トムソン・ロイターは9月21日、10月3日から予定されているノーベル賞受賞者の発表者に先駆け、同社の学術文献引用データベース「Web of Science」を元に、論文がどの程度引用され、学術界にインパクトを与えたのかなどを考慮した「ノーベル賞有力候補者(トムソン・ロイター引用栄誉章)」を発表した。
同賞は同社が1970年代から不定期に行ってきた文献の引用数の定量計測を元に、2002年以降、毎年定期的に発表してきたもので、今回、新たに有力候補として加えられた研究者は「医学・生理学」で4トピック8名 、「物理学」で3トピック6名、「化学」で3トピック5名、「経済学」で3トピック5名の合計24名。その内、日本からは物理学分野で東北大学 電気通信研究所・教授、同大 省エネルギー・スピントロニクス集積化システムセンター・センター長の大野英男氏が選出された。
同候補の選定基準は、過去20年以上にわたる学術論文の被引用件数に基づいて、各分野の上位0.1%にランクインする研究者となっており、主なノーベル賞分野における総被引用数とハイインパクト論文(各分野において最も引用されたトップ200論文)の数を調査し、ノーベル委員会が注目すると考えられるカテゴリ(物理学、化学、医学・生理学、経済学)に振り分け、各分野で注目すべき研究領域の候補者を決定するというもの。
候補者は毎年選出されるが、選出された研究者は候補者の1人として翌年以降も繰り越してリストアップされていく方式であり、2002年から2011年までの間に、今回の大野教授を含めると日本人だけでも13名が候補者に名を連ねている(内2名は故人)。全世界の候補者は138名で、この内17名が実際にノーベル賞を受賞しているが、同社ではこの138:17という比率に意味があるのではない、実際に化学分野の研究者だけでもデータベースには約70万人登録されており、候補者にリストアップされる可能性があるのはその内のトップ0.1%だが、それでも700名も居り、そこからノーベル賞の受賞トレンドや受賞者の地域性などを加味して搾っていっており、そうした周辺要因まで含め、ノーベル賞の選考委員とどの程度、思惑が近づけているのか、という点が問題になってくると説明している。
今回の24名が所属する研究機関の地域は、米国が18名、オーストラリア2名、フランス2名、オーストリア、カナダ、ドイツ、サウジアラビア、日本が各1名となっている(重複有り)。
今回の大野教授の選出は、1996年に発行された「希薄磁性半導体における強磁性の特性と制御に関する研究(for contributions to ferromagnetism in diluted magnetic semiconductors)」という論文を中心に、引用件数が長年にわたり、高い水準を維持していること。論文タイトルだけではなんのことだか分かりづらいが、次世代エレクトロニクス技術として期待が高まっているスピントロニクスの基礎を構築した、とでも言えばお分かりいただけるだろうか。実際、スピントロニクスに関連する何らかの知見は、国内だけでもどこかの大学もしくは研究機関から最近では毎週のように発表されている。
そうした盛んな研究の引用論文として同氏の論文は500回以上の引用が10以上で、トップでは3871回、1000回以上も4本あり、「典型的なノーベル賞級の研究者に現れる被引用数の高さ」だという。
なお、トムソン・ロイターでは、こうしたノーベル賞級の研究者を発表するという行為について、「研究者の意見の集約になると考えて行っている。引用が多いということが、現在社会にどれほどのインパクトを与えているか、を示せるように取り組んでいる」とその趣旨を説明しており、今回の大野教授についても、「一般的な論文引用の動きは一時期のみ、大きな山を迎えるが、同氏の場合、2000年以降、引用の山が継続しており、その背景には幅広い分野に対して影響を及ぼしているため」と単なる1つのテーマに対する研究ということだけでなく、その研究がほかの研究などにも影響を与えていることが窺えたことが選定の要因の1つとなったとしている。
なお、今回の候補者がいきなり2011年のノーベル賞を受賞するという可能性は低く、同社でも5年後程度の期間で受賞する可能性がある研究者、というスタンスで選定を行っているとしている。