家事・育児を夫婦で”一緒にする”ことが、浸透しつつある昨今。2人だからこそ、スムーズにこなせることも多いですが、お互いの認識の「ズレ」にもどかしさを覚える方もきっといるはず。
例えば、食器洗いひとつとってみても、片方が「食器を洗えばOK」と思っているのに対し、もう片方は、食器を洗って、シンクを掃除して、フキンを変える……までが全ての行程と認識している場合もありますよね。
本連載では、そんなタスク前後工程での夫婦のすれ違いを『ズレ家事』『ズレ育児』と称し、「なぜ起こるのか」「どうすれば解消するのか」を様々な分野の専門家をゲストとしてお招きし、共に考えていきます。
記念すべき第1回目は、産前産後ケアanzuccoのCEOとして、たくさんの産前産後に向き合ってきたガスケール杏子さんにお話をお伺いしました。
Talk to ... ガスケール杏子 / anzucco CEO
自ら子育てをする傍ら、産前産後ケアサービスを提供する『anzucco』を経営。
インストラクターや助産師の派遣など、ママを対象にした出張ケアを提供している。
タスクのゴールの所在を明らかにすることが大事
――まずは、ガスケールさんが考える、『ズレ家事』『ズレ育児』について教えてください
『ズレ家事』よりも『ズレ育児』の方が複雑化しやすい印象ですね。固定化された家事とは違い、子どもが月齢を追うことに、やるべきタスクが変わってくるので。産休などで日中も子どもと接するママの経験値がどうしても上がってしまい、夫婦間に溝が深まりやすいなと。
――例えば、お客様の事例で『ズレ育児』を感じたことはありますか?
私のお客様はママなのですが、お子様に湿疹ができ、皮膚科で処方された薬の塗布をパパにお願いした方がいらっしゃいました。パパは言われた容量・タイミングを守って塗ってくれていたそうなのですが、湿疹が治っても塗り続けていたそうなんです。
薬を塗る目的は、皮膚の湿疹を治すことですよね。しかし、この夫婦の場合はその目的がママにしか見えていなかった。「湿疹を治すために薬を塗っていて、湿疹が消えたら塗らなくてもいい」というゴールを、お願いする前に共有することが大切だったんです。
――なるほど。“ゴールをシェアする”ことができていないから、『ズレ育児』が起こったと
そうですね。例えば、「おむつを取り替えたら、汚れたおむつを捨てるところまでがゴール」という認識を夫婦でもっていれば、おむつ替えを「した」「してない」で揉めることはなくなりますよね。
自分が「パートナーが家事をちゃんとしてくれない」と悩んでいたとしても、蓋を開けてみれば、相手はゴールが分からなくて、何をしていれば良いか分からなかっただけ……ということもあります。
ただ話すだけのコミュニケーションでは、ズレは埋まらない
――見ているゴールが違うから、「ズレ」が生じるんですね。では夫婦でゴールを共有するにはどうすればいいのでしょうか?
コミュニケーションですね。とはいっても、コミュニケーションをとらない夫婦はいないと思います。大切なのは、”効率的なコミュニケーション”をとっているかどうかです。
例えば、水回りの掃除をするときに「ごみも捨ててほしい」と思っていたとして、相手にそのまま伝えてしまうと、圧迫感を与えて溝が深まってしまいます。どうして捨てる必要があるのか、その目的まで共有することが、お互いがゴールを認識するうえで大切なんです。
――「目的」を伝えるとは、具体的にどのようにすればよいのでしょうか
よく私はワーキングマザーのお客様に「会社でも同じコミュニケーションをとりますか?」とお聞きしています。「お仕事では、『何も考えずにこれだけやって』とは言わず、目的や背景を説明してから依頼しますよね。また、状況が変わったら、それも共有すると思います。それと同じように考えてみてはどうでしょうか。
タスクのゴールが、なぜそれなのか、目的や背景を伝える。子どもが大きくなって、やるべきことが変わったら、その理由も伝える……という風に。
――すごくわかりやすい例ですね!
ありがとうございます。あとは、目の前の家事・育児だけでなく、さらに先のゴールとして「将来、子どもにどうなってほしいか」を事前に話し合っておくとベストです。
そもそも夫婦で育て方が一致していないと、教育方針や学校選びで大きな「ズレ」が生じてしまいます。
「そんな先のことを考えられない」と思う方もいるかもしれませんが、新年に立てる「今年の目標」くらいの感覚で話し、徐々にすりあわせていくことで、具体的なゴールが見えてきますよ。
育て方は一瞬では到底すり合わせられないので、長期的な議題として、コミュニケーションをとっていく必要があります。
キャパシティオーバーは、コミュニケーション以前の問題
――ちなみに、他に「ズレ」をなくすうえでのポイントはありますか?
キャパシティでしょうか。共働きの場合、物理的に家事や育児にまわせる時間が少ないので、家事と仕事を両立していたところに、育児がプラスされると「まわらない」という事態になりかねません。ママが産休中で、パパが忙しく働いており、うまく協力できない場合も、同じようなことがいえますね。
忙しいとコミュニケーションも十分にとれず、ゴール設定も未完了になってしまうので、もしキャパシティが問題なら、すぐに見直す必要があります。
――なるほど。ちなみに、キャパシティを適正に保つにはどうすればよいのでしょうか
外部サービスを積極的に利用することでしょうか。家事代行などは、昔は高額でしたが、今は価格帯も抑えられてます。
私は、「子どもが小さい時は、忙しすぎて記憶がありません」と言うお客様をたくさん見てきました。でもそれって、せっかくの貴重な時間なのに、本当にもったいないと思うんです。家事代行サービスを使って余裕ができれば、子供と遊ぶ時間も夫婦のズレを解消するための時間も作れますよね。
――でも、他人を家に入れることにハードルを感じる方も多いように思います
その気持ちも、もちろんわかります。でも『どうしたら、もっと良くなるのか』という点を重視して、まずは試してみる勇気を持ってほしいです。合わなければやめればいいんですから。
anzuccoでは、助産師を自宅へ派遣するサービスを行っていますが、お客様のなかには「母乳ケアは産院でしかできない」と思い込んでいた方もいらっしゃいます。でも、「本当に助産師は産院に行かなければ会えないのか」と考えると、実はそうではないですよね。
人って、悩んでいると視野が狭くなってしまい、「いつまで続くんだどう」と不安になってしまいがちです。でも「離乳食を作っている時間がない」とか「育児に時間がかかり、家事に手がまわらない」といった悩みは、子どもが成長するにつれて解消されていきますよね。
そういった短期的な悩みは、外部サービスに頼ってもいいんです。そのうち子どもは離乳食以外を食べるようになるし、1人で何でもできるようになりますから、自然と「他人に頼る」ことも終わります。
逆に、長期的な問題はずっと続くので、自分たちで解決する必要があります。問題を期間と重要性で色分けしてみると、キャパシティを落ち着いて見直せますよ。
――最後に、より良い夫婦のカタチを実現するために、読者にメッセ―ジをお願いします
せっかく子どもが産まれたからには、毎日の家事や育児を楽しんでください!でも、そのためには、夫婦ともに「子育て同級生」という意識をもつことが大切です。
例えば、夫婦間に情報や経験の格差が生じてしまい、「片方が何でも聞いてくる」というケースをよく聞きます。そんなときは、「私も知らないから、毎回検索しているんだよ」と伝えてみましょう。そうすることで、双方の上下関係もなくなり、家事や育児に対するズレも縮まります。
また、自分でやったほうがはやいことも、相手に調べてやってもらうことで、経験値の差も埋まるので、「私ばっかり」とモヤモヤすることもなくなりますよ。
車の運転はパパもママも必要に応じてしますよね。それと一緒で、子育てもどっちかがするというものではなく、二人ともできる理想の家庭を目指していってください。
――ガスケールさんありがとうございました!
「夫婦でコミュニケーションをとっているのに、ズレが埋まらない」「忙しくて、そもそもの夫婦の時間がとれない」という方は、ぜひ効率的なコミュニケーション・キャパシティの見直しを実践してみてはどうでしょう。きっと、今よりももう一歩、夫婦の距離が縮まるはずですよ。
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