BMW「Z4」の試乗を終えた安東弘樹さん。試乗後の懇談では、ビー・エム・ダブリューでプロダクト・マネジャーを務めるマーク・アンドリュー・アップルトンさんと国境を越えたクルマ談義で盛り上がっていた。安東さんは欧州でカーシェアリングが果たしている役割に感心したようだ。
※文と写真はマイナビニュース編集部の藤田が担当しました
「Z4」のMT導入に期待を寄せる安東さん
安東さん(以下、安):先日、「スープラ」(トヨタ自動車、Z4の兄弟車)にも試乗したのですが、乗った瞬間に「BMWだ」と感じたんです。この2つのクルマですが、味付けにはどんな差があるんですか? パワーユニットは同じですよね。
アップルトンさん(以下、ア):考え方としては、エンジンとプラットフォームが同じで、そこからは、それぞれの道で。
安:サス(サスペンション)も同じ?
ア:僕の理解では、同じサスでも、BMWとトヨタには、それぞれのセッティングがあります。
安:部品としては同じだけど、ということですかね。エンジンをかけた時、車内で聞こえる電子音まで同じだったので、スープラに乗った瞬間、思わず「あ、BMWだ!」といってしまいました(笑)
印象としては、Z4の方が上質だと感じましたが、プライスも違うと思うので、そこはしょうがないんですかね(※)
【※編集部注】「Z4」の価格は566万円~835万円、トヨタ「スープラ」の価格は490万円~690万円。試乗会の時、スープラの価格は明らかになっていなかった。
ア:Z4とスープラでは、セグメントも違うと思います。Z4はプレミアムな感じで、スープラは「レーシング」とか、そういう志向を持ったクルマですから。
安:スープラは改造して乗る人とか、サーキットで乗る人とかに向けたクルマで、BMWはもっと、ラグジュアリーに乗る感じですか?
ア:Z4は最新の安全装備なども充実させています。スープラの場合はもっと、レーシングトラックでの特徴が欲しいんだと思いますけど、Z4は毎日の使いやすさとか、クルマの中の質感の高さなどにこだわりました。
安:今後、Z4にマニュアルトランスミッション(MT)を設定するご予定は?
ア:欧州にはMTがあるんですけど、現時点で日本には導入していません。
安:欧州では設定があるんですね。それは「M40i」(3リッターの直列6気筒エンジンを搭載するモデル)も……。
ア:「20i」(2リッターの直列4気筒エンジンを搭載するモデル)だけです。エントリーモデルだけに設定しています。
安:やっぱり、欧州にはあるんですね……。私はMTが大好きで、今は「911 カレラ 4S」(ポルシェ)の右ハンドルのMTに乗っているんですけど、シフト操作がとにかく好きなんですよ。もちろん、2ペダルのダブルクラッチとかAT(オートマチックトランスミッション)の方が効率がいいのは、分かるんですけど。
ア:自分で操作したいんですね。
安:シフトを変える行為自体が好きなんで。やっぱりスポーツカーは、MTで運転したいというのがあります。
ア:最近は、ATの方が速いですね。
安:もちろん、速いんですけどね(笑)。
安:このZ4で好感をもったポイントは、マニュアルモードにすると、自動でシフトアップしないところ。あくまで操作しないと、シフトポジションはそのまま。そこが良かったです。最近、本気のスポーツカー以外は、回転数が上がって限界が近くなると、その前で自動的にシフトアップしてしまうクルマが多いので、そこに感銘を受けました。
ア:それはよかったです! BMWのカスタマーは「駆けぬける喜び」(BMWが掲げるキャッチコピー)が好きだから、小さな喜びだとしても、それは残しておこうと思いまして。ところで安東さんは、先代のZ4にも乗りましたか?
安:もちろん! 先代には乗ったことがありますし、先々代の「Z4 Mロードスター」は所有していました。
ア:3世代にわたって乗ってみて、何かサマリー(総括)はありますか?
安:Mロードスターを持っていたのは10年前くらいですかね。エンジンは名機といわれる直6(直列6気筒)で、もちろんMTでしたし、すごく楽しかった記憶があります。その後のZ4はラグジュアリーになってきて、ハードトップになり、より重くなりましたよね。まあ、基本的に、Z4が目指すものというか、ゴールは変わってないと思うんですけど……。
全てにおいて「昔がいい」とは思わないんですが、以前のモデルの方が“人間が扱う範囲”が広かったというか、電子デバイスも少なかったですし、こういう所(Z4を試乗した箱根ターンパイクのこと)を走ると、私が乗っていたMロードスターの方が楽しかったかな、とは思いますね。
ア:よりピュアだから、ということですね。
安:ただ、今のクルマも好きだし、年をとって、自分自身の体のセンサーが悪くなっていたりもするので、先進の電子デバイスが入って助かる部分もあるんですけど……ただ、やっぱりMTだけは譲れない。
ア:フッフッフ(笑)
安:そこだけは譲れないんですよね。最大トルクが500ニュートン(ニュートンメーター=Nm、トルクの単位)ですから、運転によってはクラッチが壊れてしまうかもしれないので、(MTを設定しないのは)分かるんです。ただ私は、渋滞の時もMTだと苦にならないんですよ。操作していると楽しいので。
ア:それはすごい!
安:いやな瞬間がない。
ア:私は最近、「アクティブ・クルーズ・コントロール」(ACC)のストップ&ゴー(※)に慣れてきたので、何もしなくていいのが、すごく楽だと思うようになりました。
【※編集部注】ACCはレーダーやカメラで前走車や車線を検知し、クルマが自動で加減速を行い走行するシステム。前走車が停止すると合わせて停止し、走り出すと再び動き出すのがストップ&ゴー機能だ。
安:私の場合、ずっと操作しているのが好きなんですよ。クラッチを踏む、ローギアに入れる、クラッチをつなぐ、という行為を繰り返して、前走車に付いて行くのも好きだったりするので。
ア:私も18歳の時は、MTの方が好きだったんです。クラッチを使わないシフティング「レブマッチング」を練習したりもしました。そのことを父に話したら、怒られたんですけど(笑)
編集部(以下、編):クラッチを踏まなくてもシフト操作ってできるんですか? そういうことを練習している人って、日本にはいるんでしょうか……。
安:私の世代だと、いましたよ。軽トラックに乗って、回転数を合わせて「スコッ!」て感じで。私たちが最後の世代でしょうね。
ア:私の場合は、父が「ビートル」(フォルクスワーゲン)の初代モデルを持っていたんですけど、ギアボックスがシンクロナイズドではなかった(ノンシンクロトランスミッション)ので、ギアチェンジの時はいつも、エンジンの回転数とスピードを合わせて、シフト操作してました。
安:シンクロがあると、回転数の差異をある程度は吸収してくれるんですけど、ノンシンクロの場合、完全に合っていないとギアが入らない。
ア:合ってないと、すごい音がするんですよね。
安:今はシンクロのないMTってないですよね。 まあ今は、燃費もATの方が良好だったりするから、MTは必要ないといえば、必要ないんですけど。
ア:父のビートルを思い出すと、本当に、クルマの進歩って、すごいと思いますよ。ブレーキもハイドロじゃなくて、自転車みたいにケーブルでしたから。力を入れて踏まないと、効きが悪かった。
安:逆に、効きの調節もできたんですけどね。
クルマ好きに国境なし
安:イギリスのご出身ですか?
ア:そう、イギリス出身ですが、ドイツに長く住んでいました。
安:日本に着任されて、日本市場の特別性は感じますか? 例えば、MTのクルマをほとんど運転しないとか。日本の人がどんどん、運転が嫌いになっているように感じていて、日本の若い人の中には、「事故が怖い、スピード違反が怖い、じゃあもう、運転しない」という風に考える人もいるみたいなんですけど、欧州では?
ア:欧州は全然、違うと思います。私の場合ですが、高校生の時は、周りの友達も含め「18歳になったらクルマ」と考えていました。マインドセットが全然違うと思います。東京などを見ていると、状況が少し厳しすぎるといいますか、駐車場のスペースが少なすぎるし、あっても10分300円とかですからね。
安:環境は確かに厳しいですね。私の息子は僕の影響を受けたのかクルマが好きなんですけど、まわりにクルマに興味がある人はほとんどいないそうです。
ア:東京は電車がすごく便利だし、買い物にでもどこへでも行けますね。 クルマには少し前の馬とのアナロジーがあると思います。少し前の人たちは馬を移動のために使っていたけど、今はスポーツで乗る人が多い。だから、将来はクルマも、同じ道をたどるかもしれません。Z4のような“喜びのためのクルマ”が残るかも。
安:なるほど。
喜びといいますか、クルマの楽しさを皆さんに知って欲しいなと思っているんですけど、どうやって伝えたらいいかは、常に悩んでいます。「運転は楽しいですよ」と若い人に伝えるのって、すごく難しい。
ア:最近、欧州で流行しているのはカーシェアリングですね(※)。ミュンヘンにもありました。料金は1分30ユーロセント前後で乗れたりします。乗れるクルマは、BMWだったら「1シリーズ」「ミニ」「X1」とか。
【※編集部注】BMWとダイムラーが展開するカーシェアリングサービス「DriveNow」のこと。HPを見ると、例えばベルリンであれば、1分25ユーロセント、1時間9ユーロから借りられて月額料金は不要だ。乗れるクルマとしては、BMWの「X1」「X2」「2シリーズ」などのほか、電気自動車(EV)「i3」やミニの「3ドア」「5ドア」「クラブマン」などがある。
安:ミニが手軽に、安く借りられたら……私、若い人には、最初にミニに乗って欲しいんですよ!
ア:そうですか(笑)
安:だって、最初に触れるクルマがミニだったら、内外装の質感や、キビキビした走りに絶対に魅了されると思うんです。
ア:将来的には、購入するのではなく、クルマをシェアするという考え方が、増えていくと思います。クルマのコストって、駐車場やメンテナンスを考えると結構、高いので。でも、シェアの仕組みがあれば、少し試すというか、クルマを経験するチャンスが増えますよね。クルマの生活に少しずつ慣れてきたら、次のステップにも進めます。日本にも、すごく合うと思う。
安:そのくらいの価格で、ミニに乗れたらね……。ミニって、日本で買おうと思ったら驚くほど高いので、若い人はなかなか、新車で買えません。なぜ、そんなことをいうかというと、残念ながら、日本の軽自動車やコンパクトカーをシェアで借りたとしても、運転の楽しさやクルマのワクワク感は分からないと思うんですよ。
ア:(苦笑)
安:でもミニなら、絶対に楽しいと思う。
ア:「ゴーカートフィーリング」が楽しめますからね。
安:マークさんはおいくつですか?
ア:27歳です。
安:27歳でも、レブマッチングを練習したりしているところが、ヨーロッパのすごいところですよね。日本の27歳って、ひょっとすると、CVT(無段変速機)のクルマしか運転したことのない人が多いかもしれない。だからみんな、クルマがどういう仕組みで走るのかとか、自分のクルマにシリンダーがいくつ付いているかとか、興味が持てないんですよね。
ア:そういうことを気にしていないかもしれませんね。
安:ちなみに、マークさんが18歳の時、周りの人のクルマに対する関心って、どうでしたか?
ア:男性だったら、70~80%くらいは興味を持っていたと思います。女性だと、もう少し割合は少なかったかもしれませんが、ちゃんと運転はできてましたよ。
安:1980年代くらいまでは、日本も同じようなシチュエーションだったんですけどね。ところが、90年代くらいから一気に、そういう人たちが減っていって。それって、日本のクルマがAT一色になっていったからではないかと、私は思っているんですけど。なんで、日本ではこうなったのかなー。
ア:日本には、ミニバンもすごく多いですね。MPV(マルチ・パーパス・ビークル)というか。1台のクルマにたくさんの機能を求めるということですかね。
安:スライドドアに慣れちゃうとね……。
こういう所(箱根の山道)に来てZ4を運転してもらえば、日本の若者にも運転の楽しさが分かってもらえると思うんですけど、やっぱり若者にZ4は買えないし。
ア:それに、乗ってみるチャンスも少ないですね。若い人たちもディーラーには行けるでしょうけど、無料で、購入するつもりがないのに試乗するのって、たぶん、少し“変”な気持ちになる。
安:コラムでいつも書いてるんですけど、若い人たちには、クルマを買わなくてもいいから、試乗してみて欲しいと思っているんですよ。いつかはZ4が欲しいとか、そういう気持ちになってもらうためにも、ディーラーに行って、運転してみてもらうことが重要なんですけどね。
ディーラー側も、若い人が来た時に、「どうせこいつ、買わないから」という態度で対応するのは、絶対にダメですよね。将来のカスタマーという気持ちで迎えて欲しい。特に輸入車のディーラーなんかは、ハードルが高く見えるので、スタッフの対応がとても重要です。
実は私、20代の時に初めて、赤坂にある「アルピナ」のショールームに行ったんです。社長がニコ・ローレケさんというドイツの方で、たまたま、その時にいらっしゃって、Tシャツとデニムの私を、とても優しい笑顔で迎えてくれました。
もちろん、アルピナは高価なクルマで、ショールームも格調が高い雰囲気なのですが、社長だけではなくほかのスタッフの方も、とにかくフレンドリーで。その時はアルピナを買えるわけもないのですが、ただ、スタッフと楽しくクルマの話をしたんです。だからこそ、その数年後、32歳になった時、無理してローンを組んでアルピナの「B3」を買って、結果的には計3台、B3を乗り継ぎました。全てカブリオレのMTです(笑)
MTモデルが無くなったので、アルピナからは離れましたが、ニコさんとは今も、クリスマス・カードをやり取りする関係が続いています。「安東さんが歳をとって、MTに乗れなくなるのを待っています」とジョークが書いてあることもありました(笑)。その度に、いつかまたアルピナに戻ろう、と思う自分がいますからね。
ア:ディーラーはすごく大事です、お客様とクルマの最後のコネクションだから。
編:カーシェアが普及すれば、ディーラーに行かなくても、いろいろなクルマに乗ってみることができるんですけどね。
ア:そうですね。週末に遠出したりする時、簡単にクルマを使えれば、いろんなモデルを比べられます。安いクルマと高級感のあるクルマを比べてみることができれば、例えばシートの固さとか、インテリアデザインなんかについても、違いを知ることができる。
安:日本でも、メーカーやインポーターがカーシェアを大々的にやってくれればいいんですけど。
ア:東京の問題として、例えば駐車スペースが少ないと思います。ドイツだと、政府が駐車スペースを持っていて、カーシェアの会社は政府と契約することで、その場所を駐車場として使えるようになります。
私はミュンヘンに行く時、空港から都心まで、BMWのカーシェアを使うことがあります。アプリを開けば、使えるクルマが画面に出てくるんですけど……(スマートフォンを操作し始める)。
安:そういう仕組み、すごく大事ですね。
編:駐車する場所がないかもしれないって思いながら運転するのって、不安ですもんね。
ア:それは、いらいらしますよね。
安:しかも、カーシェアだと、慣れてないクルマだから、余計にね。
ア:(「DriveNow」のアプリをスマホで見せつつ)これがミュンヘン。BMWとメルセデス・ベンツのクルマが出てきます。タッチすると、クルマの名前が出てくる。これはミニの「5ドア」。
安:ブランカ? クルマに名前がついているんですね(※)。
【※編集部注】人間のように、1台1台のクルマに名前が付いている。画面に表示されていた5ドアの名前は「ブランカ」だった。
ア:そう。これはi3。
安:ミニにカーシェアで乗れたら、嬉しいと思うなー。それに、運転に慣れていない人にしてみれば、いきなりBMWの「5シリーズ」とかに乗るのは、気が引けるだろうし。
編:むしろ、気が重いですよ(笑)
ア:大学生の時にカーシェアを使い始めたんですが、i3に乗って、すごく感動したことがあります。初めてのEVだったんですけど、ワンペダル操作も新鮮で、本当に素晴らしかった。
安:僕らは仕事でさまざまなEVに乗る機会がありますが、一般の人には、なかなか乗る機会がないですもんね。それは素晴らしい。
ア:それに、ユーザーとしては、料金を払えることで、少し安心できます。自動車保険も付いていますし。
編:ディーラーで無料で乗るのとは、気持ちが違いますよね。
ア:そうそう、買うつもりがないのに乗るのとは違う。まさにウィンウィンですね。
編:BMWとダイムラーが組んで展開しているのもすごいですよね。トヨタとホンダが組んだようなもので。
安:メルセデスの「Aクラス」あたりも、カーシェアで乗れるんですか。
ア:あるいは「スマート」とか。ヨーロッパではBMWとダイムラーは競合関係のように見られますが、世界的にカーシェアを展開するとなれば、ドイツの力を一緒にした方がいい。
カーシェアが普及することは、地域にとってもプラスになる場合があります。なぜなら、クルマは普通、一日の90%以上を停車した状態で過ごしますが、カーシェアだと稼働率が上がる。それでクルマの台数自体が減れば、渋滞が少なくなったりします。
安:そうかー。
経験することって、最も大事ですよね。クルマに乗ることで初めて、欲しいとか、もっと乗りたいという風に考えるわけですから。道を走っているクルマを見ているだけだと、「お金持ちがBMWに乗ってる」と思うだけで終わるかもしれませんし、下手をすると、BMWの印象が悪くなってしまう(笑)。だけど、自分で乗ってみれば、快適だとかスポーティーであるといったような印象を抱いて、BMWが好きになるかもしれない。そういう人は、すぐには無理でも、いつかはBMWを買うかもしれないですし。そういうアプローチって、あるのとないのとでは、全然違いますね。
クルマ好きであれば、世代が違っても生まれ育った場所が違っても、話は盛り上がる。それを目の当たりにした安東さんとアップルトンさんの懇談だった。Z4の試乗を終えた安東さんが次に乗るのは、BMW「8シリーズ」だ。