シャープは4月8日、2009年3月期通期(2008年4月 - 2009年3月)の業績予想について、2月の公表数値から大幅に下方修正した数値を発表した。同社代表取締役社長 片山幹雄氏は、下方修正の主な要因として「大規模な流通在庫の整備を行ったこと、液晶工場再編に伴う追加計上と古い資産の売却/除却推進、株式市場の下落による投資有価証券評価損の増加」の3点を挙げ、「2009年は2008年下期の経営環境が続いても収益を確保できる体制をつくる。そのためには今までのビジネスモデルを根本から見直す必要がある」と宣言、大幅な経営方針の転向を示した。また、大阪府堺市に建設中の第10世代の液晶パネル工場を10月から稼働させることも同時に発表された。
シャープが出した2009年3月期通期の下方修正数値は以下の通り。なお、特別損益として1,437億円(前回予想 1,187億円)を計上する予定だ。
2009年3月期通期連結業績 予想数値
売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期純利益 | |
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2月時点での予想 | 2兆9,000億円 | マイナス300億円 | マイナス500億円 | マイナス1,000億円 |
今回の予想 | 2兆8,500億円(マイナス500億円) | マイナス600億円 | マイナス900億円 | マイナス1,300億円 |
前期実績 | 3兆4,177億3,600万円 | 1,836億9,200万円 | 1,683億9,900万円 | 1,019億2,200万円 |
片山社長は業績下方修正について「大幅な在庫整備や古い資産の除却など、2009年度の収益改善に向けて取った措置による部分も大きい。今後は現状の課題を認識し、早期回復に努めたい」とする。具体的には、液晶工場の再編、人員体制の見直し、役員報酬および管理職年収の減額などを実施し、総経費2,000億円の削減を目指す。
「外部の経済環境に左右されない収益構造」(片山社長)を目指すためには、これまでのビジネスのありかた - 自社技術をもって自社工場ですべてを生産し、それを販売(輸出)することで利益を回収するというモデルでは限界があるとし、消費地の有力企業と提携し、消費地でのバリューチェーンを確立する、いわば"地産地消"型モデルに切り替えていくという。これにより投資額の最小化を図り、ほぼ同額のイニシャルペイメントを受け取ることで投資効率を最大化し、キャッシュフロー型のビジネスモデルを確立することを目指す。
すでに太陽電池事業においてはイタリアの電力会社・エネルと協業を進めているが、片山社長は「シャープがイタリアの電力会社とアライアンスを組むなどとは誰も想像できなかったのではないか。こういった協業は今までのシャープのやり方ではできない。(海外の会社と手を組む地産地消型ビジネスは)我々にとって大きなチャレンジだが、重要なのは液晶や太陽電池を現地で作ることではなく、シャープがもつ世界一の技術力で世界と手を組むことだ」と語り、日本で生産→輸出という従来のオペレーションを抜本的に改善すると明言している。ただし「太陽電池、液晶といったエンジニアリング事業以外の最先端技術はやはり国内をベースにするしかない。当面はマザー工場で培った事業を地産地消型に転換していくことから始める」ともしている。
今回の発表のもうひとつの目玉は"21世紀型コンビナート"と称される大阪・堺工場の10月稼働宣言だ。片山社長は「亀山第2工場は現在フル稼働中で、生産がとても追いつかない状態だ。正直、1 - 3月はかなり危険な状態で、操業率も半分程度だった。それがここ2、3週間で急激に注文が入り始めてきている。復活の要因は流通在庫の圧縮とパートナーとのアライアンスによる」と語り、「堺を10月には立ち上げないと需要に追いつけない。来年3月には量産化体制に入れるだろう」としている。世界初の第10世代マザーガラスを採用する堺工場は、40 - 60型クラスの大型液晶パネルを大量生産する能力をもち、数々の革新的な技術が導入されているという。「この工場からどんな液晶が生まれるのか、楽しみにしていてほしい」(片山社長)
底の見えない金融不況の中、これまでの経営方針の大幅な見直しを迫られている企業は多いが、シャープもまたその例に漏れない。経費削減、人員削減や在庫調整だけでは、為替変動など外部環境の変化に柔軟に対応していくことは難しい。きびしい時期に社長就任3年目を迎えた片山社長は、高い技術力とブランド力をもって現地に入り込む「インサイダー化」を最重要戦略として選んだ。「世界で一番最初に第6世代の工場を立ち上げた技術力で、積極的に世界に出て行く」と宣言した同氏だが、一方で国内工場の一部閉鎖にも踏み切っている。また主力事業の携帯電話端末は国内市場が縮小傾向にあることは否めず、逆に昨年進出した中国市場は今後も十分な伸びな期待できる。2009年度は主力製品の国内需要と海外展開のバランスをとりながら、より"選択と集中"を進めていくことが、同社の経営改革を成功に導くキーポイントになりそうだ。