初めての妊娠。右も左も分からない。そんななかで、人はそれぞれの悲しみや不安、楽しみや喜びを経験していく。本連載は、初産を経験したママやパパの”妊娠中期・後期”にフォーカスを当て、ひとりひとりのトツキトオカに迫る企画です。「仕事」「夫婦関係」「メンタル」の面から見える、それぞれの妊娠中の心の動き。第9回は、フリーランスでデザイナー・イラストレーターとして活躍する、さじきまいさんにお伺いしました。
産休のないフリーランス。仕事を断ることが不安で、辛かった
妊娠後、幸いにもつわりをほぼ感じなかったというさじきまいさん。体調もよく、仕事も今まで通り行うことができたので、妊娠している実感があまり湧かなかったといいます。
「安定期に入ってすぐ、取引先の方に妊娠を伝えました。『辛かったら休み休みで大丈夫』といった言葉をたくさんかけていただき、とてもありがたかったですね。体調が良かったので、つい仕事を頑張ってしまいそうでしたが、その言葉で『無理しすぎてはいけない』と気をつけることができました」
産休制度のないフリーランス。会社員のような仕事の引継ぎは必要ないものの、出産までの仕事量を自らコントロールしなければなりません。さじきまいさんは、取引先のフレキシブルな対応のおかげで、妊娠中に合わせた仕事への向き合い方を実現することができました。
本格的に出産後のことを考えて動きはじめたのは、妊娠9か月のころ。仕事をしつつ、復帰を見据えた「種まき」を行っていたんだとか。
「フリーランスなので、お休みをいただいてもその後に仕事がもらえる保証はありません。それなら『今のうちに、できることをやろう!』と、仕事をしながらWebサイトの更新や、ポートフォリオのまとめなおし、ブログの開設など、産後の仕事に繋がりそうなことを積極的にしていました」
妊娠中、ずっと仕事を続けてきたさじきまいさん。しかし臨月になると、仕事をセーブせざるをえなくなり、もどかしさを感じたそう。
「駆け込みの仕事をお引き受けしてもご迷惑をかけることになるので、事情を説明してお断りしたこともたくさんありました。仕事は好きなのでやりたかったのですが『今は我慢しなきゃ』と気持ちを抑えてましたね。断ることにより『このお取引先からのご依頼は最後かもしれない』と辛い気持ちにもなりましたが、その時は出産に集中しようと割り切っていました」
将来のための引っ越し。些細な価値観のズレが、夫婦のすれ違いに
さじきまいさんと同じく、フリーランスとして働いている旦那さん。時間を調整し、健診についてきてくれ、得意な料理を進んでやってくれるなど、積極的にサポートしてくれたんだとか。
しかし妊娠6か月目、引っ越しがきっかけとなり、夫婦の間に険悪なムードが流れたのだそう。
「子どもが育てやすく、保育園も入りやすいところに引っ越すことにしたのですが、同じフリーランスでも私は在宅、夫は外出が中心。そのため、アクセスや間取りでお互いが優先するところが違い、なかなか折り合いがつきませんでした」
最終的には旦那さんが折れてくれたことで、なんとか引っ越し先が確定。ところが、引っ越し前にまたもやトラブルが起こります。
「引っ越しの前日、夫に仕事が入り、さらにお世話になっている人と飲みに行ってしまったんです。1人では荷づくりが間に合わず、私がずっと不機嫌でむすくれているという状態でした。引っ越し後も片付けが大変で、なかなかテンションが戻らなかったですね(笑)」
引っ越し前後は、お互いの価値観のズレにより、旦那さんとのすれ違いを経験したさじきまいさん。しかし、その後はトラブルもなく、夫婦仲は良好だったそう。
「妊娠中や産後について、私以上に調べてくれたり、大好きなコーヒーも私に合わせてカフェインレスにしてくれたりと、そんな夫の思いやりが嬉しかったですね。料理が好きなので、栄養も常に気遣ってくれました」
そんな2人の趣味は、散歩。歩きながらいろいろと話をするのが恒例なんだとか。
「出産前は体重も増えていたので、いつもよりたくさん歩くようにしていました。家の近くや、病院の行き帰りに散歩することが多いですね。景色がいろいろ変わって気分転換になるし、『ここに新しいお店ができたんだね』と会話が生まれるんです」
1人より2人で歩きながら話すのが楽しい、というさじきまいさん。共働きで忙しいなか引っ越し以外ですれ違いがなかったのは、散歩がコミュニケーションの場となっていたからかもしれません。
体調もメンタルもずっと安定してた、だから出産直前は不安に
妊娠中はメンタルのアップダウンが激しくなるかも……と心配していたさじきまいさん。しかし実際は、妊娠前よりメンタルが落ち着いており、安定したマタニティ生活を送れたといいます。
そんなさじきまいさんでも、引っ越し前は突然寂しい気持ちになったのだとか。
「新しいお家に住むことが楽しみだったのですが、ある日外から夏祭りの太鼓の音や子どもたちの声が聞こえてきて、『毎年聞いていたこの音が聞けなくなるんだ』と、とたんに寂しい気持ちになってしまいました。」
そのあとの引っ越しも大変だったため、体力的にもメンタル的にもハードな時期を過ごしたさじきまいさん。しかし、新しい家に移ってから、保育園の入園準備で忙しくなり、落ち込んだ気分も徐々にもどってきたのだそう。
「1月が出産予定日だったので、4月から預けようと産前から保育園を探しはじめました。フリーランスは育児手当がなく、働かないと収入がストップしてしまうので、なるべくはやく仕事に復帰したいと、はやめの行動を心がけましたね。」
見学に入園準備と大変でしたが、保育園の入りやすさを考慮して引っ越したおかげで、比較的はやく入園先を見つけることができたんだとか。
そして仕事も落ち着いた臨月。予定日が迫ってくるにつれて、出産をリアルに感じて不安を感じることが増えていったとさじきまいさんは言います。
「子どもに会えるのは楽しみでしたが、いざ生むとなると『陣痛は痛いんだろうか』とか『子どもは無事に生まれてくるだろうか』といった不安が頭をよぎりました。これまで体調がよかったぶん、カウントダウンが近づいてドキドキしていましたね。でも、『やるしかないんだから』と考えて、不安を乗り越えました」
時間の使い方は、自由に決められる。でも、自分で自分を守らなければならない。そんなフリーランスのメリット・デメリットを背負い、さじきまいさんは妊娠中も、仕事のセーブや種まき、子どものための引っ越しや入園準備と、常に半歩先を考えて行動してきました。目の前の課題に一生懸命立ち向かうのも大切ですが、常に先を見据えることができれば、より良い未来を切り開けそうですね。
最後に、前回インタビューしたガスケール杏子さんの質問「妊娠中、一番やって良かったことは何ですか?」にお答えいただきました。
「子どもが生まれてからでは楽しめないようなことです。夫と行った展覧会や居酒屋、外食などのほか、好きな絵を描くなど、自分だけの時間を楽しみました」
さじきさんが次の方に聞きたい質問はこちら。
こちらの質問は、次回の方にお聞きします。第10回の連載をお楽しみに!
※本記事はオンライン取材にて実施致しました
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