既報の通りソフトバンクは15日、米携帯電話3位のSprint Nextelを買収すると発表した。2013年半ばまでに投資を完了し、最終的には、新Sprintの株式の70%を保有し、同社を完全子会社化。過半数の取締役を派遣し、「積極的に経営に関わる」(ソフトバンク孫正義社長)考えだ。総額1兆5,709億円(201億ドル)にも及ぶ大型買収で、孫社長は「日本からの投資では過去最大」と胸を張る。世界でも有数の規模の顧客基盤を得て、さらなる成長を目指す。
買収は、既存株式1株あたり7.3ドルのプレミアム価格で買い取り、これが9,469億円(121億ドル)。これにSprintが発行した新株を1株あたり5.25ドル、6,240億円(80億ドル)で買い取り、合計1兆5,709億円となる。ソフトバンクは手元資金が「7,000億円ぐらい」(孫社長)あり、さらに銀行団から融資を受けて資金を調達するとしている。
Sprintは、米携帯市場で16%の契約数シェア、第3位の位置につけており、ソフトバンクがボーダフォンジャパンを買収した時と似たような境遇にある。上位のVerizonは32%、AT&Tは30%のシェアで、2強の寡占状態にある。こういった状況のなか、ソフトバンクがこれまで培ってきたノウハウやビジネスモデルなど、「日本で体験したことをもう一度再現する」(同)かたちで、Sprintのビジネスを成長させていきたい考えだ。
Sprintの契約数は5,600万。ソフトバンクは3,500万で、同様に買収したイー・モバイルの430万も含めると契約数は合計で9,600万になり、Verisonの1億1,100万、AT&Tの1億500万に接近し、日米でも最大級の顧客基盤を持つことになる。
携帯事業者の売上高比較では、中国China Mobileの3兆3,000億円、Verizonの2兆8,000億円に次ぐ2兆5,000億円となり、世界3位に躍り出ることになる。孫社長は、ボーダフォン買収時に「いつの日かドコモを抜く」と宣言していたが、今回、「少なくとも規模においてはドコモを抜いた」と胸を張る。
孫社長は、米国全体では契約数3億5,000万を超え、さらに伸び続けている「成長産業」であり、ARPU(ユーザー一人当たりの平均収入)も日本と近く、「健全で高い収益性を含んだ市場」と指摘。Sprintは日本と同様ポストペイド型の契約が全体の7割と多く、収益構造も安定しているとして、企業価値が向上すると強調する。その上で、米国の携帯市場は通信速度が日本より遅く、上位2社による寡占状態である点を問題点として「挑戦者にとってはまたとないチャンス」があると話す。
Sprintはこれまで、契約数の減少などで株価が急落していたが、2008年から経営再建に取り組み、2011年までの第1フェーズではブランドの改善や加入者数の純増、売上の増加、コスト削減などを達成。現在は第2フェーズとして、世界規模のネットワーク構築、3G・4Gネットワークの改善など、投資を積極的に進めていく方針。iPhoneはiPhone 4Sから取り扱いを始めたことによるコスト増加もあるが、こうした投資コストは、2014年から利益率が向上すると見込む。
同社のDan Hesse CEOは、「フェーズ2が今年から始まり、(買収は)今が最適のタイミング」という。Sprintにとっては買収によって投資のための資金が得られ、さらに投資を強化できるため、14年以降の成長フェーズがさらに加速できる、という認識だ。
Hesse CEOは、もともとAT&Tからベンチャー企業のCEOとなり、そのころから孫社長と付き合いがあったという。ソフトバンクの連結子会社となっても、Hesse CEOは継続して陣頭指揮を執る予定で、「ソフトバンクから、孫社長からさまざまなことを学んでいきたい」と、ソフトバンクの実績やノウハウに期待を寄せる。「一時、Sprintは会社としてうまくいっていなかったが、今は違う。改革の途上にあり、米国で一番の携帯事業者になることを目指している」。Hesse CEOはそうアピールする。
Sprintは自力での経営再建の途上だが、ソフトバンクは投資資金の投入とともに、同社がこれまで培ってきた「戦略」を投資する考えだ。ボーダフォンジャパン、日本テレコム、ウィルコムという「赤字3兄弟」(同)を黒字化し、V字回復させた孫社長の戦略、ノウハウを提供していくとしている。
また、世界最大規模の携帯事業者になることで、インフラ設備や端末の調達でボリュームメリットを出すことが可能となるため、スマートフォンでの調達でも有利になるとみている。「世界規模のスケールを持つことで、競争力が増す。より優れた製品、サービスを日米のお客様に提供する」と孫社長は話し、世界最大の携帯事業者を目指していくとアピール。この投資の成功に「自信がある」と強調した。
(記事提供: AndroWire編集部)