京都大学(京大)の研究グループは、土中や植物表面に住み、植物から放出されるアルコールの一種であるメタノールを食べるC1微生物が夜にメタノールを飲んで生活していることを突き止めた。同成果は、同大の阪井康能 農学研究科/学際融合教育推進センター 生理化学研究ユニット教授、由里本博也 農学研究科准教授、川口甲介 同教務補佐員らによるもので科学誌「PLoS One」(電子版)に掲載された。
エタノールは酒精と呼ばれるが、植物表層に大量に含まれるメタノールは木精(木のアルコール)と呼ばれ、植物の葉からは年間約1億tのメタノールが大気中に放出されている。こうしたメタノールを食べる微生物としてC1微生物と呼ばれるものが知られており、このメタノールを食べるという性質を利用したワクチンや医薬品など有用タンパク質の製造でも活用されている。しかし、植物葉上でのメタノール濃度や、C1微生物がどのようなライフスタイルで生きているのか、などについては明らかになっておらず、さらなるC1微生物の活用のために、その詳細を明らかにすることが求められていた。
従来、植物から放出されるメタノール量は、空気中のメタノール濃度により測定されていたが、植物表面のメタノール濃度は不明であった。今回、研究グループでは、メタノール濃度に応答して蛍光を発する「メタノール細胞センサ」を新たに開発、植物表面のメタノール濃度を、直接計測することに成功した。これにより、若い葉の上ではメタノール量が日周性をもって変動しており、夜に高く、昼間はほとんどないことが判明した。
さらに、このメタノール量の日周変動する植物葉上では、メタノールを食べるC1酵母が、2週間で3~4回ぐらいの分裂をすることで、ゆっくりと増加していくことが観察されたことから、植物の表面で、メタノールを食べるために必要な遺伝子と細胞内小器官(ペルオキシソーム)の動きを調べてみた結果、これらもメタノールの濃度の周期にあわせて、昼夜で増減していることが確認された。
また、メタノールを食べるための遺伝子やペルオキシソームを増やしたり減らしたりするための遺伝子が、C1酵母が植物上で増えるためには必要であることも研究グループでは突き止めており、これによりC1酵母は人と同じように、夜にメタノールを飲んで生活していることを突き止めた。
加えて、老化した葉や枯葉の上では、メタノール濃度がかなり高いためC1酵母は、ペルオキシソームを細胞内容積の80%ぐらいになるまで発達させ、その中に栄養分の1つであるタンパク質を大量にため込んでいることも確認しており、研究グループでは、この行動は植物葉上には他の栄養分が少ないため、枯れた後、葉ごと一緒に土におちて、次に栄養分を手にする機会をうかがっているものと考えられると説明している。
なお、今回の研究成果は、培養のいらない植物上でのタンパク質の直接生産がC1酵母により可能なことを示すものであるほか、植物上でのメタノール濃度の日周変動やC1酵母が植物上でもメタノールを食べているという事実は、今後、温室効果ガスの1つであるメタンの削減に向けた基本情報となることから、研究グループでは今後、環境問題を解決できるような技術開発を目指したいとしている。