iPad用のアプリとともにデモされたMediaFLOの試作機(画面上)

KDDIは3日、携帯端末向けマルチメディア放送のコンテンツ制作などを目的とした新会社「メディアフロー放送サービス企画」を設立したと発表した。テレビ朝日、スペースシャワーネットワーク、アサツー ディ・ケイ、電通、博報堂の4社も資本参加する。

携帯向けマルチメディア放送は、アナログテレビの停波に伴って開放されるVHF帯207.5~222MHzの14.5MHzを使った新しい放送型サービスで、従来のテレビ放送とは異なり、モバイルにおけるマルチメディアコンテンツの配信を想定している。放送を行う受託放送事業者と、その上で放送サービスを提供する委託放送事業者を分離することになっている。

現在の周波数割り当ては、アナログ停波後に変更され、マルチメディア包装用の周波数帯域が割り当てられる

受託放送事業者は1社で、そこからサービスを提供する委託放送事業者が複数用意される

すでにKDDIらが出資して設立しているメディアフロージャパン企画が受託放送事業者としての免許取得を進めており、今回、サービス提供側の委託放送事業者としてメディアフロー放送サービス企画を設立した。

受託放送事業者の選定は、申請締め切りが6月7日に迫っており、総務省の審査を経て、早ければ7月半ばにも放送事業者が選定される見込みだ。同社はMediaFLO企画を採用しており、同様にNTTドコモらもISDB-Tmm規格を使ったマルチメディア放送を申請すると見られ、同社では免許申請はこの両社の一騎打ちになると見ている。

KDDIらによるMediaFLO陣営と、ドコモらによるISDB-Tmm陣営の2社が申請すると見られている

マルチメディア放送は、放送波を使ってテレビのようなストリーミングコンテンツを配信するだけでなく、大容量の映像や音楽、電子書籍といったコンテンツをダウンロードする蓄積型のコンテンツなど、多様なデジタルコンテンツを配信するサービスだ。

リアルタイムのストリーミング型は、従来のテレビ放送的なサービス。それ以外にも、ダウンロード型のコンテンツも提供される

通信を使う従来型に比べ、効率が良く、大容量のデータも同時にたくさんのユーザーに対して配信できるのがメリットだ。携帯のように同時利用者によって速度が低下したり、つながりにくくなるといったことがなく、安定した配信が可能になる。

基本的に自分でアクセスする通信に対し、テレビのようにユーザーのもとにプッシュ配信されるのが特徴だ。メディアフロージャパン企画社長の増田和彦氏は、「通信は能動的なアクションを起こしてコンテンツを受信する必要があり、これがコンテンツ利用の障害になっている人がいるのではないか」と予測。さらにパケット代を気にしてコンテンツ利用を控えるユーザーもいると指摘する。それに対してマルチメディア放送は、事業者側がコンテンツを編成してプッシュ配信するため、コンテンツを探す必要がなく、誰でも、いつでもリッチコンテンツが楽しめるようになり、「コンテンツ消費者の拡大、市場の拡大に寄与できるのではないか」(増田氏)としている。

放送では、ユーザーの操作を最小限にして、しかも大容量コンテンツを無制限にユーザーに配信できるメリットがある

MediaFLO規格は、すでに米国で2007年から商用サービスが開始されている。イギリスや台湾、香港、マレーシアでトライアルが行われているのをはじめ、20カ国で準備が進められているそうだ。米国では112都市・2億人をカバーしており、端末も10機種以上が投入されているという。開催間近のサッカー・W杯全試合をMediaFLOで放送するなど、米国では本格的なサービスを展開している。

モバイルコンテンツやEC市場はすでに1兆3,000億円を突破し、さらに拡大をしている

しかし、通信のトラフィックは拡大を続けており、大容量コンテンツの配信は携帯ネットワークや無線LANよりも効率的なマルチメディア放送にメリットがある

MediaFLO陣営がアピールするのは、こうした国際的に利用されている規格という点だ。国際標準化も行われており、日本独自のワンセグから派生したISDB-Tmmに比べ、海外展開も容易になるとしている。

通常の携帯電話に、ワンセグと同時にMediaFLOを搭載することも可能で、さらに今後本格化するスマートフォンに向けて、MediaFLOを利用できる環境を構築していきたい考えだ。特にクアルコムジャパン社長の山田純氏は、「MediaFLOに最適なデバイス」としてアップルのiPadを紹介。MediaFLOコンテンツを受信して蓄積し、iPadに無線LANで配信する小型の試作機をアピールする。iPhoneやAndroid、Windows Mobileといったその他のスマートフォン向けにも、サービスを強化していきたい考えだ。

iPad用のMediaFLOアプリの画面。ストリーミングに加え、蓄積したビデオや電子書籍が閲覧できる

山田氏は、スマートフォンでは、海外の端末がそのまま持ち込まれるケースも多く、そうした海外製の端末にも搭載されやすい、国際標準の規格が重要だと主張する。増田氏も、マルチメディア放送の普及には受信機が広く出回ることが重要だとして、規格化され、端末開発がしやすいMediaFLOの利点をアピールする。増田氏は、6月7日以降に行われる審査では、「日本の技術にこだわるあまりガラパゴス化を招いてはならない」(同)として、「透明で中立的な審査」(同)を求める。

従来の基板と同じサイズで、MediaFLOとワンセグの2つの機能を実現できている

想定されるスケジュール。7月14日に総務省の電波監理審議会の答申が出る予定で、ここで事業者選定が発表されると見られている。選定が長期化した場合は、次の9月にずれ込む可能性もある

新会社では、このMediaFLOによる免許取得を前提に、今後コンテンツ開発を進めていきたい考えだ。

マルチメディア放送は、有料サービスのため嗜好性が強く、よりパーソナルなターゲティング広告の可能性がある、という

コンテンツ制作だけでなく、ファイル配信、課金事業者らと接続することで、各種のコンテンツプロバイダーが参入しやすいような環境作りも目指す

すでに米国で販売されているMediaFLO対応端末

米国で近く発売されるというiPhoneジャケットと一体化したMediaFLO端末。バッテリーも内蔵している

USB接続型のMediaFLO受信機

無線LAN型の受信機

沖縄のユビキタス特区で行われた実証実験で使われた端末

Lenovo製SkylightにMediaFLOレシーバーを搭載した試作機