「センチュリー」「ミラ トコット」「ジムニー」。最近デビューした日本車は、角ばったボディの持ち主が多い。しかも3台ともに注目を集めている。なぜ四角いクルマが次々に出てきて、どれもスポットが当たっているのか。四角さの理由を探っていくと、たどり着いたのは「日本文化」だった。
馬車と駕籠の時代から続く伝統?
ここ最近発表された日本車に、四角いデザインが多いことに皆さんは気づいているかもしれない。具体的には、6月に21年ぶりのモデルチェンジを果たしたトヨタ自動車の最高級車「センチュリー」、同じ月に登場したダイハツ工業の新型軽自動車「ミラ トコット」、そして、20年ぶりとなるモデルチェンジを発表したばかりのスズキ「ジムニー」および「ジムニーシエラ」の3台だ。
しかも、3台ともに注目を集めている。センチュリーは限られたユーザーのためのクルマだが、昨年の東京モーターショーに参考出展されたときから話題になっていたし、ジムニーは現時点で注文しても納車まで半年待ちといわれる。ミラ トコットは発売から1カ月で月販目標台数の3倍となる約9,000台を受注した。
なぜ四角いクルマに好感を持つ人が多いのか。理由の1つに、丸いクルマが増えたことへの反動があるのは確実だろう。
欧州車にはダイナミックな造形が多い
自動車づくりの先輩である欧州や米国は、乗用車については動物に例えることが多く、前後のフェンダーを盛り上げたりして、抑揚の強いダイナミックなデザインを取り入れがちだ。確かにクルマも疾走する物体であるから、こうしたイメージには納得できる。
日本の乗用車は、欧米のカーデザインを参考にしながら進化してきた。海外での販売が重要になっている車種も多い。グローバルな嗜好を盛り込むことは大切だ。こうして日本車も、多くの車種が欧米と同じようにダイナミックなフォルムをまとうようになった。
しかしながら、多くの人が長い間、木造住宅で暮らしてきた日本人は、欧米人より水平・垂直のデザインに親しみを持つ人が多いような気もする。
そもそも乗り物がそうだった。今から200年ほど前、欧州の人たちが移動に馬車を使っていた頃、日本では人間が担ぐ駕籠(かご)が主役だった。両者のデザインを比べると、フェンダーなどに優雅なカーブを取り入れていた馬車に対し、駕籠は担ぎ棒を含めて直線と平面で構成されたものが多かった。
日本の風土が生み出した四角いクルマ
日本市場はこれまでも、欧米と比べて四角い乗用車が多かった。特にミニバンでは、かつては背が低く流麗なスタイリングの車種も人気があったが、現在の主役はトヨタ「アルファード」や日産自動車「セレナ」など、背が高い箱型の車種だ。軽自動車のハイトワゴンにも同じようなことがいえる。
欧米に比べ日本では、自動車で移動する距離が短い。しかも、“ウサギ小屋”と称されるように狭い家に住む人が多い。道路も狭い。これが、乗り降りしやすく、車内が広々としていて、車体の見切りがしやすい箱型のミニバンなどを求める気持ちにつながったのではないだろうか。
しかも我が国は、欧州と比べて平均速度が低いから、高速域での空気抵抗を重視する必要性も相対的に高くないので、低く滑らかなスタイリングにこだわる必要もない。こうして考えてくると、四角いクルマは日本の風土が生み出した文化的な特徴ではないか、と思えてくる。
センチュリーに盛り込まれた「几帳面」な造形
しかし、センチュリー、ミラ トコット、ジムニー(ジムニーシエラを含む)の3台が四角いボディを採用した理由は、ほかにもありそうだ。
センチュリーのモデルチェンジを一言でいえば、“継承”だ。顔つき、横からの眺め、後ろ姿と、どこから見てもセンチュリー以外の何物でもない。多くの日本車が、移り気な日本人の気持ちを反映するように、モデルチェンジのたびに形を変えたがるところを見てきているだけに、センチュリーのブレない造形は尊敬に値する。
それでいて、細部には新しいディテールを盛り込んでいる。例えばボディサイドのキャラクターラインを見ると、ショルダー部のキャラクターラインには並んで走る2本の線を“角”として研ぎ出し、その隙間の面を1本の線として際立たせることで高い格調を与えている。これには、平安時代の屏障具(へいしょうぐ)の柱にあしらわれた面処理の技法を採用した。
この技法、実は「几帳面」と呼ばれる。我々が日頃、何げなく使う几帳面という言葉の語源はここにあったのだ。
トコットの四角さは「エフォートレス」のため
一方のミラ トコットは、新型車なので継承する伝統はない。では、角に丸みを入れたスクエアなフォルムの理由は何かというと「エフォートレス」、つまり、肩ひじ張らないクルマを目指して、女性社員のチームが開発したのだという。確かに、クルマに速さや勢いを求める気持ちは、男性の方が強そうだ。
でも実車を見ると、男性を含めて幅広いユーザーに受け入れられそうな、シンプルかつニュートラルなスタイリングだと思った。多くのクルマがダイナミック方向に向いているからこそ、個性的に映る。
ちなみに、ミラ トコットにはベーシックな仕様のほか、サイドシル(ドアの下側にあるフレーム)を白で塗装したり、グリルやドアにクロームメッキのモールを入れたりした、アナザースタイルパッケージの用意もある。これらは、ベースモデルがシンプルすぎて不安に思った男性社員が追加したものだというが、個人的にはベースモデルのほうがコンセプトを体現しており、好感を抱いた。
ジムニーの四角さは「ハスラー」あってこそ
最後に紹介するジムニーの場合は、チーフエンジニアに聞いたところ、「ハスラー」の登場が大きいと語っていた。ハスラーのほか、「イグニス」や「クロスビー」といった商品も持つスズキでは、SUVのラインアップの中で役割分担ができるようになり、ジムニーのデザインも2代目のような機能重視に戻したという。
最近まで販売していた3代目ジムニーは逆に、角を丸めたフォルムにボディ同色バンパーを備え、乗用車に近づけたような装いだったことを覚えている読者もいるだろう。3代目がデビューした20年前は、舗装路重視の乗用車的なSUVが増えはじめ、流行する兆しがあった。ジムニーも時代に乗り遅れまいと、このようなデザインに転換したのかもしれない。
しかし、それから20年が経過して、前述の兆しは現実になり、さまざまなブランドが乗用車的なSUVを送り出した。むしろ今では、四角いほうが個性的だし、ヘビーデューティSUVらしく見える。こうした読みも入っているかもしれない。
乗って感じた四角の恩恵
筆者は最近、これらの四角いクルマ3台に相次いで乗ることができた。実車を前にして感じたのは、どれも真横から見たプロポーションのバランスが取れていることだ。3台のデザインが練りこまれたものであることが分かった。
走り出すと、取り回しのしやすさに感心する。ミラ トコットはもちろん、全長5,335mm、全幅1,930mmという巨体のセンチュリーでさえそう思うのだから、スクエアなデザインが、いかに車体の見切りに効いているかが分かるだろう。ジムニーの四角さは、木や岩を避けながら進むオフロードコースでありがたかった。
前にも書いたように、四角いクルマは日本独自の文化から生まれたカタチだと考えている。欧米のダイナミック路線に影響されることなく、これを日本らしさとしてグローバルに打ち出しても良いのではないかと思う。