より自分らしい生き方を求めて、あるいは節税のためと理由はさまざまだが、国境を超えてオンラインで仕事ができるようになった今、改めて海外移住に注目が集まっている。
日本人の移住先として人気を集めている国のひとつがマレーシアだ。実際にマレーシアに移住した日本人はなぜマレーシアを選び、どのような生活を送っているのだろうか。5歳の娘さんとクアラルンプールで暮らす、品田一世氏・清美氏に話を聞いた。
カナダでの暮らしを経てマレーシアに移住
――まずはお2人の経歴を教えてください。
一世さん(以下、敬称略):新卒で三菱UFUモルガン・スタンレー証券に勤務後、渡米してニューヨーク工科大学大学院でMBAを取得しました。その後、カナダ最大の銀行であるロイヤルバンク・オブ・カナダで働いたのち、ファイナンシャルプランナーとしてカナダで独立しました。2023年にマレーシアに法人を設立し、現在はクアラルンプールに住んでいます。
清美さん(以下、敬称略):もともとは東京の小学校で約8年間、教員を務めていました。教職のかたわらネイルスクールに通い、カナダ移住後は現地のネイルサロンに勤務。その後、オンラインのネイルスクールを立ち上げて今に至ります。
――マレーシアに移住した理由をお聞かせください。
一世:理由はおもに3つです。まずは、北米の急激な物価上昇。私たちの場合、オンラインで世界中どこでも働けるので、わざわざ物価の高い土地で暮らさなくてもいいのではという話になりました。
2つめは、日本との時差が大きいことによる仕事のしづらさです。カナダ-日本間の時差は17時間ですが、日本-マレーシア間はたった1時間しかありません。最後に、日本と同じアジア圏ならではの居心地の良さを感じたことが移住の理由です。
清美:娘が英語を話すので、「英語圏であること」が移住先の前提条件でした。マレーシアは多民族国家なので英語が広く使われていて、中国語を話す人も多いです。英語と中国語を習得すれば世界中で働けるので、娘の将来を考えたときに大きなメリットだと感じました。
加えて、マレーシアにはカナダのディプロマが出る学校があるので、もしカナダに帰ってもスムーズに大学に入れるということも大きかったです。
――現在はどのような場所で生活されていますか?
一世:クアラルンプールのデサパークシティと呼ばれるエリアで暮らしています。外国人や富裕層向けに開発された新興住宅街で、壁に囲まれたコミュニティ内に、公園や湖、ショッピングモール、総合病院、インターナショナルスクールなど生活に必要なものが揃っています。
清美:英語圏では幸福度1位のカナダに暮らしていたということもあり、当初私はマレーシアへの移住に反対でした。でも、1度視察に行ってみようということになり、デザパークシティを見て、すぐ「ここに住みたい」と思ったんです。それくらい魅力的な場所でした。
治安の良さや社会の多様性がマレーシアの魅力
――マレーシアに移住してよかったことを教えてください。
一世:治安がいいことです。「カナダの次はマレーシアに移住する」と伝えたら、年配の日本人の方に「そんな危ないところに」と言われましたが、マレーシアは日本の一部の都市よりも安全です。さらに地震がなく、クアラルンプールは台風も来ないので、自然災害の心配もほとんどありません。
清美:暑い国なので、子どもを公園などで遊ばせるのは日が暮れてからになりますが、私たちが住んでいるエリアでは夜に子どもを外で遊ばせても不安がありません。安全に生活している実感があるのは、移住して一番よかったことかもしれません。
また、差別が少ないのもマレーシアに移住してよかった点です。差別が少ないといわれているバンクーバーでも、コロナ禍でアジア人に対する偏見が高まっていたときは「出ていけ」と言われたこともありました。マレーシアは同じアジアなのでそのようなことはありません。加えてマレーシアではいろんなアクセントのある英語が当たり前で、英語に自信がない人でも移住しやすいと思います。
――5歳の娘さんがいらっしゃいますが、マレーシアの教育のどのような点に魅力を感じていますか?
清美:いくつかのインターナショナルスクールを見学したのですが、YouTube学科のようなユニークな学科を設けている学校もありました。自分が将来何をしたいのか、そのために何が必要なのか、小さい頃から当たり前に考えさせる教育のあり方が日本とは大きく違っていることに驚きました。子どもがやりたいことをやらせてみる風土があると感じます。
一方、自由には責任が伴うので、その点をどのように教育されていくのか、今後が楽しみです。
月6万円の家賃でタワマン生活も可能
――マレーシアに移住して感じるデメリットをお聞かせください。
清美:先進国ではあまり見ないようなガタガタな道が多いのは困ります。スコールがある国なので、水はけを良くするために、道路に10~20センチの段差があるんです。特に都心部は段差だらけで歩きにくいですし、ベビーカーも押せないので、最初はつらかったですね。雨季には娘が通う幼稚園のお迎えの時間に、バケツをひっくり返したような雨が降るのも少し大変です。
一世:ただ、私たちが住んでいるデザパークはもとから水はけよく造られているので、中心部のような段差はありません。住む場所を選べば、道が悪いというデメリットの影響を受けることは少ないと思います。
――体感的に、マレーシアと日本ではどの程度生活コストに違いがありますか?
一世:家賃は日本の半分以下です。今私たちが住んでいる家には、サウナやプール、テニスコート、ジムがついていますが、家賃は16万円台です。外食は日本の8割といったところでしょうか。ローカルな飲食店なら日本の半額以下で食べられるところもたくさんあります。月10万円以下で住み込みのメイドさんを雇っている知人もいます。
円が弱くなったといっても、世界的に見ればまだまだ強いです。マレーシアなら、エリアによっては月6~7万円程度の家賃でプールつきのタワーマンションに住むことも可能です。
気負わず「まずは行ってみる」が第一歩
――マレーシア移住に興味を持っている人にアドバイスをお願いします。
清美:実際に見てみないとわからないことも多いので、とにかく1度来てみてほしいです。「住むかもしれない」という視点で見れば、単なる観光旅行とは見え方がまったく違ってきます。できればそこで暮らしている人の家を見せてもらうなど、移住後の生活が具体的にイメージできる形で視察をするといいと思います。マレーシア移住も「選択肢のひとつ」と捉えて、あまり気負いすぎずに第一歩を踏み出してみるといいのではないでしょうか。