ChatGPTなどの生成AIの登場により、4度目のAIブームが到来したといわれています。
文章や画像、音楽、動画などのコンテンツづくりなどもAIが担うことができるようになり、私たちの働き方やビジネスの世界が大きく変わりつつあります。
今回のAIブームは、過去の一過性のものとは異なり、インターネットやスマートフォンと同じように私たちの生活に不可欠な存在として定着するでしょう。
ビジネスにおけるAI活用も一層進み、AIを活用する企業とそうでない企業の競争力の差は、ますます広がっていきます。
本連載ではAI活用が当たり前になる社会においてこれまで価値を見出されてこなかった「音声」の可能性について紐解いていきます。
今回のテーマは、「音声データを効果的に活用するための仕組みとリスク対策」です。AI時代に、まだ十分に使われていない音声データを活用することは、企業が競争力を高めるための有効な手段となります。
音声データを活用する仕組みづくり
音声データを活用するシステムに求められる要件は、データの収集、蓄積、分析、共有の基盤です。
音声データを収集する環境はすでに整っている
音声データを収集する環境は、実はすでに多くの企業で整っています。なぜなら、パソコンやスマホなど、集音マイクが搭載されているデバイスが広く普及しているためです。特に、オンライン会議の録音ファイルが蓄積されている企業も多いでしょう。
しかし、単に録音ファイルを保存するだけでは不十分です。「いつ、誰と、どのようなテーマで話したのか」というタグ付けを行い、AIが検索や分析ができる構造化されたデータとして保存する必要があります。
すでにある録音ファイルにタグ付けする方法もありますが、その労力よりも、新しく音声データをためるほうが早い場合もあります。会話、会議、商談は日々、あらゆるところで行われているので、日常業務の中で自然にデータを蓄積できる仕組みを整えれば、数カ月で膨大な量の良質な音声データを集めることが可能です。
音声データを3ステップで分析
次に、収集した音声データを可視化、定量分析、定性分析の3ステップで分析します。
・可視化
音声解析結果をもとに、キーワードの出現回数や商談成立までの商談回数、会話時間の推移などを把握することで全体の傾向を理解します。
・定量分析
次に、数値データをもとに分析を行います。例えば、ハイパフォーマーの営業活動のアポイント数や商談回数、商品のアピールポイントを伝えた回数などを分析することで、営業活動の改善点や、次に取るべき具体的なアクションを導き出せるようになります。
・定性分析
例えば、商談で特定のキーワードが増加していることが分かった場合、その背景にある顧客の課題やニーズを深掘りし、それに基づいた営業戦略やトークスクリプトを作成することができます。また、音声データを市場、競合、業界というマクロデータと組み合わせることで、新たなターゲットや市場開拓のヒントが得られます。
AIはデータ分析に優れていますが、その結果をどのように解釈し、仮説を立て、戦略に落とし込むかは、現段階では人が関わる必要があります。高度な分析においては、データサイエンティストをはじめとする外部の専門家に参画してもらうのも選択肢の一つです。
社内でデータを共有する
収集した音声データや分析結果をより効果的に活用するためには、CRMなどの共通プラットフォームを使って全社的に共有する仕組みが必要です。これにより、部門横断的なデータ収集が可能となり、より質の高いデータが蓄積されます。
しかし、単に音声データを保存するだけでは、活用が進みません。そこで、音声データから聞いて欲しい箇所や、具体的にアドバイスをしたい箇所にコメントを入力します。該当部分から音声が聞けるURLを発行し、Slackなどのメッセージアプリを使って簡単に共有できる環境を整えることで、他部門との連携も深まり、音声データの活用が進みます。
データ活用のリスク対策
音声データの活用を進める上で、セキュリティ対策も重要です。データの保管場所を慎重に選択し、漏洩や悪用のリスクを防ぐ対策を講じる必要があります。また、個人情報の保護に関する法律を踏まえた音声データの活用に関するガイドラインの作成や、従業員のリテラシー向上のための研修プログラムも欠かせません。
一歩先を行く対策として、他人の音声を模した「ディープフェイクボイス」と呼ばれるなりすまし対策も重要になるでしょう。生成AIの技術が進化すると、技術的に、他人の音声を模倣し、悪用することも可能になってしまいます。すでに画像の分野では著名人にそっくりな人を合成するディープフェイクの動画が作られています。
現状として、このような模倣を完全に見抜くソフトウェアはありません。自社で運用のルールや音声データの加工を制限するなどして防ぐ仕組み作りが必要となります。
これまでの連載では、AI時代における音声データの可能性や、活用のための基盤づくりについて解説してきました。次回以降は、営業やマーケティング、人材育成など、実際の業務で音声データをどのように活用できるかを具体的にご紹介していきます。