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ホンダは2025年1月に「全固体電池」のパイロットラインを稼働させる。EV(電気自動車)シフトのゲームチェンジャーと目される全固体電池を自動車メーカー自ら手掛ける理由とは? 量産が始まるとEVはどう変わる? オンライン説明会でホンダの狙いを探った。

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全固体電池が実用化すると電気自動車はどうなるのか - ホンダが試作開始へ

DEC. 18, 2024 07:50 Updated DEC. 24, 2024 17:15
Text : 大音安弘
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ホンダは2025年1月に「全固体電池」のパイロットラインを稼働させる。EV(電気自動車)シフトのゲームチェンジャーと目される全固体電池を自動車メーカー自ら手掛ける理由とは? 量産が始まるとEVはどう変わる? オンライン説明会でホンダの狙いを探った。

  • ホンダの全固体電池パイロットライン

    ホンダの全固体電池パイロットライン

全固体電池とは?

ホンダは2040年までに新車(4輪)販売の全てをEVあるいはFCEV(燃料電池自動車)に置き換えると宣言している。その切り札のひとつとして実用化を目指すのが、車載用の全固体電池だ。

全固体電池について簡単に説明しておこう。現在のEV用駆動電池として主流の液体リチウムイオン電池との最大の違いは「電解質」にある。

電池は化学反応によりイオンと電子の受け渡しを行うことで電気を発生させている。既存のリチウムイオン電池では、化学反応を起こしやすくイオン伝導率に優れる液体を電解質に用いている。

  • ホンダのEV「N-VAN e:」

    現行のEVの多くはリチウムイオン電池を搭載している(写真はホンダのEV「N-VAN e:」)

液体の電解質には、電極などの材料を劣化させるという特性がある。さらには、可燃性であるため、絶縁のためのセパレーターや漏れを防ぐ対策など必要になる。リチウムイオン電池はEV駆動用電池として高性能である反面、多くの安全対策が必要なのだ。

そうした課題の解決に向けて、自動車メーカー各社が研究開発を進めているのが固体電解質を用いた全固体電池だ。

固体電解質は液体電解質よりも科学的に安定しており、材料の劣化が起こりにくい。セパレーターや電解質の漏れ対策も不要だ。さらに、高温でも動作が可能で、今までは使えなかった材料も電極に使えるため、希少金属の削減も図れる。将来的には希少金属を使わない電池とすることも可能だという。そのため、EVシフトのゲームチェンジャーと目されているのだ。

  • ホンダの全固体電池のセル(サンプル)

    全固体電池のセル(サンプル)

全固体電池パイロットラインの概要

ホンダは全固体電池の量産化を実現させるべく、栃木県さくら市にある本田技術研究所(栃木Sakura)の敷地内にパイロットラインを建設した。実際の製造ラインを小型化させた同施設内で、性能やメリットを最大限に引き出せる製造プロセスの開発を進める。

  • ホンダの全固体電池パイロットライン
  • ホンダの全固体電池パイロットライン
  • パイロットライン建屋の外観。施設の敷地面積は約1万2,900平方メートル、延床面積は約2万7,400平方メートル、投資額は約430億円

全固体電池の製造方法は、すでに確立された液体リチウムイオン電池の製造プロセスをベースとしているが、イオンが移動しやすい状態を作り出すには固体電解質内を緻密化し、電解質と電極界面の密着性を高める必要がある。そのために必要なプレス加工技術の開発が、性能や生産性を高める肝となるようだ。

  • ホンダの全固体電池パイロットライン

    正極塗工設備

  • ホンダの全固体電池パイロットライン

    ロールプレス工程

一般的な製品開発では、基礎技術を作り上げ、製品の機能や性能を確認する開発を経て量産開発に移行するが、ホンダではスピーディーな市場投入を目指し、車載用の全固体電池の仕様開発と量産開発を同時進行させることで、最適な電池を生み出そうとしている。自社で電池まで手掛けることで、より車両に搭載しやすい仕様へと最適化を図りつつ開発できることも大きなポイントとなる。

全固体電池の実用化でEVが普及?

ホンダが目指す全固体電池の性能だが、2020年代後半の目標では、従来の液体リチウムイオン電池と比較して航続距離で2倍を掲げる。2040年代までには2.5倍以上を目指すそうだ。

目標が達成できた場合、EVはどうなるのか。現状と同等の航続距離のEVを作る場合は、2020年後半のスペックでも電池サイズを現状比50%減、電池重量を同35%減、電池コストを同25%減とすることが可能だという。

現状、EVで航続距離を伸ばすには容量の大きなリチウムイオン電池を搭載しなければならない。大きくて重い電池を積むことは、当然ながらクルマにとっては重量やスペース効率の面で重荷となる。全固体電池の量産に成功すれば、こうした課題を解決できる。電池が安く作れれば車両の価格も抑えられる。

さらに、EV普及の最大の課題となっている充電環境にも好影響をもたらしそうだ。全固体電池搭載EVであれば、数分で80%~90%の充電を可能とする超急速充電も実現できるという。

ホンダは2020年代後半にも全固体電池搭載EVを市場に投入したいとしているが、その時点で、車載用バッテリーの全てが全固体電池へと切り替わるわけではないとする。液体リチウムイオン電池の高性能化を図りつつ、併用していく方針だ。同じく全固体電池の開発と車載を目指すトヨタ自動車と日産自動車も、同様の意向を示している。各社が車載用電池をどう使い分けていくのかにも注目だ。

ホンダは現時点で、将来的にどの車種に全固体電池を搭載するかを明言していない。ただ、大容量バッテリーが必要なEVでこそ全固体電池のメリットは大きく、もともとコンパクトな電池を積むハイブリッドカーでは強みを最大限にいかせないだろうというのが同社の考えだ。ハイブリッドカーでは今後も、液体リチウムイオン電池の進化を図りながら使用していくつもりなのだろう。

ホンダは次世代EV「HONDA 0シリーズ」を発表しており、2026年にはフラッグシップモデル「SALOON」をコンセプトに近い形で登場させるとしている。ただ、このクルマには進化した液体リチウムイオン電池を採用するようだ。0シリーズでは2030年までに小型車から中・大型車までグローバルで7モデルを投入する計画となっているから、これらのクルマのいずれかに全固体電池を採用するのではないだろうか。

  • 「HONDA 0シリーズ」のフラッグシップモデル「SALOON」

    「HONDA 0シリーズ」の第1弾として2026年の登場を予定するフラッグシップモデル「SALOON」(コンセプトモデル)。このクルマは液体リチウムイオン電池を搭載するとみられる

全固体電池搭載EVの市場投入だが、トヨタは2027年~2028年、日産は2028年度の投入を目標としている。現時点では、ホンダよりも早いペースで開発が進んでいるようだ。全固体電池の研究開発は日本がリードしている分野だけに、誰が世界初の称号を勝ち取るかも大きな関心事といえる。ただ、海外勢も取り組んでいる分野なので、今後、競争がより激化していくのは間違いない。

世界初の量産EVを送り出した日本では今、自動車メーカー各社が全固体電池の開発をめぐってプライドをかけた戦いを繰り広げている。数年前には「夢の電池」といわれた全固体電池だが、その誕生に向けたカウントダウンはすでに始まっているのだ。


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※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。