先日、元Microsoft従業員のDick Brass氏の「元MS社員の告発 - なぜMicrosoftは画期的な製品を生み出せなくなったか」というレポートを紹介したが、Microsoft内部に革新的技術やサービスを生み出す土壌がなくなりつつあることが指摘されて久しい。一方で、MicrosoftもBrass氏のコラムに反論を行っており、ClearTypeがすでにすべてのWindowsで採用されていること、「OneNote」という製品はタブレットPCをターゲットに開発されたこと、そして「Project Natal for Xbox 360」といった画期的な技術が存在しており、同氏の指摘は必ずしも的を射ていないとしている。
こうした中、「Microsoftと競合」というテーマで興味深い文書が発掘された。同件を報じているのはGroklawで、2003年にAppleがiTunes Music Storeを発表した際の、Bill Gates氏をはじめとした上級幹部らの焦りと強い対抗意識を見て取ることができる。
Groklawが発掘したのは「Comes v. Microsoft」と呼ばれる一連の訴訟で用いられた資料の写し(PDFファイル)で、この中にBill Gates氏が複数の同社上級幹部に宛てたメールと、Jim Allchin(ジム オールチン)氏のメールを確認できる。Allchin氏は、長年にわたってMicrosoftで共同プレジデントおよびプラットフォーム & サービス部門担当としてWindows、.NET、Windows Server Systemなどの製品開発を指揮してきた人物で、最後の作品となるWindows Vistaの一般発売開始を待たずして、2007年初頭に同社を去っている。
なお、「Comes v. Microsoft」訴訟とは、米アイオワ州在住のJoe Comes氏が「Microsoftの排他的ビジネス慣行でアイオワ州の消費者が不利益を被っている」ことを理由に起こした訴訟で、訴状がここ(PDFファイル)で確認できるほか、Groklawが自サイト内で過去の裁判経緯を整理して紹介している。
発掘された問題のメールは、Gates氏の「Apple's Jobs again.., and time to have a great Windows download service...」(AppleのJobsがまたしても……、Windowsでも素晴らしいダウンロードサービスを用意するタイミングだ……)というタイトルで始まっている。ここでGates氏は、Jobs氏がこれまでの誰よりもより良いライセンス条件を音楽会社に提示できた同氏のスキルをほめたたえている。
一方で、「Microsoftもユーザーインタフェースと権利の両面でこの領域に素早く追いつかねばならないが、どうすれば良いか、そして問題は何か?」とも問うメッセージが記されており、「こうしている間にもJobs氏はさらに先へと進む可能性があり、至急により良いものを作り出さなければならない」と文章を締めている。またAllchin氏のメールは「Apple's music store」というサブジェクトで、「1. 彼らがどうやって音楽会社を巻き込んだのか?」「2. 我々は煙に巻かれたのだ」というシンプルな内容となっている。
Gates氏およびAllchin氏のメールの日付は2003年4月30日で、AppleがiTunes Music Storeを発表した4月28日の直後になる。当初、2001年にiTunes+iPodという組み合わせが発表された際、「何を今さら携帯音楽プレイヤーで実現しようというのだ?」とAppleの行動を疑問視する意見が多数を占めていたが、これはiTunes Music Storeの発表でがらりと情勢が変化することになる。ユーザーはアルバムCDの購入を止め、オンラインストアで好きな楽曲を自由に購入するスタイルが一般的となった。文字通り、iTunesの出現がゲームチェンジャーとなったのだ。Gates氏の焦りももっともで、またAllchin氏のメールはMicrosoft内部の人間にとって「寝耳に水」状態だったことの表れでもある。