新しいキャリア、新しい場所…。新しいことにトライするには、苦難や苦労がつきものです。ただ、その先には希望があります。本連載は、あなたの街の0123でおなじみの「アート引越センター」の提供でお送りする、新天地で活躍する人に密着した企画「NewLife - 新しい、スタート -」。第9回目は、元アナウンサーの前田有紀さんにお話をうかがいました。
キー局のアナウンサーからフラワーアーティストに転身
「やべっちF.C. ~日本サッカー応援宣言~」の進行アシスタントをはじめ、スポーツ、バラエティー、ニュースなどの数々の番組に携わってきた元テレビ朝日アナウンサーの前田有紀さん。
2013年にテレビ朝日を退職した彼女が選んだ職業は、フラワーアーティストでした。一生安泰ともいわれる大手企業を辞めてまで始めた“花の仕事”。
挑戦することを決めた当時の心境やその後の奮闘から、前田さんが人生を切り拓くうえで大切にしているものが見えてきました。
忙殺された心を癒やしてくれた、たった一輪の花
学生時代はラクロスに熱中していた前田さん。「スポーツにまつわる仕事に就きたい」とテレビ局のアナウンサーを志望することに。
入社試験ではひとりだけ真っ黒に焼けていて場違いな思いをしました(笑) |
しかし、結果は見事合格。最初に受験したテレビ朝日から内定をもらい、就職活動はたった2週間ほどで幕を閉じました。
晴れてアナウンサーとなった前田さんですが、入社して間もない頃は想像以上の忙しさと不規則なライフスタイルに苦労したと言います。
深夜まで働くこともあれば、早朝の番組に出演するために、午前2時から3時頃に出勤する日もあって、テレビ局勤務特有のリズムに慣れるまで3年ほどかかりました |
ただ、取材に出かける機会に恵まれ、一流サッカー選手などの人柄や想いから大きな刺激を受けるうちにアナウンサーの仕事に楽しく取り組めるようになっていったそうです。そうして5年の月日が流れた頃、前田さんの心にある思いが芽生え始めます。
サッカー選手のように好きなことを仕事にしている人たちは、みなさん目がキラキラと輝いていて。私も好きなスポーツに関する仕事ができてはいましたが、「もっと没頭できることに出会ってみたい!」と好奇心が生まれました |
それから「自分が好きなものって何だろう?」と自問する日々が始まります。アナウンサーの仕事は充実しているけれど…。忙しい毎日を過ごしながらも、その問いは何年も頭から離れることはありませんでした。
そんなある日のこと。仕事終わりに立ち寄った深夜のスーパーで、レジ横に売られている一輪の花に目がいきました。なんとなく買って帰り部屋に飾ると、一瞬で空間がパッと明るくなったそうです。その瞬間、忘れてしまっていた感情が呼び起こされたのだとか。
都会で育った私は子どもの頃から緑や自然が大好きで、母の実家がある鳥取県の田舎に昔から憧れていました。学生時代も多摩川の河川敷でラクロスの練習に励んでいて、土にまみれながら走り回るのがとても気持ち良かったんです。部屋だけではなく心までもパッと明るくなって、「花の仕事をしてみたい」と思い始めました |
ゆっくりと咲き、ゆっくりと散っていく花―。分刻みのスケジュールをこなしていた当時の前田さんにとって、一輪の花が体現するゆったりした時間の流れは、心に焼き付くほど強烈なインパクトを残しました。
そのうち、部屋に飾る花が一輪から二輪、三輪と増えていき、それに比例するかのように“花の仕事”に対する思いは強くなっていったのです。
30代を迎えていましたので、今の安定を捨てる怖さもありましたし、結婚や出産の時期を逃してしまうのではないかといった不安もありました。「せっかくキー局のアナウンサーになれたのにもったいない」と言われたり、今では応援してくれている両親からも「かじりついてでも今の会社にいなさい」と反対されたりして(笑)。でも、やっぱり諦めきれませんでした |
最終的には「そもそも仕事に優劣なんかない」という自分の気持ちに正直に従い、10年間勤めたテレビ朝日を退職。“花の仕事”に就くため、前田さんは歩き出しました。
留学先のロンドンで目にした花や緑と人との距離の近さに驚き
テレビ朝日を退職した前田さんは、すぐにイギリス・ロンドンへ留学。半年間、語学学校とフラワースクールに通いながら、中世のお城でガーデニングのインターンに参加しました。
ガーデニングのインターンは思っていたよりハードな肉体労働でした。毎日泥だらけになって1日が終わる頃にはヘトヘトです |
服はボロボロ、手は傷だらけ。ついこの前まで綺麗な衣装に身を包み、ヘアーもメイクもネイルも整えていたのがまるで嘘のように感じられたそうです。しかし後悔や未練は全くなく、むしろ「今の方が自分らしく、誇らしい!」と思えたと言います。
ロンドンでは、休憩時間にミントを摘んできてハーブティーを飲んだり、同僚のガーデナーが『週末に自宅の庭をメンテナンスするのを心待ちにしている』と話すのを聞いたりすることが多く、花や緑と人との距離の近さに驚きました。町に出向けばたくさんの家のベランダから色とりどりの花が顔を出していて、花のイベントも頻繁に開催されています。そんな風景を見ていると、花と人をつなげていきたいと思うようになりました |
帰国後は3年間の花屋勤務を経て、2017年の妊娠を機にフラワーアーティストとして独立。2018年に法人化し、現在はイベントの装飾を中心に“出会いに行く移動花屋”「gui(グイ)」を手がけています。ロンドン留学中に抱いた構想を形にしたもので、そのコンセプト通り、さまざまな場所を訪れて人々に花を届けているのです。
ジェラート屋さんやアパレルショップ、ギャラリーなどとコラボレーションし、新しく花と出会える場所を作っています |
アナウンサー時代はカメラを通して何百万人にも言葉を伝えていましたが、その実感は乏しかったそうです。今は前職で培った伝える力を活かして、ひとりひとりに対面で花の魅力を丁寧に紹介しています。
花を買って帰られるお客さんの表情はとても幸せそうで。その笑顔に元気をもらっています |
そう話す前田さんの目はキラキラと輝いていました。
固定概念にとらわれず、自分がどう感じるかを見つめて
今後、花と触れ合える場所をもっと作っていきたいと意欲的な前田さん。美術館や丸の内のオフィスビル、新橋の高架下など、これまで花とは縁遠かった場所とのコラボレーションにアイデアは止まりません。また、九州や四国などの地方にも足を運びながら、まちづくりや人づくりにも貢献したいと語ってくれました。
「あのとき、思い切って踏み出して良かった」と振り返る前田さんは、自身の体験から大切にしていきたいことを見つけたそうです。
何かを決断しなければならないとき、不安や心配は付きものですが、自分がワクワクする方を選べば間違いないと気づきました。「普通はこうすべき」といったような固定概念にとらわれず、自分がどう感じるかを見つめて、それをとことん追求することが一番です |
例えば妊娠期間中に起業した前田さんの場合、「このタイミングでの起業、しかもフリーランスなんて大変だよ」というのが世間一般の見方かもしれません。
でも、私としては夢に向かって積み上げてきたものを失いたくなかったんです。それで起業しましたが、楽しみながら乗り越えることができました。細々とでも友だちの誕生日のための花を作ったり束ねたりしてきたことが今につながっていますから |
「他人の幸せが自分にも当てはまるとは限らない」。周囲の顔色をうかがい生きていた20代と比べて、人生の舵を自分で切るようになった30代の方が生きやすく、人生がより楽しくなったそうです。神奈川県鎌倉市を拠点に子育てと両立しながらフラワーアーティストとして活動する生活。「息子が花の名前を覚えてくれて嬉しい」と目を細めます。
自分には無理だと思えることも、ワクワクする夢を実現するために必要なら意外とできるものです。数字が苦手な私は決算書の理解に時間がかかりますが、知らなかったことを学べるおもしろさもあって何とかなっています(笑) |
インタビューの最後、新しいチャレンジにぴったりの花をうかがうと「桜」を挙げてくれました。自宅に飾るイメージが薄い花ですが、開花時はもちろん、葉桜まで長く愛でることができるそうです。
桜を飾り、明るい気持ちでワクワクする未来へ。まずは自分の直感を信じてみることから始めてみませんか?
アート引越センターは、一件一件のお引越に思いをこめて、心のこもったサービスで新生活のスタートをサポート。お客さまの「あったらいいな」の気持ちを大切に、お客さまの視点に立ったサービスを提供していきます。
interview photo:大塚素久(SYASYA)
[PR]提供:アート引越センター(アートコーポレーション)