「MINI」(ミニ)が持つブランド力は「唯一無二」だと語る安東弘樹さん。自動車業界では「電動化」と「自動化」が進み、クルマの無個性化、コモディティ化につながるのではとの見方も出ているが、ミニであれば生き残れるというのが安東さんの考えだ。
クルマがコモディティ化してもミニは生き残る?
編集部:先日、マツダを取材した際にも話題になっていたと思うんですけど、電動化と自動化でクルマがコモディティ化していくとすれば、その時にはブランド力がますます大事になると思います。そういう意味で、「ブランドを売っている」というミニは、いいポジションにいますよね?
安東弘樹さん(以下、安):クルマが「家電」みたいになるじゃないですか。そうすると、普通のメーカーだと生き残れないような気がしていて。
オーディオが分かりやすくて、例えば「バング&オルフセン」とか「ブルメスター」とか、ブランドが確立しているメーカーは永遠に生き残るような気がしますけど、日本のいくつかのオーディオメーカーは、恐らく技術はあったのでしょうが、残念なことになってしまいましたよね。そういう意味でいうと、ミニって生き残るタイプのクルマだと思います。クルマのコモディティ化の話って、ミニとしても何か想定してます?
ビー・エム・ダブリューの丹羽智彦さん(以下、丹):ブランド優先の姿勢は、それ以前からやっているので、コモディティ化の流れになったからといって、急に態度を変えたわけではないですね。そもそも、なぜBMWがミニ(ローバー・グループ)を買収したかといえば、ローバー時代のミニは、ある意味、狭い世界でずっとクルマを作っていたんですけど、それでもファンが付いてきてくれて、そのブランド力に非常に魅力があったからです。ミニには、持っている商品より一回り大きいブランド力があるんです。
安:例えば、マツダさんがNA(初代「ロードスター」)のレストアを始めましたけど、ミニでも……やっぱり、この話は必要ないかな?
丹:あれですよね、ミニをリバイバルするという話ですよね? それをおっしゃる方は、よくいらっしゃいます。ディーラーへ行くと、「そういうこと考えてないの?」とか聞かれたりして。
安:ローバー時代のものは、できないんですもんね。ミニのファンは、ローバー時代のミニを完璧にというか、そういうのをやって欲しいんだろうなとは思いますけど。
うちの弟も実はそうで、中古で「40周年のミニ」(ローバー MINI 40th アニバーサリーリミテッドというクルマのこと)、グリーンの綺麗なのを買ったんですけど、やっぱり、壊れるんですって。で、今は手放して、軽自動車に乗っているんですけど。でもそういうのって、ちょっともったいないですよね。BMWに責任はないんですが。
ライフスタイルの提案でクルマの間口を広げて欲しい
編集部:で、そのブランドの話なんですけど、ミニは最近、「ファッション」や「住まい」といった分野でコラボ(「MINI FASHION」や「MINI LIVING」などという取り組み)するなど、ライフスタイルブランドとしての見せ方をますます強めている印象です。クルマの会社がライフスタイルまで提案するということについて、安東さんはどう思います?
安:アリだと思いますね。私みたいなクルマだけのマニアって、細くは絶対に残っていきますけど、全体としては減っていくと思うんで。だから、クルマの間口を広げるのはアリですよね。例えば、音楽から入る人もいるかもしれないし。実際、歌の歌詞に出てきたという理由からクルマが好きになる人もいるので。
あと、びっっっくりするくらい、周りの人がクルマに興味ないんですよ。だから、こんなにミニバンが増えるんだろうし、「はやく自動運転にならないかな」って声もよく聞きますね。後輩の女性アナウンサーなんか、「自動運転になったらクルマを買う」っていってて、なぜかっていうと、寝てて移動できるからってことなんですよ。
そういう意味でも、いろんなところからアプローチするべきでしょうね。クルマを「寝てて移動できるなら買う」っていう人が増えると、文化的には廃れてしまうと思います。でもまだ、運転の楽しみって、本能的には絶対にあると思っていて。私は初めて買った「シティターボⅡ」(ホンダ)で「ヤビツ峠」(神奈川県にある峠)に行って、運転の楽しさを知ったんですけど。
安:だから、いろんなアプローチがあっていいと思いますよ。最近はドラマですら、運転しているシーンが本当に少ない。バブル時代は多くて、しかも、いろんな価値観がありましたからね。
私が見たドラマでは、主人公の恋敵が「Sクラス」(メルセデス・ベンツ)に乗ってて、主人公の若い人が「N360」(ホンダの軽自動車)に乗ってたんですけど、N360がSクラスより俊敏に駐車場から出るシーンを、わざと上から撮って入れてあったりしたんですよ。絶対、好きな人が撮ってると思うんですけど。
最近の恋愛ドラマとかで、そういうシーンって皆無で、みんな電車に乗ってるじゃないですか。そういう意味で、クルマというものが、一般の社会からなくなりつつあるような気もするんですよね。だから、音楽でも家でも、例えば、こんな建築だったらミニが綺麗に収まるとか、そういう話でもいいし。
丹:とっかかりなんですよね。
編集部:クルマの存在感が、日本でだんだん低くなっているとしたら、そんな中で、ミニが持つ重要性って何でしょうか。
丹:ミニだからこそ重要かといわれると、そこはよく分からないんですけど、そういうメッセージを発信できるのがミニなのだとは思います。そこが、我々の救われているところでもあるんですけど。コラボで新しいアイデアを受け取って、それを世の中に出すことも、ミニのブランドとしては必要です。
安:ミニにしかできないことがあると。
丹:例えば、「くまモン」とコラボしたりとか。
安:いいと思います。クルママニアの中には、そういうコラボに眉をひそめる人もいると思うんですけど、いやいや、そうじゃないでしょと。一昔前の日本のモータースポーツなんかもそうでしたけど、「知らない人は入ってこないで」みたいな。ヨーロッパなんかは違いますよね。どんなに速いクルマを作ったり、魂込めてエンジンを作ったりしても、観る人がいなければ意味ないので。
ミニは「みんなが笑顔になれるブランド」
安:以前、ミニの「コンバーチブル」(R57という型式)に乗ってたんですよ。紫っぽい紺にストライプ、ルーフはブルーで。そのクルマをサービスエリア等に停めておくと、必ず何人かが笑顔でクルマを覗き込んだり、若い女性が友達に「これ、かわいい!」とクルマを見せたり、好意で見てくれるんです。
私はクルマが注目されるのは好きではないので、どちらかといえば「知る人ぞ知る」というクルマを選ぶ傾向が強かったのですが、好きな仕様のクルマに乗っていて、皆が反応してくれて、しかも、それが嫌悪感ではないという体験だったんですね。車種によっては、コンバチ(コンバーチブル、オープンカーのこと)だと、ひと目みて「チッ」という反応もあると思うんですけど、ミニだと、皆が集まってくる。あれはすごい訴求力ですよね。ミニにしかない。
ビー・エム・ダブリューの前田雅彦さん(以下、前):ミニは独特かもしれませんね。うちってあんまり、競合しないじゃないですか。BMWであればメルセデスさんとか、どうしても比べられちゃうんですけど、ミニの場合って、まずフォルクスワーゲンさんと競合することとかないので。強いていえばフランス車ですけど、あちらも「指名買い」(いくつかのクルマを見比べて買うのではなく、そのクルマと最初から決めて買うこと)ですし、ミニもそうなので。
それは、ミニがブランドの価値を高めようとしているからだと思います。今年の「ミラノ・サローネ国際家具見本市」で「MINI LIVING」っていうのをやって、クルマは一切置かずに、ミニのある生活を建築物で表現したんですけど。クルマがなくても、ミニの世界観を感じてもらえるような取り組みを、ちゃんとやってます。それで、ライフスタイルブランドとして確立している部分もありますし。
安:本当、唯一無二。これで格が上がっちゃうと、それもちょっと違うし。振り返られるデザイン、というかブランド力。うちの奥さんが典型的ですけど、ヘリテージも知らない、ノスタルジーもないって人で、ミニの名前すら知らない人でも、そうなんで。
ミニって、みんなが笑顔になれるブランドですよね。ミニのショールームに一緒に行った奥さんの表情を見て痛感しました。
ますます流動性が高まる安東さんのクルマ選び
編集部:で、最後に安東さん、全ての条件を満たすクルマは中々ないというお話でしたが、依然としてミニ「クラブマン」は購入検討リストに残ってますよね? ただ、車庫の問題が浮上したとか、何かいろいろと状況も変化しているみたいですが……
安:そうなんですよ。うちの庭にウッドデッキが付いていたのですが、一度も使っていないので、そこをつぶして3台目の車庫にしようかなと思ってたんですけど、建築法上、できないということが分かりまして。だから、近くで駐車場を借りて3台目を買うのか、買い換えを含め2台体制のままでいくのか(※)、岐路に立っているような状況ですね。
※編集部注:ポルシェ「911 カレラ 4S」とジャガーのSUV「F-PACE」を所有している安東さんだが、仕事にF-PACEで向かうと、特に都内では、大きすぎて駐車場に止められない場合が結構ある。そこで安東さんは、3台目のクルマ選びを進めていた
例えば、ミニをポルシェの代わりに買っても、自分が楽しければ、何の抵抗もないので。それで、もう1台をメルセデスの「オールテレイン」(E220d 4MATICオールテレインのこと)にするとか。オールテレインだと事務所の立体駐車場にも入りますしね。
オールテレインとミニ、MT(マニュアルトランスミッション)があれば「クラブマン」なんですけど、ないので「3ドア」しか選択肢がないのかな、とは思いますね。理想はオールテレインとクラブマンの「ジョンクーパーワークス」(JCW)のMTなんですけど、現実としてないので。そこで、ちょっと浮かんだのが、BMW「M2」のコンペティション……
丹:おー! それもいい話ですね。
前:それはいいですね。
安:またうるさくて申し訳ないんですけど、M2 Competitionで、明るいベージュの内装にシートベンチレーションかシートクーラーが付くと嬉しいのですが。
丹:あー、黒しかないですね。
安:本当は四駆がいいんですけど、でも、400馬力を超えてて、3ペダル(MTのこと)もあるので、ちょっと、いいかなと思ったりしてるんですけど。
丹:あれも楽しいと思いますよ。
安:それに、次もポルシェにすると、予算が倍くらい掛かっちゃうんですよ(笑)
ガレージの問題が浮上した挙句、最後に思わぬ方向から新手が現れたおかげで、安東さんのクルマ選びがどのあたりに落ち着くのかは、全く見当が付かなくなってしまった。
それはさておき、ミニについてはクルマのキャラクターのみならず、そのブランド戦略についても、安東さんは好感を示した。ポップな感じとプレミアム感を併せ持ち、クルマの作りとしてはあくまで上質であることを「後席ドアの閉まる音」からも感じさせる。その独自性がミニの面白さだ。単なる自動車メーカーからライフスタイルブランドへ、という動きは業界で散見されるが、ミニの現在の姿は、その成功例の1つといえるのかもしれない。