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値上げラッシュの世の中で、英国の高級車「レンジローバー」の価格に異変が起こっている。例えば「レンジローバースポーツ」という車種のプラグインハイブリッド(PHEV)モデルは、昨年より250万円も安くなっているのだ! いったい何が起きている?

( Car )

レンジローバーのPHEVがかなり安くなってる! 理由は?

JUN. 21, 2024 11:00 Updated DEC. 24, 2024 17:15
Text : 藤田真吾
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値上げラッシュの世の中で、英国の高級車「レンジローバー」の価格に異変が起こっている。例えば「レンジローバースポーツ」という車種のプラグインハイブリッド(PHEV)モデルは、昨年より250万円も安くなっているのだ! どうして値段が下がった? どうやって値段を下げた? ジャガー・ランドローバー・ジャパンに聞いてきた。

  • レンジローバーのPHEV

    「レンジローバー」のPHEVが安くなっている?

そもそもPHEVとは?

PHEV(大体の場合、日本ではピーヘブと発音する)というのは、エンジンを搭載するクルマと電気自動車(EV)の「いいとこどり」をしたような車種だ。エンジンとモーター&バッテリーの両方を積んでいるので、燃料を入れておけばエンジンを使って普通に走るし、バッテリーを充電しておけばモーターを回してEVのように走ることもできる。

「EVだと移動中にバッテリーが切れて動けなくなるかも……」という人でも、PHEVなら給油しておけるので心配なし。家や職場でクルマを充電できる人なら、毎日の移動(通勤や買い物)は(距離にもよるが)バッテリーの電力だけで済ませることができる。普段は燃料消費ゼロで、たまに遠出するときにだけ燃料を燃やす、というようなクルマの乗り方が可能になる。

ネットゼロカーボンを目指して

「レンジローバー」「ディスカバリー」「ディフェンダー」「ジャガー」の4ブランドを展開するジャガー・ランドローバーは、クルマの電動化にかなり意欲的な姿勢で取り組んでいる自動車メーカーだ。日本でレンジローバースポーツなどのPHEVが安くなったのも、大まかにいえば同社が電動化モデルの普及に力を入れているからだ。

  • レンジローバー

    ジャガー・ランドローバー・ジャパンは同社が取り扱うPHEV(とEV)を集めた試乗会を開催。試乗の拠点に選んだのは千葉県木更津市にある「クルックフィールズ」だ。サステナビリティを大切にして、施設内での資源の循環に取り組む同施設とは「目指す方向性が合致している」と感じたことから、この場所で試乗会を開催することに決めたという

ジャガー・ランドローバーは2039年までに「ネットゼロカーボン」を実現するとの目標を掲げている。「ネット」というのはクルマの排気ガスをなくすだけではなく、クルマの製造過程など事業活動の全ての段階でゼロカーボンを目指すことを意味する。

目標達成の核となるのがクルマの電動化だ。ジャガーでは現行モデルを一新し、2025年には全てのラインアップをEVとする方針。残りの3ブランドでも2030年までにEVをラインアップする。「レンジローバー」のEVは2024年に発表する予定で、日本には2025年に入ってくる見通しだという。

  • レンジローバーのPHEV

    こちらが現行型「レンジローバー」のPHEVモデル「AUTOBIOGRAPHY P550e」。ボディサイズは全長5,065mm、全幅2,005mm、全高1,870mm、ホイールベース2,995mm。搭載するバッテリーの容量は38.2kWhで、電気だけで走れる距離(等価EVレンジ)は111kmとなっている。価格は2,447万円

とはいえ、急にEVに移行するということになると、ユーザーからは不満や不安が出かねない。ジャガーやレンジローバーのファンであれば、大排気量で美しい音がするエンジンに強い思い入れを持っていても全く不思議ではない。そこで大事になってくるのがPHEVだ。ジャガー・ランドローバー・ジャパン マーケティング・広報部 プロダクトアナリストの蓮見昇陽さんはこう語る。

「内燃機関(エンジンを積むクルマ)に乗り慣れている我々が、急にBEVにシフトチェンジをすることには大きな心理的ハードルがあります。PHEVはEVに移行するまでの『ちょうどいいソリューション』です。完全にEVに移行するまでに、充電の仕方や電気でのドライビングなどを体験し、バッテリーでどのくらい走れるかに慣れていただければ、EVにもスムーズに移行できるはずです」

PHEV普及に向けた施策は?

日本でのPHEVの普及に向けてはラインアップの拡充と戦略的な価格設定に取り組んでいる。4ブランドだと今のところ「ディフェンダー」にPHEVの選択肢がないが、「110」というボディサイズでPHEVを導入するべく準備を進めているという。

価格設定はかなり思い切っている。例えば「レンジローバースポーツ」のPHEVは、2024年モデルに比べて2025年モデル(販売中のモデル)の方が250万円も安くなっているのだ。

  • 「レンジローバースポーツ」のPHEVモデル
  • 「レンジローバースポーツ」のPHEVモデル
  • 「レンジローバースポーツ」のPHEVモデル
  • 「レンジローバースポーツ」のPHEVモデル「AUTOBIOGRAPHY P550e」。ボディサイズは全長4,960mm、全幅2,005mm、全高1,820mm、ホイールベース2,995mm。バッテリー容量は38.2kWh、等価EVレンジは116km。価格は1,685万円

  • 「レンジローバースポーツ」のPHEVモデル
  • 「レンジローバースポーツ」のPHEVモデル
  • 「レンジローバースポーツ」のPHEVモデル
  • 「レンジローバースポーツ AUTOBIOGRAPHY P550e」の内装

  • ジャガー・ランドローバー・ジャパンが試乗会で示したスライド

    ジャガー・ランドローバー・ジャパンが試乗会で示したスライド。「レンジローバースポーツ」の2024年モデル(ひとつ前のモデル)と2025年モデル(販売中の現行型)の価格を比較している。PHEVの「P550e」は2024年モデルが1,654万円~1,943万円、2025年モデルが1,399万円~1,685万円で、現行型の方が250万円くらい安くなっている

なぜ安くできたのか。どうやって安くしたのか。どんな工夫があるのか。「大きな工夫はないんです(笑)」と話すのは、ジャガー・ランドローバー・ジャパン マーケティング・広報部 プロダクトマネージャーの生野逸臣さんだ。以下、生野さんから聞いた話をそのままお伝えしたい。

「当然、クルマには利益を乗せて販売しているんですが、(価格を下げるに際しては)単純にそれ(利益)を削っています。(こういう価格で日本で販売すると本社に説明=説得する際の)論法としては、1台当たりの利益は減るんだけど、その分、たくさん売れるようになれば、掛け算としていいでしょ、という話をするんですけど、普通であれば、こういう提案でOKをもらえることはまずありません。それが今回は、イギリス(本社)の理解があるからなのか、もっとPHEVを売っていかなければという提案をしたところ、『仕方ない』というような形でOKがもらえました」

つまり、何らかの素材を減らすなどのコストダウンを実施したわけではなく、単純に利益を削って値段を下げた、ということらしい。今回の価格設定については、英国本社で「副社長レベルまで」話を上げてもらい、OKをもらったそうだ。

  • ジャガー・ランドローバー・ジャパンが試乗会で示したスライド

    「レンジローバーヴェラール」の価格。PHEV「P400e」の2025年モデルはもともと1,257万円~1,318万円だったのが1,074万円~1,208万円に下がっている

  • レンジローバー
  • レンジローバー
  • レンジローバー
  • 「レンジローバーヴェラール」のPHEV「P400e」は19.25kWhのバッテリーを搭載。等価EVレンジは67km

  • ジャガー・ランドローバー・ジャパンが試乗会で示したスライド

    「レンジローバーイヴォーク」の価格。PHEVの「P300e」は2024年モデルが972万円~1,036万円、2025年モデルが883万円~964万円だ

  • 「レンジローバーイヴォーク」のPHEV「P300e」
  • 「レンジローバーイヴォーク」のPHEV「P300e」
  • 「レンジローバーイヴォーク」のPHEV「P300e」
  • 「レンジローバーイヴォーク」のPHEV「P300e」は14.85kWhのバッテリーを搭載。等価EVレンジは65.1km

ガソリン車とPHEVが同じ値段! どっちを選ぶ?

日本でPHEVの価格を下げて台数を多く売るということは、英国本社にしてみると、生産したクルマの日本への割り当てを増やさなければならなくなるということでもある。ほかの国に割り当てればもっと高い利益でクルマが売れるかもしれないのに、それでも日本向けの台数を増やしてくれるのはナゼなのか。考えてみると納得がいかない。納得がいかないのだが、生野さんからは「確かに、業界を見渡してもレアなケースだと思います。本社側の『心の優しさ』としか言いようがないんです(笑)」との回答が得られたのみだった。

上のスライドをよく見ると、PHEVの値下げにより、ヴェラールとイヴォークでは、ガソリンエンジン車とPHEVが同じ価格になるという特異な事態が生じている。「同じ値段ならPHEVを買おう」というユーザーが増えるのか、それとも、「電動化には抵抗がある」ということでガソリンエンジン車を選ぶ人が多いままなのか。このあたりは「1年かけて検証してみたい」というのが生野さんの考えだ。もしPHEVの販売が大幅に増えるということになれば、ガソリンエンジン車の導入をやめて、ディーゼルとPHEVにラインアップを集約するという話になるかもしれない。

ジャガー・ランドローバー・ジャパンのPHEVモデルは、これまでのところ、そこまでたくさん売れていたわけではなかったという。同社のクルマの購入者でPHEVを選ぶのは、全体の5~10%程度だったらしい。ただ、同社はPHEVを「2024年の柱」とする方針を掲げ、実際に戦略的な価格設定に踏み切っているわけなので、PHEVの販売割合は間違いなく増えるはずだ。


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※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。