iPhoneやiPadの売上は何度も話題に上るが、同じiOSデバイスである「iPod touch」については、その売上動向がフィーチャーされることはあまりない。ある調査によれば、現状のiPod touchの販売台数は累計で4,520万台であり、iOSデバイス全体の37.7%を占めるという。今春のiPad登場でその割合は相対的に減っているとはいえ、なかなかのシェアだ。そしてiPhoneやiPad対抗をうたった製品は数あれど、iPod touch競合を目指した商品はほとんどない。もしこの市場を狙えたら……どうなるのだろうか?
このテーマは米Wiredが9月7日付けの記事で提起している。9月1日に開催された音楽イベントで米Apple CEOのSteve Jobs氏は、これまでに1億2,000万台のiOSデバイスが販売されたことを報告したが、調査会社のAsymcoはこのデータを基にiPod touchの販売台数を推測している。米証券取引委員会(SEC)へのAppleの登録書類から、2010年6月時点でのiPhoneの累計販売台数は5,960万台であることが判明している。同時にJobs氏本人の報告から、同月時点でのiPadの累計販売台数が320万台であることもわかっている。もし残りの7~8月の2ヶ月分の販売台数をiPhoneが800万台、iPadが400万台とそれぞれ推測すると、iPod touchの累計販売台数はその残りの4,520万台ということになる。iOSデバイスのシェアにして37.7%だ。Asymcoによれば、iPadの発売が開始された今年4月でのiPod touchのiOSデバイスシェアは41%であり、iPadの登場によって相対的にシェアが減少していることになる。
とはいえ、この台数はなかなかのものだ。もともとiPod touchは、iPhoneに投入されたマルチタッチのエッセンスを包含しつつ、iPhoneのような長期間での契約縛りを必要としないデバイスとして登場した。つまりiPhoneを購入/維持できるようなユーザーであればiPhoneを購入し、そうした契約を嫌う、あるいはできないような層はiPod touchを選ぶという具合に棲みわけることになる。それは、いわゆるティーンエイジャーと呼ばれる層にiPod touchの購入者が偏っていることからもうかがえ、ほぼAppleの狙い通りの形で市場のターゲティングが行えていることを意味する。もっとも、Appleは最近になってiPod touchを特に戦略上重要なデバイスと位置付けており、ゲーム機兼ソーシャルツールとして若年層への売り込みを強化している。
さてここで本題となるのだが、「iPhone対抗」「iPad対抗」をうたったデバイスは数あれど、「iPod touch対抗」をうたったデバイスはほとんど存在しないのは興味深い。前述のAsymcoもこうした競合デバイスメーカー各社の動きに疑問を抱いており、「iPadの模倣は熱心なのに、なぜそのサイズを小さくしたデバイスに目を向けないのか?」といったコメントを発している。冒頭で説明したようにiOSデバイスの4割近いシェアを占めるiPod touchだが、この市場が大きいにもかかわらず手つかず状態なのだ。Wiredは数少ない競合デバイスとしてMicrosoftのZune HDを挙げており、これもまた近々Windows Phone 7の登場に合わせて製品のリフレッシュが行われる噂があることを紹介しているが、まだまだ対抗勢力としては弱いという印象がある。ひょっとしたら、ライバルの多いスマートフォンやタブレット市場よりも攻略しやすいエリアである可能性もある。