印象的だった。
ポルシェの成功が、他の多くのプレミアムブランドをSUV参入になびかせる理由のひとつになったことは間違いない。ジャガー「Eペイス」(E-PACE)のように、セダンの「XE」よりスポーツカーの「Fタイプ」に近いデザインを取り込んで、4ドアのスポーツモデルとしてアピールする例も多い。
「2ドアは買えない」と考える人のためのスポーツモデルという立ち位置を各社が持たせたことは、SUVがヒットした理由のひとつだと思っている。
4ドアクーペ登場も退潮の要因に
もうひとつの理由は、4ドアクーペの登場だ。こちらは1950年代の米国車に設定された4ドアハードトップをルーツとしており、日本車も1970年代以降、このボディを多数用意した。少数派ではあるが、1960年代の英国車にも4ドアクーペはあった。
もともとハードトップとは、オープンカーに装着する(幌ではなくて)固い屋根のことだったのだが、その後、サイドウインドーの窓枠を持たないクーペをこう呼ぶようになった。セダンと比べるとルーフが低く、前後のウインドーの傾きが強いことが多く、2ドアの流麗さと4ドアの実用性を兼ね備えたような車体だった。
しかし、日本車の4ドアハードトップは「車内が狭い」とか「ボディ剛性が低い」といった理由で21世紀初めに消滅する。すると、入れ替わるように登場したのが2004年発表のメルセデス・ベンツ「CLS」だった。続いてBMWが「6シリーズ・グランクーペ」、アウディが「A7スポーツバック」と、ドイツ勢が相次いで4ドアクーペ(A7はリアゲートがあるので5ドアともいえる)をリリースしてきた。
もっとも、彼らは依然として2ドアのクーペも用意していたのだが、一方で、SUVにも低く流麗なルーフラインを特徴とする「SUVクーペ」を設定していた。こちらには最初から2ドアがなく、4ドアのみだった。このことからも、2ドア4/5人乗りクーペの販売台数が減少していたことは容易に想像できる。
4ドアでは得られない独特の魅力とは
でも筆者は、2ドアクーペには4ドアにはない良さがあると信じている。2人乗りの所有歴はないものの、4/5人乗りクーペは現在の愛車であるルノー「アヴァンタイム」を含め3台と付き合っており、独特の世界観に魅せられているひとりであるからだ。
車内の広さというと、後席のスペースを指すことが多い。逆に前席は、スポーティさを出すべくタイトに仕立てる例が目立つ。しかし、2ドアクーペのドアを開ければ、そうではないことに気づくはず。そこには前席優先の空間が広がっているからだ。この開放感、一度味わってしまうとなかなか離れることができない。
しかも、ドアを開けると前後どちらの席にもアクセスできる。後席に人が乗る場合は前席の背もたれを倒さなければならないけれど、荷物を置くだけならそのままでいい。狭い場所では長いドアが開け閉めしにくく、乗り降りしにくいという声もある。それに対しては、愛車アヴァンタイムのようにドアヒンジをダブルとして、前方にせり出しながら開く手法があることをお伝えしておこう。
このパッケージングは、流麗なフォルムを生み出すことにも貢献している。4ドアはどうしても後席の居住性に配慮するから、クーペと名乗っていてもルーフラインはセダンに近くなる。一方、2人乗りのスポーツカーでは走りを突き詰める結果、全長もキャビンも短くなるので、流れるようなラインは描きにくい。
とはいえ、2ドア4/5シータークーペが無駄にあふれたクルマだという事実は、認めざるを得ない。でも、これはクルマに限った話ではないが、無駄こそ豊かさを感じさせてくれるものなのではないだろうか。カッコよさと使いやすさの両立は、多くの人が望むことかもしれない。ただ、その結果として大事なことを置き去りにしているようなら、それは残念なことである。