安東弘樹さんの試乗に同行すると、助手席でいろいろと興味深い話が聞けるのだが、今回のBMW試乗会では、直近で乗ったクルマの印象について尋ねてみた。話題に上ったのはプジョー「508」、ボルボ「V60 クロスカントリー」、ジャガー「I-PACE」の3台だ。
※文と写真はマイナビニュース編集部の藤田が担当しました
プジョー「508」が好印象! 買うならディーゼル
編集部(以下、編):最近、どんなクルマに試乗されましたか?
安東さん(以下、安):プジョーの「508」は、すごく良かったです! 丁度、このあたりの道(BMW「M850i xDrive クーペ」を試乗した芦ノ湖スカイラインのこと)を走ったんですけど、FF(前輪駆動)なのにクルクル曲がりました。小径ステアリングもすごく操作しやすかったし、大きなシフトパドルもあって、変速の反応も良く、面白いクルマでしたね。
編:メルセデス・ベンツの「Cクラス」とか、BMWの「3シリーズ」と同じくらいのクラスに位置するクルマですよね?
安:大きさは同じでも、価格は安いんですよね。しかも、表示価格でほとんどの装備品が付いてます。そう考えると、かなりコストパフォーマンスは高いと思います。
安:ガソリンエンジンは1.6リッターでしたけど、トルクもあって、よく走りました。ただ、買うとしたらディーゼルエンジン(2.0リッターのクリーンディーゼル)ですかね。トルクが400Nm(ニュートンメーター、トルクの単位)と車重を考えたら圧倒的で、むしろ「FF(前輪駆動)で大丈夫かな?」とは思ったんですけど、よく“しつけ”られてました。逆にいえば、“ドーン!”というトルクは、あまり感じなかったんですけど。それと、やはりディーゼルは燃費が魅力ですね。
ガソリンの方が車体は軽いからキビキビ走るんですけど、だからといって、ディーゼルがキビキビしないかというと、決してそうでもなくて。もちろん、ディーゼルの方が重量があるのですが、トルクが相殺してくれていました。
編:人とは違うものが欲しいと思っている方なんかには、ちょっと刺さりそうですよね。
安:しかも、カッコいいんですよね! 5ドアのセダンで、あのカッコよさは……。横から見たシルエットは、そんなに車高が低くないのに伸びやかに見えるし、顔(フロントマスク)も「ガメラ」みたいで嫌いじゃないです。下品になる一歩手前というか。
安:あとは、水平基調のリアビューがいいんですよ、滑らかで。試乗会の前に六本木で見かけたんですけど、「なんだ、このカッコいいクルマ!」と思って目で追っていたら、新しい508でした。なかなか普段、普通のセダンに目を奪われることってないんですけど、リアビューを見ただけでカッコいいと思いましたから。
安:それで運転してみると、数字よりはクルマがコンパクトに感じました。見た目は堂々としているのに、運転してみると小さく感じる。クルマとしては、理想的ですよね。しかし、ステアリングが小さいのがよかったなー! ステアリングが小さいという理由だけではないのですが、とにかくグイグイ曲がるクルマという印象が強力に残っています。
「V60 クロスカントリー」には●●が欲しい
編:ボルボ「V60 クロスカントリー」の試乗会でもお見かけしましたが、いかがでしたか?
安:まあ、「V60」もそうなんですけど、あのクルマのキャラクターには、どうしても、ディーゼルエンジンが合うと思っちゃいますね。残念ながら、ディーゼルエンジンの設定はありませんけど。いいクルマなだけに、そこは残念ですよね。
編:V60よりもクロスカントリーの方がお好きですか?
安:四輪駆動だし、クロスカントリーの方が好きですけど、なおさら、ディーゼルの方が合いますよね。
編:見た目なんですが、あえてV60のままというか、やんちゃな感じを演出せずにクロスカントリーにしたそうです。それについては?
安:いいと思いますね。余計なギミックを入れなかったのは、それはそれでいいと思います。
ジャガーの電気自動車「I-PACE」から感じた熟成
編:それと、ジャガーの電気自動車(EV)「I-PACE」にも乗られたそうですね。最近まで、ジャガーのSUV「F-PACE」に乗っていらっしゃいましたが、ジャガーが作ったEVのSUVはどうでしたか?
安:まず、動力性能は十分なはずなんですけど、この前、テスラの「モデルX」(SUV)に乗ったばかりだったんで……。ゼロヒャク(停止状態から時速100キロまで加速するのに要する時間)がI-PACEは4.8秒なんですけど、モデルXの「P100D」は3.1秒でしたからね! それに乗っちゃってたんで、加速については想定内という感じになってしまいました。
4.8秒だと、私が乗っているポルシェの「911」(カレラ 4S)よりも0.1秒遅いだけなのですが、内燃機関の方が同じタイムだと、音がする分(?)、速く感じますね。加速の質が違うのですが、テスラ級の驚きを知った後だと、I-PACEの加速がスムーズなだけに、おとなしく感じてしまったんでしょうね。
安:内外装は断然、モデルXよりI-PACEの方が洗練されていて好きなんですけど、ただ、ファルコンウィングドア(モデルXの後部座席に付いているドア。羽を広げるように上に向かって開く)ってすごいなーというか、ああいう意外性がI-PACEにはありませんよね。
安:あとは航続距離ですが、フル充電で438キロという説明でしたけど、実質350キロくらいだとしたら、私には短すぎます。いいクルマなんですけど、今すぐに買うかと聞かれたら、買いません。
航続距離が350キロだと私の場合、どうにもなりません。多くの人に話を聞くと、クルマより先に人間の方が休みたくなるそうですが、私の場合、高速道路を500キロ、休憩なしで走ることも結構あるので。それより早く充電が切れてしまうと、「俺より先に休まなくっちゃいけないって、どういうこっちゃ?」って感じになっちゃうんですよね(笑)
編:クルマと体力勝負ですか! ……まあ、確かに、ジャガーと体力勝負をして、安東さんが勝ってしまうとなると、ちょっと困りますよね。
では、外見についてはどうでしょう? 「キャビンフォワード」というらしいですが、I-PACEでは、人が乗る部分(キャビン)がかなり前方まで伸びていますよね。
安:悪くないと思います。全長がそんなになくても、室内は広く感じました。F-PACEより一回り小さいのに、中身は同じくらいという印象です。
編:I-PACEに乗ったあるモータージャーナリストの方が、「さすが、クルマ屋が作ると違うね!」とおっしゃっているのを耳にしたんですけど。
安:あ、それはテスラを念頭に置いて、ということですよね。それはもう、全然、違いますよ。それは間違いないです。
例えば内外装の作りやステアリングのフィーリングなど、熟成されている感じですよね。足に関してもロールは少ないのに硬くない。それって、クルマにとっては理想的じゃないですか。前に乗っていた「アルピナ」なんかも秀逸でしたが、ジャガーもさすがです。そのあたりがやっぱり、モデルXも悪いクルマではないんですけど、バタバタ感というか、熟成が足りない感じはしましたね。I-PACEからは熟成を感じました。