全部で10台近くに乗った今回の日本自動車輸入組合(JAIA)試乗会で、安東弘樹さんが「最も楽しみにしていた」と語ったクルマがテスラのSUV「モデルX」だ。マニュアルトランスミッション(MT)車のシフト操作に悦びを感じると常々話す安東さんだけに、電気自動車(EV)に注目していたことは少々意外だったのだが、実際に乗ってみて、モデルXにどのような印象を抱いたのだろうか。そして、急速に進むクルマの電動化について、クルママニアは何を思うのか。
※文と写真はNewsInsight編集部の藤田が担当しました
気になるのは航続距離? 安東弘樹はEVを買うのか
安東さん(以下、安):(走り出してすぐ)以前、テスラの「モデルS」(セダンタイプのEV)に乗ったことがあるので、想定内ではあるんですけど、やっぱり加速はすごいですね! 異次元というか。
編集部(以下、編):“ゼロヒャク加速”が3.1秒だそうです。
安:それって完全にスーパースポーツカーのレベルですよね(笑)
安:シフトレバーの場所がメルセデス・ベンツと同じものが同じ位置(ハンドルの右側に付いている)に付いているんですけど、ステアリングから手を離さずに操作できるというのは、一度経験してしまうと便利ですね。あと、画面(17インチの大型タッチスクリーン)が相変わらず、でかいなー!
クルマのサイズは全長が5m超で幅が2,070mmだから、立体駐車場とかだと、まずとめられないでしょうね。このクルマ、いくらでしたっけ?
編:テスラのサイトで「新車カスタムオーダー」っていうのを試してみたんですが、この「P100D」が1,780万円からで、「100D」というグレードが1,280万円からでした。
安:グレードによって500万円も違うんですか! 標準で付いている装備も違うんだろうな……。
編:100Dだとゼロヒャク加速は4.9秒だそうです。
安:十分、速いです(笑)。いや、3.1秒という性能はいらないので、買うとしたら100Dですね。
安:普通に運転していると、モーターブレーキだけで十分ですね、今、普通だったらシフトダウンするようなシーンでしたが、アクセルペダルを戻すだけで「ギューン」って減速しましたもんね。ワンペダルでも結構、運転できそうです。確か、回生の程度も選べるはずですよね(※)。
※編集部注:EVではアクセルペダルを戻すとモーターによる「回生」が働き、エンジンブレーキが掛かったような減速が起こる。この減速をうまく活用すれば、ブレーキペダルを踏まずに、アクセルペダルを踏んだり戻したりするだけで、ある程度はクルマを走らせることができる
編:EVは、長距離を乗られる安東さんの場合、航続距離が足りないので、購入検討リストに入らないとの話をお聞きしたことがあります。このクルマだと、1回の充電で542キロ(欧州の燃費評価で用いられるNEDCという基準による)走れるとのことですが、いかがでしょう?
安:私としては、500キロはリアルで走って欲しいんですけど、そんなEVは現状、ないですからね……。最低でも、400キロは走って欲しいなって思います。
EVで運転の悦びを得られるか
編:先ほどのワンペダル走行もそうなんですけど、クルマがEVになると、ドライバーが操作する余地は減りそうな気がします。当然、エンジンを積んでいなければ、ギアチェンジも不要だと思いますし。このあたりについて、安東さんはどう思われます?
安:残念です。正直、それは寂しいですね。
ワンペダル走行にも楽しさはあります。「モデルS」で富士スピードウェイの一部を走ったことがあるんですけど、それはそれで楽しかった。同じクルマですけど、別物として考えれば楽しめるんです。ただ、走行中にシフトダウンしようとして、ついついパドルシフト(手元でシフトを上げ下げできる装備のこと)をたたくような動作をしてしまう自分もいたんですけど(笑)
加速にしたって、さっきポルシェの「ケイマン GTS」に(別媒体の取材で)乗りましたけど、こっち(モデルX)の方がすごいですもんね。ペダルに対してのレスポンスが鋭いというか、比べてしまうと、内燃機関というもの自体の古さも感じなくはないです。
編:クルマが急速に電動化していきそうな情勢ですが、クルママニアとして、内燃機関への郷愁みたいなものって感じます?
安:郷愁という感じではないです。変な話、MT車みたいに運転できるEVが発売にならないかなと思っているくらいなんで。クルマを走らせる原動機がモーターであろうと内燃機関であろうと、操作が面白ければいいんです。
だから、“電気マニュアル車”があったら、楽しいだろうなと思うんですけどね。クラッチも欲しいくらいで……あ、クラッチは意味ないか。まあ、要するにギミックですよね。
編:でも、ギミックだと分かった上で操作するわけですよね? それでも運転を楽しむことができそうですか?
安:うーん…………楽しめないかなー。やっぱり楽しめないですねー、意味がないですもんね。意味ないもんな……。
編:「911 カレラ 4S」に長年、乗ってこられたと思うんですけど、ポルシェが電動化しても構いませんか?
安:それは構わないですね。
編:むしろ、ポルシェが楽しいEVを作ってくれないかな、みたいな期待もありますか? 今度、EVの「タイカン」というクルマが登場するそうですが。
安:そうですね、ドライビングプレジャーをどういうふうに表現するのか……。あと、(プラグインハイブリッド車のある)「パナメーラ」だとかなり車体が大きいんですけど、タイカンはもう少し小さいようなので、そういう意味でも興味あります。
最後まで内燃機関のクルマに乗り続ける?
安:でも、どうしても3ペダル(クラッチの付いたMT車)がいいんだよなー! やっぱり、内燃機関が禁止になるまで、1台は3ペダルを持ち続けようかなと思いましたね。
編:将来的に、この世界のクルマが全てEVになったら別ですけど、そうじゃない限り……。
安:乗るでしょうねー、内燃機関のクルマに。それに、ある程度のバランスも必要ですよね。地球環境的にも、全てがEVになっちゃうと、レアアースの確保の問題とか、発電方法の問題もありますし。だから、内燃機関を積んだクルマとEVって、ある程度は共存した方がいいと思います。内燃機関の効率も、もっと上げてもらって。
編:では、「いつEVを買いますか」と聞かれたら、「それしかなくなったとき」という答えになりますか。
安:そうですね。ただ、内燃機関のMT車が1台あれば、意外と早めに購入するかもしれません。
編:そうすると、最後まで持ち続ける内燃機関のMT車については、厳選することになるでしょうね。
安:はい、やっぱりポルシェかな~。
編:マツダも作り続けそうですよね。
編:「テスラ」についてはどんな印象ですか?
安:やっぱり、新しい価値を提供したという意味では、すごいなと思います。アメリカ西海岸のお金持ちが大勢、これに乗り換えたことで、EVのイメージが変わりましたよね。「ブリキのオモチャ」の様なイメージから、新しくてクールな高級車へ。
編:ご友人で、EVに興味を持っている方っています?
安:いますよ。TBS時代の後輩で、あるテレビ番組の(コーナーの)プロデューサーをやっている人なんですけど、日産の「リーフ」を買ってました。
編:その方って、一般的に言うと富裕層ですか?
安:どこからが富裕層かは難しいですけどね。例えば、1,000万円を超える収入を得ていたとしても、700万円のクルマを見て「こんなに高いクルマを誰が買うんだ!」っていう人もいれば、同じ位の収入で1,000万円のクルマをローンで買う人もいますから。
ちなみに、年収が1000万円以上あっても、実は税金の関係で、せいぜい“一点豪華主義”ができるだけなんですよ。それがクルマなのか、ワインなのか、時計なのか、みたいな感じで、あとは普通の生活ですね。だから、富裕層と思える人って、私の周囲にはあまりいません。ただ、本当に有名な芸能人の方などは別ですけどね。
「モデルX、いいクルマでした。買うとしたら100Dの方ですけど、家族がどう思うかも聞いてみたいですね。これ(P100D)は必要ないかな(笑)」。そんな感想を残してモデルXの試乗を終えた安東さん。おそらく、安東家のガレージにEVが納まる日が来るのは、少し先のことになるだろう。
次回は安東さんがアストンマーティン「DB11」に試乗したときの模様をお伝えしたい。