MicrosoftのYahoo!買収提案を受けて、業界地図にまた新たな変化が起きつつあるようだ。かつては世界最大のインターネットサービスプロバイダ(ISP)であり、現在も大手ポータルとして存在感を示し続けている米America Online(AOL)だが、同社が長年にわたって提供を続けてきたダイヤルアップ接続サービス事業に幕が下りようとしている。AOLを傘下に収める米Time Warnerは2月6日(現地時間)、同社2007年第4四半期(10-12月期)決算の発表に合わせて事業改善のためのリストラ策を発表した。この中には、同社が8割以上の株式を握るCATV会社の米Time Warner Cableの持ち株比率削減のほか、近年落ち込みが顕著になっているAOLのアクセス事業(ISP)の分離などが盛り込まれている。

これは、Time Warner社長兼CEOのJeff Bewkes氏が6日早朝に公表したもので、米Wall Street Journalなどが報じている。その後、6日午後の四半期決算発表の中でアウトラインの一部が発表されている。Bewkes氏は、今年2008年1月付けでCOOからCEOへと昇格したばかりの人物。AOLとTime Warnerの合併を指揮した前任CEOのRichard Parsons氏(現会長)から受け継いだ役職での最初の仕事は、不採算事業の見直しとコスト削減、そして経営の効率化である。前出の2大リストラ案も、こうした新体制での優先解決事項にあたる。

かつては一世を風靡したビッグネームとはいえ、AOLのISP事業撤退はそれほど驚くべき話ではない。ブロードバンド対応が比較的遅れていた米国においても、DSLやCATVなどの新しいサービスが続々と登場し、ダイヤルアップを利用するユーザーは都市部を中心に大きく減少しつつある。また別の兆候としては、2006年8月に同社が発表したAOLサービス群の無料開放が挙げられる。AOLはダイヤルアップユーザー減少から来る収益減を、ポータルサイトやAOLサービスに貼り付けた広告で補うべく体制を整えつつあった。サービスの無料開放は、より多くのユーザーを呼び込むことで広告収入増を期待する意味を持つ。

これはGoogleやYahoo!、MicrosoftのMSNなどと同じビジネススタイルだ。AOLによれば、2007年12月31日時点での米国内でのISPサービスを利用するユーザー数は930万人で、前四半期終了時点からは74万人減少、前年同日より380万人減少と、急速に減りつつある。だが一方で通年の営業利益は前年比で微増とほぼ横ばいで、広告収入が契約ユーザー数減少をカバーしていることが分かる。

一方でAOLの次なる大きなチャレンジは、業界の大再編時代にいかに対応するかにある。同社は2005年12月にGoogleとの大規模提携を発表し、残る2つのライバルへの対抗を表明している。一方でMicrosoftでYahoo!買収提案を発表したことで、AOLには生き残りに向けたさらなるアクションが求められつつある。Googleとの提携をさらに強化するか、MicrosoftがYahoo!の買収に失敗した場合にAOL-Microsoft合併を模索する、あるいはYahoo!に対して何らかのアクションを起こすなど、複数のオプションが考えられる。現在は米国内で4大ポータル企業の1つとして名を連ねるAOLだが、今後はさらに淘汰や収れんが進むとみられ、AOLの去就が注目される。