BMWが開催した「Z4」と「8シリーズ クーペ」の試乗会に参加した安東弘樹さん。まずは「Z4」に乗り込み、試乗会の拠点となった箱根ターンパイクの「アネスト岩田スカイラウンジ」(神奈川県)から西湘バイパスを目指した。BMW製オープンカーの最新作に、安東さんは何を感じたのだろうか。
※文と写真はマイナビニュース編集部の藤田が担当しました
Z4は2人乗りのオープンカー(ロードスター)で、ボディサイズは全長4,335mm、全幅1,865mm、全高1,305mm。ホイールベースは2,470mmと短く、曲がりやすく俊敏なクルマに仕上がっているという。今回、安東さんが試乗したのはZ4の「M40i」というグレード。3リッターの直列6気筒エンジンは最高出力340ps(5,000rpm)、最大トルク500Nm(1,600~4,500rpm)を発生する。
トヨタ自動車がBMWと共同開発した新型「スープラ」は、Z4の兄弟車という位置づけとなる。具体的には、トヨタがZ4のプラットフォームとパワートレインを用いて作ったのが新しいスープラだ。安東さんは以前、袖ヶ浦フォレストレースウェイ(千葉県)でスープラを試乗しているので、両者の違いについても聞いてみた。
安定感のある走りに納得、クーペとしても乗れる?
安東さん(以下、安):(屋根を開けた状態で箱根ターンパイクを走り出しつつ)安定してるなー! 路面に吸い付くような感じです。味付けの問題なんでしょうけど、スープラに比べて“どしっ”としてますね。ステアリングはスープラより太くて、太さに賛否はあると思いますが、重厚感があります。
シフト表示(ドライブなら「D」、パーキングなら「P」といったように、メーターに出る表示)は小さいかな。ステアリングに隠れて見えなくなる時もあるので、もう少し大きくして欲しいです。
編集部(以下、編):(安東さんの好きな)マニュアルトランスミッション(MT)ではないですが、それについては? 安:そこは、スープラと同じですね。ただ、2リッターにはありそう。MTを設定するとしたら2リッターでしょうね(※)。
【※編集部注】試乗したのは3リッターの直列6気筒エンジンを積む「Z4 M40i」というモデル。本国では2リッターエンジンのモデルにMTの設定があるとのこと。
編:3リッターでMTが理想的ですか?
安:でも、トルクを考えると、このクルマは500ニュートンメーター(Nm=トルクの単位)だしなー……。「ダッジ・バイパー」なんかは800NmクラスでもMTですけど(笑)。「アルピナ」も、初めて500Nmを超えたときに、MTがなくなりましたね。やっぱり、慣れない人が運転すると……。
編:ハイトルクなクルマを下手な人がMTで運転すると、トランスミッションへの負担が大きそうですね。
安:特に、シフトダウン時ですよね。
編:座った感じはいかがですか?
安:シートはいいですね。特に背中の感じ、非常にいいです。座面長も調節できますし(※)。
【※編集部注】Z4のシートは、座面を前方(膝の方向)に伸ばすことができる。
編:座面が短いと、腿でしっかり支えられなくてつらい、ということですか?
安:特に私の場合、長時間クルマを運転するので。
編:安東さんは先代までの「Z4」にも乗ったことがあるんですか?
安:もちろん! 前の前のモデル「Z4Mロードスター」を持っていたくらいなので。今の「911」の前に乗ってましたね。
編:今の911の枠(※)、つまりはスポーツカー枠がMロードスターだった。
安:そうです。
【※編集部注】安東さんは現在、メルセデス・ベンツ「E220d 4MATIC オールテレイン」とポルシェ「911 カレラ 4S」を所有している
安:(屋根を閉じて)静かだなー。
編:このクルマってオープンカーではありますけど、屋根を閉じれば静かなので、クーペみたいに乗れますよね。
安:本当、そうですね。
編:そうすると、スープラとZ4には、クーペかオープンカーかという差別化ポイントがあったと思うんですけど、その違いも薄まってしまいかねませんね。
安:そうですね……。差別化できるとしたら、あとは価格かなー。
編:それと、スープラだったらトヨタのディーラーで買える。
安:そうですね、トヨタディーラーで買えるBMWということになりますね。
試乗の終盤に安東さんを歓喜させた「Z4」のシフト制御
編:乗ってみて感じたスープラとZ4の違いについて、改めてお聞きしたいんですけど。
安:まあでも、やっぱり“足(まわり)”なんじゃないですかね。Z4は、お金をかけている感じがします。ただ、サーキットで乗ったスープラと公道で乗っているZ4では、純粋には比べられませんけど。
編:Z4の乗り心地は、硬いですか?
安:全然、不快ではない硬さですけどね。ちょうど今、西湘バイパス名物の継ぎ目(※)のところですけど、全然、いやな感じがない。
【※編集部注】西湘バイパスは路面に断続的な継ぎ目があって、クルマで走っていると「ガタン……ガタン……」という感じで突き上げが続く。
編:オープンカーの屋根には、ソフトトップ(ファブリックの屋根)とハードトップ(金属の屋根)がありますが、ソフトトップの方が好きですか? 屋根が軽い分、軽量化とか低重心に効いてくると聞きますが。
安:と、思いますけどね。それに、これだけ遮音性があれば、ソフトトップでも十分ですし。あとは、デザインですよね。それと、ハードトップのカブリオレの方が、むしろ上屋が重い分、走っている時にゴムが擦れるのかギシギシいうんですよ。それが、ちょっと不快かな。
編:なるほど。では、最近、「モデルX」(テスラ)や「I-PACE」(ジャガー)など、加速力に定評のある電気自動車(EV)に乗られているかと思うんですが、Z4で内燃機関の加速を改めて味わってみて、モーターとエンジンの加速の違いについてはどのように感じますか?
安:そこと比べると、やっぱり、内燃機関の方がワンテンポ遅れますよね。どうしても、ガスペダルを踏む、エンジンが回る、Z4の様にFR(フロントエンジン・リアドライブ)の場合、その力がプロペラシャフトを通ってリアディファレンシャル経由でドライブシャフト、そこでやっとタイヤに動力が伝わる、というプロセスを踏むので。電気はモーターが直接、タイヤを動かすイメージなので、アクセルを踏んだ瞬間に「ドーン」って感じですから。
編:ただ、そのプロセスを思い浮かべながら運転できる安東さんみたいな人にとってみれば、それはそれで楽しい?
安:正にそうですね!
編:この間、アストンマーティンの「DB11」に試乗されてましたけど、比べるとどうですか?
安:そこまで爆発的なパワーはないんですけど、Z4の方が洗練された感じですね。トルクでいうと、向こうは600Nmの後半でしたもんね? こっちは500だから……。ただ、向こうもメルセデス・ベンツのエンジンを搭載しているので、洗練されていないというよりは、荒々しさを演出してるんだと思いますけどね。
(ここで、安東さんがハーマン・カードンのオーディオをオンに)
編:遮音性が高いこともあってか、いい感じで音楽が聴こえてきますね。
安:そうですね。そこもクローズドクーペと比べて遜色ないですね。
編:クーペとは違う、オープンカーの魅力というのも、厳然としてありますよね?
安:それはそうです。ただ、僕は前に乗っていた「Z4」(先々代)を最後にオープンカーをやめちゃったんですよ。加齢のせいか(笑)、オープンカーに乗った後、皮膚が赤くなるようになっちゃったんで。それがなければ、今でも欲しいと思いますけどね。
編:年齢に応じたクルマ選びというのもありますかね?
安:うーん……。そうですね、子供が独立してからオープンカーに乗るのは良いかもしれないですね。しゃかりきに飛ばすこともなく、みたいな乗り方で。
編:安東さんって、クルマを選ぶ時にご自身の年齢を考慮しますか? 年齢を重ねるに応じて、クルマの趣味が変わってきたとか。
安:僕には全く、そういう視点はないですね。趣味の変化も、今のところないです。
安:(試乗の終盤、箱根ターンパイクの山道を登りつつ)これ、マニュアルモードだと、自動でシフトアップしないんですね(※)。これはいいな! エンジンの回転数が上がりすぎると、自動でシフトアップしてしまうクルマが多いですから。
【※編集部注】Z4はATのクルマだが、安東さんはパドルシフトを指で操作してシフトチェンジを行う「マニュアルモード」で運転している。アクセルを踏んでエンジンの回転数を上げると、シフトパドルによるシフトアップの操作を行わなくても、自動的にシフトアップするクルマが多い中で、Z4は勝手にシフトを変えることなく、あくまで選択をドライバーに委ねる。それを安東さんは喜んでいる。
安:面白い。これいいな! 好感が持てますね。
編:何がそんなに気に入ったんですか?
安:自動でシフトアップしてしまうと、「あとちょっと(エンジンが)回るのに!」という時が、あるんですよ。例えばコーナーの立ち上がりなどで、「もうちょっと引っ張ってからシフトアップしたいのに、勝手にシフトアップしてしまう!」「あと200回転、回せるのに!」って感じなんですけど。
そういうクルマって、シフトダウンの時も相当なマージンを取るので、(パドルやシフトノブでシフトダウンの)操作をしても、受け付けてくれない時があります。「3速より2速の方がダッシュできるのに、それができない!」みたいな(※)。
【※編集部注】回転数が高すぎる時、手動操作でシフトダウンを行おうとしても、下のギアに入るとさらに回転数が上がってしまうので、操作を受け付けてくれないクルマが多い、ということ。例えばコーナーを抜ける時など、前もって低いギアに入れておいて、立ち上がりで鋭く加速したい、というようなシーンがあっても、シフトダウンの操作をクルマが受け付けてくれないと、それができない。
編:つまり、回転数というものについて理解していて、それを自分でコントロールしたいというドライバーにとってみれば、自動でシフトの上げ下げをしてくれる機能は、ない方がいいということですか?
安:少なくとも、私にとっては。この速度であれば、何回転までは大丈夫っていうのがあるんで。その代わり、限界を見誤ると、エンジンやトランスミッションが壊れちゃいますけどね。このZ4も無茶なシフトダウンは受け付けないので、そこは安心です。
助手席で試乗を体験した感想としては、箱根の曲がりくねった山道を(法定速度内の)結構な速度で曲がっている時も、恐怖感を覚えずに済んだところが印象的だった。クルマの完成度が高いのか、例えば右折時には左側に体が持っていかれる「ロール」という現象も、ほとんど感じなかった。「結構、速く走るし、マニュアルモードだと自動でシフトアップをしないし、いいクルマです。オープン2シーターが欲しくて、予算が許す人には誰にでも勧められると思います。MTだったら、もっと楽しめそうですけどね!」との感想を残し、安東さんはZ4の試乗を終えたのだった。