大手出版社の米Timeが発行する芸能情報誌「People」のiPad版だが、8月19日(現地時間)より既存の雑誌定期購読者であれば無料でコンテンツが閲覧可能になった。これまでPeopleは専用リーダをApp Storeよりダウンロードし、毎週刊行される最新号をリーダー経由で3.99ドルで購入する必要があった。今後は定期購読者であれば、こうした追加の支払いなしでiPad上で最新号が楽しめる。
これまでiPadを使った雑誌の電子配信を行う試みはさまざまな出版社で続けられてきたが、コンテンツのスタイルがiBookstoreでの配信に向かないこともあり、App Store経由での「アプリ」として提供される方向が模索されてきた。一方でこの方式は多くの問題を抱えており、まず雑誌の配信サイズが非常に大きく、小さいものでも100~200MB以上、先日提供が開始されたWIREDにいたっては500MB超と、ブロードバンド回線でもなければとても利用しにくい。こうした巨大サイズのコンテンツを毎号ダウンロード購入する必要があることも問題の1つであり、その値段はニューススタンドでの購入価格とほぼ同等だが、「サブスクリプション」と呼ばれる定期購読の仕組みが利用できず、そこで提供される割引きサービスも利用できない。サブスクリプションでは年間購読者などに対して3~4割、さらに極端な場合は7~9割も割引きが行われるケースもあるため、これが「iPadなどの電子版のほうがコンテンツが高い」といった現象を生み出していた。さらに開発コスト増を理由に、電子版の価格を本誌よりもさらに値上げする米Hearstのような例もあり、このあたりが読者と出版社の間での意識の差による溝を深める結果につながっている。
今回のTimeの新サービスは、こうしたギャップを埋める1つの手段になるとみられる。雑誌の定期購読を維持しつつ電子配信も可能となるため、開発コスト増という点に目をつぶれば、紙の出版を維持するために電子出版に及び腰になったり、逆に電子出版によって既存の売上が大きく毀損されることもなく、ある意味で両立が可能となる。FortuneのApple 2.0 Blogを執筆するPhilip Elmer-DeWitt氏によれば、今後TimeはPeople以外の基幹雑誌、例えば「Time」や「Fortune」などを順次このサブスクリプションに対応した形態へと今後1ヶ月をかけて移行させていくという。
今回Peopleのこうしたサブスクリプション配信が可能になったのは、App Storeでのマガジンアプリの方針についてApple側が折れたことに依るとみられる。例えば先月7月28日、Timeの発行するSports IllustratedアプリがAppleの審査によって登録を拒否されたことが、All Things DigitalのMediaMemoによって報じられている。これはサブスクリプション導入を望むTimeと、個々のアプリがコンテンツとして独立することを望むAppleとで意見が割れたことに起因し、AppleがTime側の考えを拒否したことが登録却下につながったようだ。New York Timesによれば、こうした議論は過去何ヶ月にもわたって出版社とAppleとの間で行われており、Apple側の姿勢に出版社らが不満を持っていたことが伝えられている。結果としてPeopleアプリ最新版の登録が認められたことは出版社側の意見が通じたことを意味し、iPadにおける雑誌の電子配信は一歩前進したといえるだろう。