フォルクスワーゲン(VW)のSUV「ティグアン」がフルモデルチェンジして3代目となった。日本では2024年11月に販売が始まっている。世界累計760万台が売れているというティグアンの最新型はどんな仕上がりなのか。マイルドハイブリッド車(MHEV)に試乗した。
新型ティグアンの特徴は?
初代ティグアンの登場は2007年のこと。以来、世界で累計760万台以上が売れている人気モデルだ。日本で売っているVWのSUVは「Tクロス」「Tロック」「ティグアン」の3種類。この中でティグアンは、最上級かつ最も歴史の長いモデルとなる。
新型ティグアンのエンジンは排気量1.5Lのガソリンターボを使うマイルドハイブリッド(MHEV)と2.0Lのディーゼルターボの2種類。ディーゼルターボは4輪駆動となる。グレード構成は廉価な「アクティブ」(Active)、装備の充実した「エレガンス」(Elegance)、スポーティーで精悍な「Rライン」(R-Line)の3種類で価格幅は487.1万円~653.2万円。試乗したのはMHEVのRラインだ。
MHEVはディーゼルを上回る燃費性能
ディーゼルエンジンは燃費のよさで知られるが、ガソリンターボの方も、モーター併用のMHEVとなったことにより、ディーゼルターボ車を上回る燃費性能と満足感のある出力を兼ね備えている。燃費はディーゼルターボが15.1km/L、MHEVが15.6km/Lだ。
ガソリンターボ車は2輪駆動であり、車両重量が4輪駆動のディーゼルターボ車より150kgほど軽い。その点でも動力性能に不足を感じにくいのだろう。また、ガソリンターボエンジンには、アクセル開度が深くない巡航走行時に4気筒のうち2気筒を休止させる制御が付いている。これが燃費に効いているはずだ。
変速機はいずれもデュアルクラッチ方式の7速DSGだ。ギアが変わったことを気付かせないくらい変速は滑らかだった。
Rラインは扁平タイヤを装着、走りに影響は?
どのグレードも動力性能に違いはないが、Rラインは装着するタイヤが255/40R20で、ほかのグレードと比べると扁平率が高い。扁平タイヤは高速走行には向くが、日常的な一般道での乗り心地はどうなのか。そこだけが気がかりだった。
車両重量はほかのグレードに比べ10kg重くはなるが、発進での軽やかさには驚かされるほどで、モーター駆動を加えたマイルドハイブリッドの効果をさっそく実感した。エンジン始動にもモーターを利用するので、スターターモーターが作動する際のキュルキュルという騒音もない。
室内は常に静粛性が保たれていた。ターボチャージャーで過給するため、アクセルペダルを深く踏み込むような場面でも、それほどエンジン回転を上げずに済むことが静かさに貢献しているだろう。低速トルクに弱みのあるガソリンエンジンも、モーターと過給の助けを得ることで、快適さが増すことになる。
速度を上げていっても身軽な加速は変わらず、アクセル操作に対する加減速の応答も自然だった。その滑らかさは7速DSGの変速機に負うところである。カーブでの旋回性能にも優れ、車体全高が1,600mm以上あるSUVでありながらクルマとの一体感があり、運転していて楽しかった。
試乗前に気がかりだった偏平タイヤによる乗り心地については、新採用の2バルブ方式ダンパー「DCC Pro」を用いた制御が効果的で、偏平による硬さを覚えさせず、路面の荒れを巧みにいなしていた。常に快適さを失わない乗り心地が印象深かった。
乗り心地の点では、後席の快適さも優れていた。前席より後席の方が静かで、SUVというより上級セダンの後席に座っているかのような快さがあった。DCC Proの効果が後席の乗り心地にも及んでいるようで、カーブなどでの体の傾きも抑えられていた。足をきちんとおろして座れる座席のよさもある。この点は、上級ステーションワゴンの「パサート」よりも優れているほどであった。後席にも搭載されているシートヒーター(エレガンスとRラインに標準装備)も心地よく、心がほぐれる思いだった。
車体全幅はRラインで1,860mm(ほかのグレードは1,840mm)あるので、狭い道では左側のガードレールが気になった。それでも、運転自体に車体が大きいことによる鈍重さはなく、走りは軽快だった。
新型ティグアンはクルマとして大きく前進していて好印象だった。VWといえば質実剛健なイメージで、ティグアンもこれまでは、どちらかといえば実用性と信頼性で親しまれてきたクルマだったが、新型にはより洗練された上質さが感じられる魅力があった。今回の改良により、プレミアムブランドのSUVによりいっそう近づいたと言えるだろう。