高田サンコ先生が制作環境をアナログからデジタルへ一新するまでの道のりを追う本連載。今回は実際に高田先生の仕事場にペンタブレットを導入した様子や、その場で起きたことなどを紹介していく。
高田サンコ(たかださんこ)
管理栄養士の資格を持つ。代表作はドラマ化もした「たべるダケ」(小学館)など。月刊ヤングマガジン(講談社)にて「海めし物語」を連載中。今までのデジタル環境は約10年前のiMac。PhotoShopを使っているものの、ブラシなどの機能は使いこなせていない。
Wacom Cintiq Pro 16をSpin 7とともに運用
先に導入が決まったワコムの液晶ペンタブレット「Wacom Cintiq Pro 16(以下、Cintiq Pro 16)」の仕様について簡単におさらいだ。マットガラス仕上げでフルフラットになった15.6型の液晶画面を搭載。画面右上のキーでタッチ機能をOnにすると、マルチタッチも可能なタッチジェスチャー操作に対応する。片手でペンを使いながら逆の手でカンバスの拡縮や回転などが操作できるのだ。
解像度は最大3,840×2,160ドット(4K)、RGBカバー率は94%(CIE1976)。ペン精度も従来のプロペンの4倍となる8,192レベルを実現。本体背面には、描画しやすい20°に傾斜するためのスタンドを内蔵している。
PC初心者が本製品を導入する際に気を付けたい基本事項は、WindowsでもMacでも良いが、とにかくPCが別途必要だということ。言ってみれば、ペン入力に対応した外部ディスプレイなのである。
今回は、編集部がエイサーの「Spin 7(SP714-51-F78U/F)」を先生のために用意した。今年2月に発売された、厚さ10.98mmという超薄型で、独自設計の360°2軸回転ヒンジを備えた14型コンバーチブル2in1パソコンだ。
こちらもスペックを簡単に紹介しておく。CPUはIntel Core i7-7Y75(1.30GHz)、メモリが8GB(DDR3L-1600)、ストレージはSSD 256GB、グラフィックスはIntel HD Graphics 615(CPU内蔵)。OSはWindows 10 Home 64bitで、Microsoft Office Home & Business Premiumが付属する。14型の液晶ディスプレイは10点マルチタッチに対応し、解像度は1,920×1,080ドットのフルHD。本体サイズはW324.6×D229.6×H10.98mm、重量は約1.125kg。
全体的に見て先生にはもったいないほどのハイスペックマシンだ。
デジタルは愛に応える
Spin 7はUSB 3.1 Gen1 Type-Cコネクタを2基搭載し、うち1基をACアダプタ接続で使用する。このため、Cintiq Pro 16とはもう1基で接続する。Cintiq Pro 16はType-Cに標準対応するので、そのままつなぐだけ。
大丈夫、迷うところは何もない。
…はずなのに、のっけから問題が発生した。一体どうして。
先生は、描いたデータを外付けHDDに保存したいのだが、所有するHDDがType-Cに対応していないため、変換アダプタを用いないと保存できない。そのうえ、コネクタの数も足りないのでハブが必要になり、「どうしたら良いのか分からない」に陥ったのだ。
もっともこれは、外付けHDDを使いたいときだけ、Cintiq Pro 16を外して変換アダプタ経由でつなげれば当座は困らない。先生に的確な助け舟を出してくれたのは、デジタルにたしなみのあるアシスタントの「アシA子」だった。
アシA子は「そんなに詳しくない」と言いながら、デジタル音痴の先生に代わってアトリエで機材のセッティングや、セルシスのイラスト・マンガ制作ソフト「CLIP STUDIO PAINT EX(以下、CLIP STUDIO)」のインストールなどテキパキとこなし、先生に「これとこれを覚えてください」と必要な操作を教え込む。これは心強い。
アシA子に教わったとおり、いそいそと描く先生。太いブラシにしたのに細くしかならない、反応が遅い、ちゃんと保存できずに終了するといったトラブルも発生するが、アシA子が触ると問題なし。
「同じように操作しているのに、なんで~??」
初心者が一人で作業すると同じ操作をしても失敗率が上がる。これはもう、マーフィーの法則のようなものだ。
根本的な解決方法は「脱初心者」しかないが、例えば「誰かに見てもらいながら操作する」は、こんなときの対処方法としてかなり有効だ。この場合、アシA子が見守る環境であれば、アシA子が特に口を出すまでもなく、先生でもつつがなく操作できる可能性が高まる。
「デジタルに愛されたい…」とこぼす先生だが、こればかりはまずは自分から愛してあげるしかない。デジタルは愛に応えるのだ。
枠つけ、ベタ、トーンなど1つひとつ覚えていき、順調に滑り出した高田サンコデジタル化作戦。だが、一週間ほど経ったとき、頼りのアシA子が頭を抱えるトラブルが発生した!
アシA子の戦い
「2値化(ニチカ)できないんですよ」 アシA子がつぶやく。
2値化とは、濃淡のある画像を白と黒の2階調に変換する処理のこと。同じ黒でもグレースケールは濃淡が付くが、2階調では濃さの閾値を決めておき、その閾値を上回れば白、下回れば黒に置き換えて濃淡をなくす。
アナログで描いた下書きをスキャンすると、影などのノイズが入ったりモアレができたりする。2値化はこれらを取り去り、線をくっきり見せるために必要な作業だ。
どうやらスキャンしたカラー原稿にデジタルで手を加え、それを印刷用のPSDファイルに出力したいのだが、モノクロ2階調に落とそうとしても思うようにいかないらしい。
「再起動は試したの?」
とりあえず、言ってみる高田先生。
実はここに至るまでにもアシA子のいない時にツールバーが消えてしまい、どうして良いか分からずサポートに問い合わせ「再起動してください」と回答を得て助けられたことがある。「困った時の再起動」は既に先生の心に深く刻まれている。
答えを書いてしまうと、CLIP STUDIOではレイヤーを統合するか、ファイルに書き出す際に画像を統合することで2値化できる。レイヤーを統合すれば、閾値の細かい指定も可能だ。レイヤーを残したい場合は、複製を作って作業すると良い。
先生とアシA子の二人で四苦八苦で見つけ出した答え。知ってしまえばどうということもない操作でも、分からないうちは難易度も含めて分からないものだ。アシA子にも自分と同じように分からないことが出てきたことに、アナログ仲間としての共感を覚えると共に一抹の不安も覚える先生だった。
問題がアプリケーションであれば、まだ操作方法か設定の問題だろうと絞って考えられる。だが、ハードウェアに問題が起きた時に原因がパソコンなのかタブレットなのか、それとも違う何かなのか、見極めるのはより困難だ。
次回、高田先生のアトリエに、遂にハードウェアトラブルが到来する!?
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