「MINI」(ミニ)についてビー・エム・ダブリュー株式会社で取材中の安東弘樹さん。クルマに詳しくない人にも「かわいい!」といわせてしまうミニは、稀有な存在だと感じているそうだ。
ブランドの統一感を大事にするミニ
安東弘樹さん(以下、安):自動車メーカーのブランドショールームが好きで、ミニにもよく行ってるんですけど。
ビー・エム・ダブリューの丹羽智彦さん(以下、丹):何か違います? 他のブランドと。
安:統一感ではミニが一番ですね。行くだけでワクワクします。やっぱり、妻とか息子を連れて行くと、反応が全然ちがうので。うちの妻は普段、ディーラーに行っても全く反応しないんですけど、先日、お台場のショールーム(江東区青海にある「MINI TOKYO BAY」のこと)に行ったとき、第一声で「うわ、かわいい!」っていって、すごく喜んでたんですよ。
安:いるだけで楽しいというのは、やっぱりミニが一番じゃないですかね。しかも、威圧感がなくて、入りやすいし。輸入車ってやっぱり、人によっては敷居が高いという部分があるじゃないですか。有明はオシャレなんで、入る瞬間はちょっと緊張するんですけど、入って、ミニの方に曲がった瞬間(有明の施設はMINIとBMWが隣接している)、一気に「かわいい」というか、そこがすごい。高級感がありながら、親しみやすいというのは、たぶんミニくらいしかないんじゃないですかね。
丹:ミニって、商品以外の部分でブランドを確立しているところがあって。単にクルマを売っているだけではなくて、どちらかといえば、ブランドを売るというメーカーになっているんで。
安:あと、地方にいっても、ミニはCI(コーポレート・アイデンティティ)が完璧じゃないですか。徹底してるのってミニくらいで、うちの近くの「千葉北」(「MINI 千葉北」のこと)も、規模は小さいですけど、お台場をそのまま小さくしただけというか。そこは感心しますね。
ミニが大事にするブランド、プロダクト、ヒト
ビー・エム・ダブリューの前田雅彦さん(以下、前):ミニのビジネスをやっていく上で、大切にしているものが3つあって、1つはブランド、1つはプロダクト、もう1つはヒトなんですよ。ブランドに関しては、ミニの世界観を感じてもらいたいので、店舗も統一させてもらっているし、ブランド観というものもどんどん訴求していこうといってます。
ミニのブランドに関しては、今までは真っ黒で統一して、ライトはピンクだったり黄色だったり、緑だったりと派手めなものをつかってたんですけど、2~3年前からは方向性を少し変えて、お台場なんかは特にそうなんですけど、プレミアム感を高めているというか。ブランドイメージ自体をお客様に飽きられないように、変えたりもしているんです。
安:そのあたりって、どのくらいディーラーさんに任せてるんですか? ある程度は徹底してやっている?
前:うち(ビー・エム・ダブリュー)はドイツ本社から徹底されますし、弊社もディーラーさんに徹底していただいてます。店舗って、家具を変えたりするとお金が掛かるじゃないですか。内装もそうだし。店側としては、あまりやりたくないことでもあると思うんですけど、それよりもやっぱり、ブランドをお客様にキチンと感じて、見ていただくことが重要なので、変えてもらえるようにしていってます。
安:うちの近くって、ありとあらゆる輸入車販売店が並んでて、千葉県なので、都心ほどは(店舗のイメージ統一などが)行き渡るのが早くないんですけど、ミニだけは最初から徹底されてて。変な話、BMWにもできないレベルでできているのがびっくりなんですけど、何か差はあるんですか?
前:それは、同じ温度感でやってるんですけどね。ただ、ミニでは、お客様の目に付くところだけではなくって、サービス工場でも指定のタイルを敷いたりとか、細かくやってますね。
安:それって、ある程度は経済力がないとできないことですよね。そういうのはどっちが払うんですか?
前:基本はディーラーさんですけど、うちももちろん。
丹:多少はサポートしてます。やっぱり、投資は高いんですけど、それによって印象が変わってくるので、そこはディーラーさんにもお願いして。
安:そこまでして守るのが、ブランドなんですね。
丹:そういうブランドだからこそ、これだけの価格でも、お客様にワクワク感を訴求できるので、そこは負けられないポイントです。
ミニの課題は電動化? 個性を守りつつ次世代へ
安:それでは、今後の課題とか目標は?
丹:えーっと、いろいろあります。例えば、電動化の時代にどうするかとか。あと、日本固有の問題としては、本当に、安全性って、自動運転なんかも、日本固有ですごい次元に向かっていて、そこには対応しなければいけませんよね。
ただ、それを一方的にやってしまうと、どうしても運転する楽しさはなくなってきてしまうので、ブランドのバリューとして大切にする部分と、どう折り合いを付けるか。そのあたりが懸念でもあり、やるべきことでもありますね。
安:ミニには今、レベル2のACC(※)は普通に付いてましたっけ?
※編集部注:自動運転レベル2のアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)のこと。高速道路で前のクルマとの車間距離を保ちつつ、一定の速度で走ってくれる機能
丹:普通にではなく、オプションですね。大きいクルマだと、「クーパー」(というグレード)から標準装備にしてますけど。
安:そこのところの要望とかってどうです?
丹:はっきり分かれていて、好きな人は好きですし、嫌いな人の中には「外してくれ」とおっしゃる方もいらっしゃいます。まだ、移行期間なのかなという感じですかね。
安:でも、ミニってどちらかというと……
丹:そうなんです、どちらかというと「運転したい」とおっしゃる方に選んでいただいているので、そこまで他社に合わせる必要があるかどうか。当然、開発コストもかかるんで、それを価格に転嫁できるかというと、そこまでビジネスとして判断できていないので、検討要素ですね。
安:ミニを買う人の割合って、国産車から来るケースと輸入車から来るケースでいえば、どうなんしょう?
丹:国産車からの割合は、少し上がってきてます。まだ輸入車からの方が高いですけど。
安:電気自動車(EV)はまだ、カタログ的には入れてない?
丹:まだないですね。将来的には入れていかなければなりませんが、まだ少し先です。
安:本国では、結構前から……
丹:コミュニケーションしてますよね。欧州では、来年の後半にも市場投入すると聞いてます。
安:私自身、EVのミニにはあまり興味ないんですけど、税制も含め、いいタイミングで入れていかなければならないんでしょうね。フォルクスワーゲンは「e-Golf」(「ゴルフ」のEV)を入れてますけど、まだミニでは、早急にという感じではない?
丹:それが主流になるほど、まだお客様のパーセプションというか、ご興味がそこまで来ていないかなと思います。いつかは来るだろうけど、という感じですね。ただ、最近のいろんなリサーチを見ていると、「次にクルマを買うならEVも候補に入れる」というお客様も増えているようなので、検討の必要はあります。
安:EVにする時に、“ミニはミニ”というか、ライド感は残るんですかね?
丹:それは残すと思います。それをなくしてしまうと、1つの価値をなくしてしまうことになるので。ちなみに、なぜEVのミニには興味がないんですか?
安:航続距離が短いからです。私はひとっ走り1,000キロなんで。だから、私はガソリンもハイブリッドも選択肢に入らないくらいなんですよ。私みたいに、松江(島根県)までひとっ走りという人には、ディーゼル以外の選択肢はないですね。財布だけの話ではなくて、CO2の排出という意味でも、燃費がいいということは、すなわち、ハイブリッドよりもディーゼルの方がいいんです。
日本には少ないタイプだと思いますけど、毎日、最低でも100キロは走るんで。私の「F-PACE」(ジャガーのSUV)は、うまくいけば無給油で900キロ走るんですよ。タンクが60Lと少なめなので、1,000キロは無理だとしても。だから、全部がディーゼルになって欲しいくらい。低速のトルクがあるし、ドライバビリティもいいし、圧倒的に疲れないので。
丹:なるほど。
前:で、安東さんのショッピングカートに今回、「クラブマン」を入れてくれたのは、どういう理由で? 「遊びぐるま」ですか?
安:それは完全に、下手したら、ポルシェの代わりくらいです。ただ、カレラ4S(ポルシェの「911 カレラ 4S」)に乗ってるんで、MTと四駆が必須なんですね。四駆で速いクルマで、MTでサイズ感も丁度いいとなると……。クラブマンに四駆のMTがあれば買ったのになー、とは思ってます。3ドアにはMTの設定があるし、本国にもあるんですけど。
前:もう、本国のサイトを見るのはおよしになっては(笑)
安:でも、私が少数派というのは、よく認識してますんで。私が欲しくなるような仕様が出て、ミニがガレージに入るのを楽しみにしてます。
ミニは現場に気兼ねなく乗っていける稀有なクルマ
安:ミニって、どこに行っても、どんな現場に乗って行っても恥ずかしくなくて、でも威圧感を与えない、稀有なブランドだと思いますね。やっぱり、京都の太秦にポルシェで行く自信はなかった(※)ですもん。
※編集部注:テレビドラマの撮影で、京都の太秦までクルマで出掛けた安東さんだったが、出演者本人がクルマを運転して太秦入りするのは珍しいことらしく、警備の方に「安東です」と名乗ると、「ご本人は乗ってます?」と聞き返されたとのこと。ご本人によれば「オーラないんで(笑)」だそう
安:なんかこう、イメージなのか、局アナ時代の名残なのか、法律があるわけではないんですけど、どういう風に見られるか分からないので。でも、ミニだったら、「おしゃれ」「分かってる!」みたいな感じになるし。
丹:不思議なブランドなんですよね。例えば、メカだったらフェラーリとか、電気だったらテスラとか、そういうブランドみたいに、すごい立ち位置にはいないというか。ミニって、特別なポジションに置いていただいてるんで、そこはありがたいですし、大切にしたいです。
ミニは「どんな現場にでも乗って行けるクルマ」だと安東さんは話す。それはなぜかといえば、やはりミニのブランドイメージによるのだろう。この流れで、安東さんとビー・エム・ダブリューのお二方に、編集部からも質問をぶつけてみた。その模様は、また次回お伝えしたい。