クルママニアの安東弘樹さんと話していると、しばしば「クルマの上質感」が話題になる。例えば、安東さんが買おうかどうか悩んでいる「MINI」(ミニ)の「クラブマン」というクルマでいえば、後席ドアの閉まる音すらも上質だと感じるのだそうだ。
ミニというブランドの、何が安東さんに訴えかけるのか。同ブランドはBMW傘下なので、BMWの100%子会社であるビー・エム・ダブリュー株式会社を一緒に訪れ、安東さんに取材してもらった。対応してくれたのは、BMWブランド・マネジメント・ディビジョン プロダクト・マーケティングでプロダクト・マネージャーを務める丹羽智彦さんと広報部製品広報マネージャーの前田雅彦さんだ。
クルマ選びを左右する質感の問題
ビー・エム・ダブリューの丹羽智彦さん(以下、丹):ミニの上質さって、どういうところでお感じになるんですか?
安東弘樹さん(以下:安):ドアヒンジ(※)1つとってもそうですし、ドアの質感とか、特に後席を私はよく見ていて。前席は、最近の日本車も頑張っているんですけどね。例えばヒンジの鍛造、前は鍛造だけど後ろは違うとか、マニアックな所を見るので、やっぱり、そこは質感に表れてくるじゃないですか。
※編集部注:ドアヒンジとは、ドアとクルマをくっつけている部品のこと
安:装備なんかは「アテンザ」(マツダのフラッグシップ車。安東さんは先日、新型を試乗した)も頑張っていて、自分としては必須のシートベンチレーション(背もたれと座面の広範囲に小さな吸い出し口があり、空気の流れを作ってくれる機能のこと)が付いたし、値段も割安なんですけど、ステアリングの取り付け剛性だとか、後席ドアの重厚感とかって、どうしてもかなわない部分が国産車にはあって。
安:例えばベンチレーションなんかは、前々から「付けてください」とマツダさんにはいっていて、「安東さんのために付けたので、責任もって買ってください」と冗談でいわれたくらいなんですけど、じゃあアテンザを選ぶかというと、やっぱり、ミニの質感を捨てられないというか。
実際のところは分かりませんけど、ぶつかるとか、いざという時に、あのドアなら衝撃を避けられるんじゃないかなと思ったりもします。やっぱり、NCAP(自動車の安全性能を比較評価する自動車アセスメントのこと。星の数で評価する)だけでは、分からないじゃないですか。星の数とリアルワールドは違うと思うので。そういう意味でも、ミニの質感の高さが捨てられないんですよ。
安:一番知りたいのは、簡単にいうと、何がそう感じさせるのかということ。あの高品質感、重厚感、例えばドアを閉めた時の「ガチッ!」という音もそうだし、それはドアの自重ではないと思うんですけど。
丹:ドアの部分に関しては、たぶんBMWも同じで、グループとしてのポリシーだと思うんですけど、ヨーロッパで走るクルマとしては、「低速域でぶつかったから大丈夫だった、高速域ではダメだった」では許されないので、重厚感を持たせていると思います。
あと、見てもらえば分かりますが、純粋にドアが分厚いんですよ。そこも、質感としては当然、出てきます。ただ、一部のお客様には「重いよね、ドアが」といわれてしまうんですけど、その部分を分かっていただければ。
安:5年ほど前、会社の同期が小さいクルマを買いたいというので、一緒にいろいろとクルマを見たんですね。「ポロ」(フォルクスワーゲン)とか「マーチ」(日産自動車)、「ヴィッツ」(トヨタ自動車)なんかを見ていて、彼は「ポロはドアが重くてヤダ。日本車は軽くていい」っていってて、最初はそっちに傾いてたんですけど、彼は軟派な奴なんで、「女の子には輸入車の方がアピールできるんじゃない?」っていったら、「えっ、そうなの!?」ってことで、結局は輸入車を買ったんですけど。
で、2年くらい乗った後、次のクルマはどうしようって話になって、また見て回ったんですよ。そしたら、今度は日本車のドアに「うわ、こんな軽いの!?」となって、そこで気づくんですよね。2年乗って初めて、重い方が安心感があると気づく。こういう部分って、所有してみて初めて分かる部分なんだなと感じたんですけど、ミニではどうやってお客さんに訴求してるんですか?
丹:国産からミニへの買い替えを検討されるお客様は、どうしても国産のマインドセットでいらっしゃいますよね。安東さんの話ではないんですけど、そういうところって、国産の強さでもあると認知はしています。ただ、輸入車では別のところを見ていただけるよう、重厚感などは説明することにしています。
安:どのくらい伝わるものなんですか。
丹:最初は、そう簡単ではないと思いますね。
安:彼(ポロを買った同期の方)も「モテるよ」といわなければ、日本車を買ってたと思いますよ。だから、「ステータスシンボルは必要ない」という人に、輸入車を勧めるのって結構、難しいですよね。
丹:例えば、「走ってて楽しい」って分かりにくいんですよ。実際はいろんな要素が絡んでいて、最後に感触として「楽しい」と分かるんですが、では具体的に、という説明が難しいところで。そこは、メーカーとしても考えるべきポイントかなと思います。特にミニは、国産から結構、お客様が入っていらっしゃるので。そこは強化しなければいけないし、試行錯誤してやっているところです。
ミニは適正価格?
安:あと、知れば知るほど、ミニの価格が適正であることは分かるんですけど、国産車にしか乗ってこなかった人にとってみれば、簡単にいうと、オプションをいろいろ付けると、同じセグメントの国産車と比べて倍くらいの値段になりますよね?
丹:ですね。同じ値段で2つくらい上のセグメントの国産車が買えるので、「なぜミニを買うの?」とはなってしまいますよね。
安:まさに、ミニとアテンザが同じくらいというか、一方はマツダのフラッグシップなのに、むしろミニの方が高かったんですよ、私の場合。「クラブマン」で、ディーゼルエンジンの「クーパーSD」(というグレードのこと。ディーゼルエンジンを搭載。最初の価格設定は437万円)にして、好きなオプションを満載にすると、税金を含め600万円くらいになってしまって。で、アテンザは全部付けて500万円程度だったんですよ。
安:それでも、私は悩むし、結局、最終的にはミニにしそうな気がするんですね。アテンザもものすごくいいクルマで、マツダの開発の方も「輸入車に何とか(追いつきたい)!」って気持ちを持っているし、マツダの試乗会に行くと、ついつい話が長くなってしまうんですけど。でもやっぱり、「そっちに思い切れない(マツダが海外のプレミアムブランドのような方向性に振り切れない、という意味)のは、ミニのようなブランド力があるかないかなんです」というようなことを、マツダの方もおっしゃっていて。
BMWグループに入りミニは変わったか
安:でも、ミニも最初は大衆車から始まっていますよね? 今はBMWで作っていますけど、そのことって、ブランドイメージに少なからず関係あると思います?
丹:やっぱり今のミニって、先代のミニというか、少し前のモデルに比べると、非常にBMWの部分が入ってますね。どちらかというと、「ゴーカートフィーリング」(ミニの走り味の代名詞となっている言葉)って、前の世代の方が、より感じられるのかなと思うんですけど、そういう意味で少し、クルマとしても、スタイルは変えてますね。
安:正直、ミニとBMWが頭の中で結びついてるお客さんって、どのくらいいらっしゃるんでしょう? ブラッと来たお客さんで。
丹:どうでしょう?
ビー・エム・ダブリューの前田さん(以下、前):半分くらいはいらっしゃるかな?
安:それ(BMWがミニを作っていること)を知ると、値段とか、納得感あるんですかね?
前:良し悪しですけど、BMWが作っているということで、「すごいんだ」とか、「ちゃんとしてるんだ」と思っていただけたり、サービスも安心と思っていただける一方で、ミニのブランドが薄れてしまう懸念もあります。ですから、弊社の中でもブランドは完全に分けていますし、お店も分けてます。例えば、弊社ではミニのオフィスは“ミニっぽく”したりもしています。
丹:そこは、しっかり分けてますね。ロジスティクスなんかは一緒ですけど、ブランドのマーケティング戦略とか、商品ポジショニングとかは完全に別々で、ディーラーさんも別々。でも、BMWの要素はミニにも入れつつやってます。
この後、話題はミニの商品ラインアップへと移っていく。安東さんからは具体的かつマニアックな要望・質問が続出したが、その模様は次回、お伝えしたい。