Opera Softwareは18日、10月からの日本オフィスの体制強化を前に報道関係者向けの説明会を開催し、同社の戦略や製品をめぐる最新の動向を解説した。

同社は1995年にノルウェーで創業した企業で、PCや携帯電話などの情報機器向けにWebブラウザ「Opera」を開発している。日本市場では、2001年リリースの「Opera 6.0」で日本語表示を正式サポートし、2004年には初のOpera Mobile採用機である京セラ製PHS「AH-K3001V」(愛称:京ぽん)が発売された。その後au携帯電話(PCサイトビューアー)、Windows Mobile搭載スマートフォン、ニンテンドーDS、Wiiなどに相次いで採用されている。

国内における事業拠点としては、2005年に日本オフィスを都内で開設した。当初は国内の顧客企業向けの営業活動が主だったが、営業担当者だけでなく技術者の採用を徐々に増やし、現在は国内顧客向けの製品に関して一定の開発機能も備えるに至っている。2001年に日本人社員第1号としてOperaに入社し、アジア地域での事業の立ち上げや同社シリコンバレーオフィス開設などを担当してきた冨田龍起氏がこのほど日本に戻ってきており、10月から日本市場でのビジネスを率いるカントリーマネージャーに就任する。

10月から日本のカントリーマネージャーを務める冨田龍起氏。2001年に入社したOpera初の日本人社員

この日、説明会の冒頭でOperaが目指すビジョンを説明した冨田氏は、8年間の勤務を通じて「Opera Softwareは、会社はこうあるべき、技術はこうあるべきだといった既成概念とはまったく別に、自分たちが良いと思ったことを自由に実現できる会社」と感じているとコメント。

例えば、Operaにはさまざまなカスタマイズオプションが用意されており、あらゆる設定項目を自分の好きなように変更できることがひとつの特徴だが、これは「みんなそれぞれ好みが違うのは当たり前ということを前提に会社が運営されている」ことの表れだという。その背景としては、同社の従業員の国籍が極めて幅広いということが挙げられる。冨田氏が入社した当初、同社の全社員は50名ほどだったが、その時代でも世界の20カ国以上から人材が集まっていたという。現在では全世界に750名の社員がいて、出身国は45カ国以上にわたっている。

また、2005年にOpera 8をリリースした際には、同社CEOのJon S. von Tetzchner氏が「4日以内に100万ダウンロードを達成したら、ノルウェーからアメリカまで泳いで渡る」と宣言し、本当に泳いだ(出発直後に発生したトラブル(?)のためアメリカには未達)ことが話題となったが、そのようなジョークにトップ自らが本気で取り組むことからも、常識にとらわれず新しいことに挑戦しようとする同社の姿勢が伺える。

アメリカに向け、冷たいノルウェーの海に泳ぎ出したCEOのTetzchner氏。出発直後、同行のゴムボートが沈没し、乗っていた同社PR責任者を救出するため遠泳は中止となった

クロスプラットフォームの水平展開が強み

冨田氏は、同社が携帯電話への展開を本格化した2001年ごろ、携帯電話を使ってPCと同じようにWebを見るという提案を業界内でしても、多くは「何でこんな小さな画面でインターネットを見なければいけないのか」という反応で、「ほとんど相手にされなかった」と話す。当時、日本では携帯電話向けサイトこそ定着したものの、まだまだPCのインターネットとは断絶した別世界であり、まして海外ではWAP仕様のモバイルコンテンツサービスがなかなか花開かない状況だった。

しかし時代は変わり、「PC以外の機器にもブラウザがどんどん搭載されるようになっており、単にインターネットを見るだけでなく、アプリケーション実行環境としても使われるようになった」(同氏)。あらゆる機器に対して最良のインターネット環境を提供するという、同社の当初からのビジョンに先見の明があったことが証明された形だ。

PC以外にもさまざまな機器に共通のエンジンを提供できるのが強み

PC用Webブラウザの世界ではかつて "Internet Explorer vs それ以外のブラウザ" とも言うべき時代が続いていたが、ここ数年で状況は大きく変化し、Firefox、Safari、Google Chromeといったさまざまな対抗製品が少しずつIEのシェアを削り取っている。それらの多くはWebページの表示の速さを特徴としており、かつて「世界最速」を売り物にしていたOperaも、スピードの面では絶対的な優位性は薄れつつある。

これについて冨田氏は「スピードはOperaが最も重視しているポイントであり、現在でも世界最速を目指していることに変わりはない。ただし、今はスピードだけが重要なのではない」と説明する。携帯電話、ゲーム機、カーナビ、テレビ、デジタルフォトフレームなど、あらゆる情報機器に共通のレンダリングエンジンを展開し、優れた使い勝手や最新のWeb技術を、プラットフォームを問わずに提供できるのがOperaの最大の強みというわけだ。組み込みブラウザとしてOperaは無数の採用実績があり、この点ではPCの世界でのライバルブラウザを大きく引き離している。

Operaを搭載したソニーのデジタルフォトフレーム。Webブラウザに加え、RSSリーダー機能なども提供している

また、ページ全体の拡大縮小、タブブラウジング、検索ボックス、マウスジェスチャー、スピードダイヤルなど、現在では他のブラウザにも用意されている多くの機能を、Operaはいち早く標準搭載してきた。冨田氏は「ほとんどすべてのブラウザに実装される技術や機能を、Operaは他に1~2年先がけて実装してきた歴史がある」とアピールし、今後もWebブラウザの世界におけるイノベーションをリードしていく姿勢を強調した。

最近のブラウザでは当然の機能もOperaがいち早く実装してきた。また、プラグインなどではなく標準機能として搭載されている点に特徴がある

クロスプラットフォームでより活きる「Opera Unite」

9月1日に最新版の「Opera 10.00」がリリースされたばかりだが、次期バージョンの「Opera 10.10」で搭載される予定の目玉機能として紹介されたのが、コンテンツ共有機能の「Opera Unite」だ。OperaがWebサーバーとして機能し、PCの中にある画像や音楽といったファイルを他のマシンから(家庭内LANにとどまらず、世界のどこからでも)アクセスして楽しむことができる。コンテンツを再生するクライアント側のブラウザはOperaである必要はない。

Webブラウザがコンテンツ共有のためのWebサーバーとして機能する「Opera Unite」。クライアント側(右画像)はOperaである必要はなく、ここではSafariを使用して音楽を再生している

PC同士でファイルを共有するのにも便利な機能ではあるが、これもクロスプラットフォームで使うことでさらにメリットが拡大する。例えば、PCやその他のデバイスに保存された画像をリビングのテレビで再生するといった仕組みを実現したい場合、現在ではDLNAなどの技術があるが、デジタル家電の開発において、そのような仕様を正しく実装するのはそれなりにコストのかかる作業だ。

それが、Operaを搭載するだけで実現できるとなれば、機器ベンダーにとってはOpera採用の大きな動機となる。今やWebブラウザはあらゆる情報機器に必須のソフトウェアであり、どうせ必要なら、他にもいろいろなことが可能になるOperaを選ぶメリットが大きいと考えるベンダーは存在するだろう。

冨田氏が日本を外していたこれまで日本のカントリーマネージャーを務め、10月からは新規ビジネス開発に専念するブレント森氏

これまで日本オフィスの代表を務めていたブレント森氏は、冨田氏の着任にともない、10月以降は国内の新規ビジネス開発に注力する。具体的には、KDDIや任天堂といった既存の大手顧客以外にもOperaの採用を拡大するのがミッションとなる。日本には世界的な家電メーカーが集中しているため、今後のOperaの戦略にとって極めて重要な地域となる。

また、ソフトウェアの品質向上という面でも日本市場の持つ意味は大きい。「日本の携帯電話やゲーム機にソフトウェアを提供する際の品質基準は、普通のPC用アプリケーションに比べ非常に厳しい。機器ベンダーはリコールを避けたいし、問題が発生したときには、例えば(auの携帯電話なら)KDDIのコールセンターに問い合わせが殺到する」(森氏)。日本の顧客の要求を満足するため品質に細心の注意を払ってきた結果、Operaブラウザ自体の品質が「ここ4~5年で大きく改善した」(同)という。

森氏は「数年前、インターネット機器を作りたいというお客さんのところに行くと、何万台とか、『もしかしたら10万台行くかもしれない』という規模の話だったが、今の市場を見ると、何十万台、何百万台という世界が見えてきている。これからはもっと面白くなる」と話し、今後Operaが進出できる世界はますます広がるとの見方を示した。