初めての妊娠。右も左も分からない。そんななかで、人はそれぞれの悲しみや不安、楽しみや喜びを経験していく。本連載は、初産を経験したママやパパの”妊娠中期・後期”にフォーカスを当て、ひとりひとりのトツキトオカに迫る企画です。「仕事」「夫婦関係」「メンタル」の面から見える、それぞれの妊娠中の心の動き。第10回は、日本ハンドボールリーグの選手として活躍していた高木エレナさんに伺いました。

  • 高木エレナさんプロフィール
    会社勤めをしながら、日本ハンドボールリーグの三重バイオレットアイリスに所属。2歳の息子と、ハンドボール選手の夫と3人暮らし。妊娠前後は、コーチとしてチームに貢献。現在は育児を優先し、会社員としての日々を送っている。

選手を続けると決めたときの妊娠。赤ちゃんからのメッセージだと思った

朝から16時半頃まで出勤し、その後ハンドボールの練習に行く日々を過ごしていた高木さん。実は、妊娠がわかる前から選手の引退を考えていたのだそう。

「子どもも欲しいし、新しい生活を築いていきたいと、監督に引退を相談しました。でも『どんな形でもいいからチームに残ってほしい』と言われ、選手として続けると決めたとき、妊娠したんです。なんだか赤ちゃんが『休んでいいよ』と言ってくれている気がして……ゆっくりできる期間をもらえたと、プラスに捉えることができましたね」

  • 妊娠のタイミングには、高木さんも驚いたそう

現役を続けることを決意した直後の妊娠。産後の復帰について、迷わないわけではありませんでしたが、妊娠中はあまり考えないようにしてたんだとか。

「復帰については産後、自分がどう思うかで決めようと考えていました。ちょっとでもやりたいならもどろう、無理そうなら引退しよう……と。妊娠中から『もどろう』と思いすぎると、プレッシャーになってしまうと思ったので、流れに身を任せることにしましたね」

安定期に入ってからは、軽いジョギングや身体づくりをしつつ、ゴールキーパーコーチとして、後輩を育成する役割を担うように。プレーできないことに疎外感はなく、チームに一体感を感じていたのだそう。

「女性ばかりのチームなので、妊娠中は周囲がとても気にかけてくれました。おかげで負担を感じることもなく、とてもありがたかったですね。それでもチームが負けるのは悔しかったので、試合に出れなくても、ベンチからできる限りのサポートをしていました」

  • 「できることは全力でしよう」と、妊娠中もチームのことを考えていたんだとか

練習では、プラス思考で過ごしていた高木さん。しかし、日中の仕事は、実業団選手としての雇用だったため、産後も仕事を続けるかどうかで悩むこともあったといいます。

「出産後、もしチームを引退したら、仕事もやめなくてはいけないのだろうか……そんなことを考えて、苦しい思いをした時期もありました。でも勇気を出して職場に妊娠を告げてみたところ、身体を配慮して、立ち仕事からデスクワークに変えてくれたんです」

会社に打ち明けたことで、モヤモヤしていた気持ちもクリアに。しかし、慣れない仕事に就いたことでミスが続き、落ち込んだこともあったのだとか。

「ミスが続くと自信を無くしてしまい、周囲に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。ただ、少しずつ仕事にも慣れ、産休に入る前にはミスもなくなり、自信を持てた状態で産休に入れたのはとても良かったですね」

  • 周りに分からないことが聞きやすくなったのも、ミスがなくなった理由のひとつだといいます

また、職場には育児中の先輩ママもいたため、理解があったのも助かったのだそう。育児で心配なこともたくさん聞くことができ、出勤するたびに不安を取り除くことができたといいます。

つい、当たってしまう私を「個性」と受け止めてくれる夫に救われた

妊娠中、高木さんと旦那さんの関係は至って良好。健診には、できるだけ二人で行っていたのだそう。

男性は、妊娠の実感がわきにくいと思っていたので、なるべく時間を合わせて赤ちゃんの様子を見に行ってました。私が感じている胎動を、一緒に感じてほしかったんです。それでもはじめはピンときていなかっですね。でもお腹が大きくなるにつれて、『今、蹴ったね!』と嬉しそうにしていたのは、見ていて私も嬉しかったです」

  • 「男の人は、妊娠が実感しづらいのかもしれない」となんとなく感じていたそう

もともとメンタルのアップダウンが激しいという高木さん。妊娠中にはそれがさらに顕著になり、旦那さんに当たってしまったこともあったといいます。

「胎動がないとき、本当に赤ちゃんが生きているのか不安になってしまって……。そんなとき、食器が出しっぱなしだったりすると、イラッとして夫に当たってしまうんですね。後で謝ると、『それがありのままなんだから、変わらなくていいんだよ』と言ってくれるんです。その言葉に本当に救われましたね」

妊娠前から高木さんの性格を踏まえて、「それがエレナの個性」と受け入れてくれた旦那さん。そんな旦那さんを、高木さんは「仏のような人」と思っており、とても感謝しているんだとか。

「なんでこんなに気分が浮き沈みするんだと、自己嫌悪になることも何度もありました。でも、夫が『エレナのままでいいんだよ』と伝えてくれるうちに、『自分はこういう人間なんだ』と受け入れることができたんです」

  • いつでも"ありのまま"を受け入れてくれる旦那さんを「仏のよう」と心から思っているのだそう

お互いを認め合い、妊娠中も支え合っていた2人。しかし妊娠目前、高木さんは里帰り出産でのために、ひとりで実家へ帰ることになりました。

「離れ離れになるのは寂しかったけど、毎日のように1~2時間テレビ電話で話すようになり、関係性がより深まったように思います。一緒に暮らしていると他愛もない話をする時間は少なくなりますよね。離れたことで、そういう時間が改めて作れて良かったです」

出産直前、赤ちゃんが元気に生まれてくるか不安になることが何度もあったという高木さん。しかしそれは、旦那さんも同じだったといいます。

「私の前では普通だったんですが、後から聞くと夫も相当不安だったみたいで……『俺が不安がると、エレナが余計不安がるから』と気丈に振る舞ってくれていたらしいです」

いつでも、高木さんのことを一番に考えてくれた旦那さん。だからこそ、高木さんも思いつめすぎず、妊娠中を過ごすことができたのかもしれません。

不安は誰かに伝えることで、乗り越えることができた

妊娠がわかった後、高木さんはインターネットで情報収集を行い、ジンクスのようなことまで、試していたんだとか。

「出産前にカレーを食べた方がいいとか、目にするものを手あたり次第試してました(笑)でも、効果がないものが多かったです。今思えば、ネットに頼らなくても、意外となんとかなるのかもしれません。雑誌で見た赤ちゃんグッズも、職場の先輩ママに聞くと『必要ないよ』なんて言われたりしましたね」

高木さんは、とにかく不安を感じやすい性格。妊娠中期は、「赤ちゃんは大丈夫かな?」と不安が絶えない毎日を過ごしていたのだそう。しかし、周りにはその姿を見せなかったため、実際の自分と周囲から見た自分とのギャップに苦しんだこともありました。

そんな辛い時期を乗り越えられたのは、不安な気持ちを誰かに話すようにしていたからだと高木さんはいいます。

「何が不安かわからなくても、まずは夫に伝えるようにしていました。すると、たくさん質問をしてくれて原因まで導いてくれるんです。解決しなかったとしても、話すだけで心は落ち着くので不思議ですよね。日中の仕事の悩みなどは、同じ境遇にあるチームメイトに相談するようにしていました。何が不安か分からないままだと、どんどん気分は落ちていくので、まずは自分で発信してみることが大切だと思います」

  • 「わかってもらおうとせず、自分から話す」が高木さんのポリシー

初めての妊娠は、分からないことだらけ。だからこそ、不安が強く感じてしまう人もきっといるでしょう。高木さんは、そんな自分の性格を受け入れ、理解し、積極的に人に相談しながら前へ進んできました。また、産後の不安は後で考えるなど、「今の不安」と「未来の不安」を切り分けて向き合ってきたのも、高木さんならでは。

問題に直面したときに「自分で頑張ろう」「すぐに解決しよう」と考えることは素晴らしいことですが、思い切って周りに頼ったり、後回しにしてみると、新しい世界が見えてくるかもしれません。

最後に、前回インタビューしたさじきまいさんからの質問「家族以外の周りの人にしてもらって、嬉しかったことは何ですか?」にお答えいただきました。

「チームメイトが妊娠に興味を持って話しかけてくれたり、体調を気遣ってくれたり、荷物を持ってくれたり……。すごく寄り添ってくれたのが嬉しかったです」


職業も年齢も、境遇も違うママたちの妊娠中を、「仕事」「夫婦関係」「メンタル」の側面から振り返ってきた連載「トツキトオカ」は、今回で最後。人によって本当にさまざまなエピソードがあると改めて分かりましたね。妊娠中の正解に迷ったら、ぜひ過去の記事も含めて読み返してみてはどうでしょう。自分らしい妊娠中のカタチを見つけるヒントが、もしかするとあるかもしれません。

※本記事はオンライン取材にて実施致しました


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