家事・育児を夫婦で”一緒にする”ことが、浸透しつつある昨今。2人だからこそ、スムーズにこなせることも多いですが、お互いの認識の「ズレ」にもどかしさを覚える方もきっといるはず。
例えば、食器洗いひとつとってみても、片方が「食器を洗えばOK」と思っているのに対し、もう片方は、食器を洗って、シンクを掃除して、フキンを変える……までが全ての行程と認識している場合もありますよね。
本連載では、そんなタスク前後工程での夫婦のすれ違いを『ズレ家事』『ズレ育児』と称し、「なぜ起こるのか」「どうすれば解消するのか」を様々な分野の専門家をゲストとしてお招きし、共に考えていきます。
今回は、立命館大学産業社会学部教授で共働き社会やワーク・ライフ・バランスなどの研究をされている筒井淳也さんに、「ズレ家事」「ズレ育児」が起こる背景や、それらを解消する方法についてお伺いしました。
Talk to ... 筒井淳也 / 立命館大学産業社会学部教授
1970年福岡県生まれ。一橋大学社会学部卒業。同大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。博士(社会学)。著書に『結婚と家族のこれから~共働き社会の限界~』(光文社新書)、『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)など。
男女のズレは「時間的余裕」や「所得格差」が理由ではない
――家事や育児の「ズレ」は、夫婦の間で起こりがちです。なぜ、男女で差が出てしまうのでしょうか?
家事分担は、50年ほど前から研究されています。そのなかで「時間的余裕のあるほうが担当している」「所得の少ないほうが担当している」と説明しようとしていたのですが、これらの理由では夫婦間の家事分担の差があまり説明できないということが分かってきました。
データを分析すると、日本の男性は時間的余裕があったり稼いでいなかったりしても、家事をしない傾向があります。つまり、違うところにも原因があるようなのです。
日本の夫婦は、夫婦がほぼ同じ条件で働いて、同じくらい稼いでも、妻のほうが週あたり10時間も多く家事をしているという結果が出ている
※クリックで拡大画像をご覧いただけます
――では、どこに原因が……?
第三の要因として考えられるのは、価値観や規範意識ですね。そもそも「家事は女性がやるもの」と、男女ともに思い込んでいる。ただそれには、確固とした理由があるわけでもないようです。
家事をしない男性が数多く存在する日本の社会で、「自分はしなくてはいけない」とはなかなか思えないものです。変わるとしたら社会全体で変わっていく必要があり、これにはある程度の時間がかかります。
家事を仕事と捉えれば、自然と動き方がわかるはず
――ズレ家事、ズレ育児はどのようなケースが多いと思われますか?
どんな仕事でもそうですが、目立って分かりやすいタスクはやりやすいですよね。例えば、「子どもをお風呂に入れる」「食器を洗う」などです。
本来はそのための準備や後工程なども育児であり家事なのに、それを認識していない人が多いのでしょう。
ところが、家ではわかりやすく目立つ作業しか担当しない人でも、会社ではいつもそんな風に仕事をしていないはず。わかりやすく目立って、お膳立てされたタスクだけをやる人がいたら、それって「仕事ができない人」ですよね。
――厳しいですが……たしかにそうですね。
家庭内の「無償労働」と家庭の外の「有償労働」は似ているところがあるのに、無償であるがゆえに家事は低く見られがちです。家事を低く見ている男性は、仕事の全体像が見えていないのです。「ひとつの目立った家事には、それに付随するたくさんの作業がある」ということに想像が及ばないんですね。
「相手の負担を減らす」という観点で考えてほしい
――そもそも「家事は女性が多くやるべきだ」という思い込みがあったり、男性が育児や家事を仕事より低く見る人がいる現状で、「ズレ家事」「ズレ育児」を解消するにはどんな方法があるのでしょうか。
まず、「家事や育児には、仕事と同じような側面がある」という認識をしてもらいたいですね。もっと分かりやすく言うなら、「職場で一緒に働きたい人になる」という観点で考えてほしい。仕事では、「メンバーの負担を減らす人」が重宝されます。逆に、「メンバーの負担を増やす人」は最悪です。
ですから、家事をするときには、漠然と「手伝い」をするのではなく、「パートナーが楽になる」ことを明確な目標とすると良いと思います。さらに、「パートナーが楽になった」という結果もちゃんとチェックする。仕事と同じように捉えれば、一見単純にみえる家事の背後にある複雑さも見えてくるのではないでしょうか。
――心がけとして「仕事のように考える」のは良さそうです。一方で、自分からアプローチする際、具体的な方法はありますか?
家事のうちの一部を切り出してやってもらうのではなく、丸ごと任せてみるのが良いと思います。「その日の夕飯を作ってもらう」だけでは、仕事の真髄は理解されません。1週間、2週間と任せてみると、食品の在庫管理も含めて、食事の準備がいかに複雑かが分かっていきます。
――それほど長い期間担当すれば、たしかに見えない家事が見えてきますね。
そうなんです。ただ、家事の種類でそのスパンはかわります。洋服の整理などは1年間担当しないと分からないでしょう。防虫剤や除湿剤、衣替え、子ども服のサイズアウトなどは、1~2週間の仕事では見えてきませんから。
「話らしい話」をする夫婦は関係性をキープできる
――「ズレ家事」「ズレ育児」に関わらず、夫婦が良い関係でいるために、どんなことを意識すると良いのでしょうか?
統計データを見ると、「夫婦関係満足度」は結婚した当初が最も高く、そのあとに急激に下がり始めます。そのままずっと下がって、戻ってくることがないんです。
――それは……辛いですね。
ただ、ある程度の満足度を維持している夫婦を見ると、明らかにちゃんと会話をしているんですね。それはおそらく、「猫に餌あげた?」といった小さな話ではなく、思ったことや考えていること、少し言いづらい話をすることで、相手と気持ちを共有しているのだと思います。
将来のこともいいですね。話しておくことで、突発的に降りかかる介護の問題などにも比較的うまく対応できます。ため込まずに話すことで、「相手と自分は違う」という前提に立つこともできます。
――相手と自分が違う部分を分かっていれば、不満も少なくなりそうです。
相手の考えや気持ちを頭の中で再構築する「想像力」を発揮してもらいたいですね。家事や育児で相手の負担を減らすには、相手をしっかり観察し、頭の中身を想像する必要があるでしょう。
ちなみに、ある程度は「鈍感力」も大事だと思います。お互い細かいことに気がつきすぎてしまうと、どうしても息苦しくなってしまう。バランスが大事だと思います。
――筒井さん、ありがとうございました。
家事や育児を仕事と捉え、全体像を把握してもらうと良いとのことでした。任せるときは、付随する見えない家事も把握できるよう、長期で任せるようにしたいもの。また、「相手の負担を軽減する」という観点で家事・育児に取り組むというのは、夫婦でお互いに心掛けたいですね。
[PR]提供:ピジョン