家事・育児を夫婦で”一緒にする”ことが、浸透しつつある昨今。2人だからこそ、スムーズにこなせることも多いですが、お互いの認識の「ズレ」にもどかしさを覚える方もきっといるはず。
例えば、食器洗いひとつとってみても、片方が「食器を洗えばOK」と思っているのに対し、もう片方は、食器を洗って、シンクを掃除して、フキンを変える……までが全ての行程と認識している場合もありますよね。
本連載では、そんなタスク前後工程での夫婦のすれ違いを『ズレ家事』『ズレ育児』と称し、「なぜ起こるのか」「どうすれば解消するのか」を様々な分野の専門家をゲストとしてお招きし、共に考えていきます。
今回は、家事や育児の専門家として、「家事シェア」という言葉を広めた三木智有さんにインタビュー。「ズレ家事」を解消する方法や、生まれたばかりの赤ちゃんに対する「ズレ育児」を作らない方法をお伺いしました。
Talk to ... 三木智有 / NPO法人tadaima!代表理事
家事シェア研究家・子育て家庭のモヨウ替えコンサルタント。 フリーのインテリアコーディネーターとしての活動後、家事シェアを広めるためNPO法人tadaima!を設立。夫婦での家事分担だけでなく、子どもへの家事教育を地域で担える場作りも行う。
著書に『家事でモメない部屋づくり』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。
タスクの終わりは「次の人が使いやすい」状況を心がけて
――三木さんは、「ズレ家事」についてどのようにとらえていますか?
日常生活の「あるある」だと思います。例えば、食器洗いを、「食器を拭いて食器棚にしまうまで」と考えている人が「水切り籠に入れるまで」で終わっている人を見ると、イライラしますよね。
そもそもイライラには「洗濯物を干す時間がない」といった、家事そのものに対する”負担”と、「なんで何もしてくれないの」といった、相手に対する”不満”の二種類があります。”負担”は、全自動洗濯機や家事代行でカバーできますが、”不満”はお互いの認識を改めなければ解決しません『ズレ家事』は、”不満”が引き金となって起こっている問題だと思いますね。
――なるほど、わかりやすいです!『ズレ家事』を解消するには「タスクの終わり」を夫婦で揃えることが大事なのでしょうか。
そうですね。でも「食器を洗ったら食器棚に片付けよう」とか「ごみ捨ての後はごみ袋を補充しよう」とか、すべてにルールを決めていくのは大変ですよね。そこでおすすめなのが、「家事は、次の人が使いやすくするための準備」という共通認識を持っておくということ。そうすると、自然と家事の終わりがお互いにとって心地良いものに変わっていきますよ。
――たしかに、軸があると行動しやすいですね。『家事分担』と三木さんが提唱されている『家事シェア』はどう違うのでしょうか。
一般的に言われている『家事分担』は、ママあるいはパパのどちらかが家事を主に担っていて、それを別の人が上手に手伝うイメージです。一方で『家事シェア』は、「家事や育児はみんなの仕事だよね」という認識。
家族をチーム化していくので、うまくいかないときには「誰かが悪いのではなく、みんなが協力し合えなかった」と考えるようになります。
家事シェアは、自分たちに合うパターンを選んで
――家事シェアが実現できたら、夫婦の力が強まりそうですね。ちなみに、『家事シェア』は具体的にはどのようなものなのでしょうか。
ざっくりと『家事シェア』には、「シュフ型」と「担当型」の2パターンがあります。
「シュフ型」は、ママ(あるいはパパ)がトップとして、家族や家事代行に指示を出していきます。ただこの形は、「嫌な顔をされるんじゃないか」と思いながら指示をする・忙しいときに限って指示される……など、指示をする側とされる側に精神的負担がかかってしまいがちです。
そこでおすすめしているのは、相手のスケジュールをブロックするということ。「土曜日の10時から1時間はお願いね」と決めておいて、やることはその時に指示すると、スムーズにコミュニケーションがとれますよ。
――それは頼む方も頼まれる方も気持ちがよさそうですね。「シュフ型」ではない「担当型」はどんなものですか?
「料理はママ」「掃除はパパ」というように、担当を決めるスタイルで、相手の担当分野には口を出さないのがポイントです。しかし、「パートナーが、いつまでたっても家事をする気配がない」といった不満が溜まることがあるでしょう。
その場合は、「お風呂に入るまで」「朝起きるまで」といった具合に、おしりを決めてあげるといいです。約束を過ぎている事実は伝えやすく、相手も受け入れやすいので、「いつになったらするの?」と指摘するよりも、良好に話が進みやすいですよ。
――2つのタイプがある家事シェアは、どこから始めればいいのでしょうか?
「シュフ型」「担当型」、どちらが自分たちに合うのか、話し合いで見つけていきましょう。「いったん、1~2週間はシュフ型でやってみよう」とトライして、そのあとに担当型を試してみる……といった風に対話しながら「改善していく」ことが大切です。
――なるほど。逆に、家事シェアでうまくいかないケースはどんなものがありますか?
対話の席につけない方が多いです。根深い場合には夫婦のコミュニケーションの問題になるので、専門家の助けが必要かもしれません。しかし、「言う前から断られると思っている」という方が意外と多いんですよ。「勇気を出して言ってみたらうまくいった」「責めるような言い方をやめたら相手が変わった」なんてケースもあります。
他にうまくいかないのは、片方の家事スキルが低い場合。できない方に料理を任せると、家族全体がまわらなくなってしまいますよね。それでも、「切ってある材料を焼くだけ」といった料理キットを使うなど、工夫次第でうまくいくことも。洗濯なら縮みやすいものとそうでないもので担当をわけるなど、ひとつのタスクをシェアするのもいいですよ。
大きなミッションのなかには、必要なタスクが詰まっている
――家事だけでなく育児が加わると、家事シェアもさらに工夫が必要だと思います。赤ちゃんが生まれたあとに気を付けるべきことはありますか?
赤ちゃんが生まれたときには「ママが抱っこすれば泣き止むのに、パパでは泣き止まない」ということがよくあります。でも、そこでママに任せないようにしましょう。ママとパパで知識やスキルのギャップを作らないことが大切なんです。
――ひとつひとつのタスクを、夫婦でするといいんですね。
そうですね。あとは普段仕事をしている方に、「赤ちゃんとふたりで1日お留守番」「赤ちゃんと遠出をしてカフェでお茶して帰ってくる」といったミッションをこなしてもらうのもおすすめ。
「ギャン泣きされて、自分のご飯が全く食べられない」「ミルクをこぼしてしまい、後始末が大変」といったことを経験すれば、「今日は赤ちゃんとカフェに行ってきた」というパートナーの言葉に、「君は優雅でいいね」と思うようなズレはなくなるでしょう。また、「ミルクをあげる」「おむつを替える」など、必要なタスクも一通りできるようになりますよ。
――最後に、夫婦の関係をよくするために大切なことを三木さんの観点で教えてください。
相手を論破しないことです。理詰めで説得すると一時的に思い通りになるかもしれませんが、相手にはイライラやむかつきが残ります。難しくはありますが、相手の立場に立って話し合いをして、前向きな妥協をしていくといいと思います。
――三木さん、ありがとうございました。
家族にぴったり合う家事シェアの形を見つけ、お互いのズレをなくしていきたいですね。そのためには、対話の場が大切。相手を論破しようとせず、寄り添っていくよう心掛けてみましょう。
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