新しいキャリア、新しい場所…。新しいことにトライするには、苦難や苦労がつきものです。ただ、その先には希望があります。本連載は、あなたの街の0123でおなじみの「アート引越センター」の提供でお送りする、新天地で活躍する人に密着した企画「NewLife - 新しい、スタート -」。第11回目は、元劇団四季女優の池松日佳瑠さんにお話をうかがいました。
Background
子どもたちに歌を教える元劇団四季女優
「劇団四季では心身ともに鍛えられました」
こう笑顔で話すのは、キッズボイストレーニングスクール「U musicroom KIDS」を経営する元劇団四季女優の池松日佳瑠さん。当時は、歌唱力や演技力、表現力に磨きをかけるべく、血のにじむような努力を重ねられたそうです。
「つらいことがあってもクヨクヨしなくなりました」と言う彼女の心の強さはどのようにして育まれたのでしょうか?
Debut
弟・池松壮亮と共に子役デビュー。
初めてのカーテンコールに感動
転機は中学生の頃。新聞広告を見た母親からの提案で、劇団四季「ライオン・キング」の子役オーディションに参加します。
ちょうど応募資格の年齢と身長を満たしていたので、チャレンジしてみようと思いました |
このとき、3歳年下の弟も一緒にオーディションを受けることに。この弟というのが、人気俳優の池松壮亮さんです。
弟は人前に出るのが苦手なタイプで嫌がっていたのですが、「プロ野球カードを買ってあげる」という両親の誘いにつられて渋々という感じでしたね(笑) |
5歳からクラシックバレエを習ってはいたものの、歌や演技の経験はなし。しかも、「ライオン・キング」初の福岡公演という背景もあり、その倍率は相当高かったそうです。そんな中、池松さんはヤングナラ役を勝ち取ります。それだけではなく、なんと弟の壮亮さんもヤングシンバ役が決まり、姉弟そろっての合格となりました。
ヤングナラとヤングシンバはいずれ恋人になる間柄。それもあって舞台で弟と共演することはありませんでしたが、自宅で掛け合いの練習をしたり、役を交換して演じてみたりと、とても楽しかったです |
ただ、劇団四季での稽古は厳しいものでした。
「一音落とす者は去れ」という教訓がありますが、歌や演技に関しては子どもとはいえ容赦なかったです。それだけ舞台に懸ける情熱が凄まじく、いつも稽古場にはピリピリした空気が流れていました |
一方、本番の舞台では緊張せずにヤングナラを演じることができたと振り返ります。追い込まれた状況での稽古が実を結んだのでしょう。
初めてのカーテンコールは今も鮮明に覚えています。それまで経験したことがない大きな喜びを感じました |
最初は嫌々オーディションを受けた壮亮さんも「上手くなりたい」との一心で、見る見るうちに上達していったのだとか。池松さんも「伸びしろがすごい。壮亮には俳優のセンスがあるのかも」と姉ながら舌を巻いていたそうです。
他のヤングシンバ役の子の演技が目立っていたりすると「もっとがんばれ!」と内心応援していました(笑)。一生懸命に練習している様子は可愛かったですね |
舞台に立つ感動に打ちひしがれた池松姉弟は、ここから子役活動を始めました。
The Lion King
過酷な環境にも必死に食らいつき、
10年の時を経てナラを演じる
音楽大学を卒業後、劇団四季への入団を決意。難関を見事に突破し、研究生の座を手にします。
研究生の1日は、稽古場の掃除に始まり、午前中はダンスや呼吸法の練習、午後は作品ごとの稽古です。そして夜になると個人レッスンに取り組むという、まさに演劇漬けの毎日でした |
研究生には1~2ヶ月の頻度で試験が課せられ、その評価次第ではクビになることもあるそうです。実際に舞台に立てる研究生は半分ほどという過酷な環境で、池松さんは必死に食らいついていきました。
そんな折、その熱演が演出家・浅利慶太氏の目に留まり、「美女と野獣」や「サウンド・オブ・ミュージック」などへの出演を果たします。しかし、成し遂げたい目標は「ライオン・キング」のヒロイン・ナラ役。ヤングナラとして舞台で味わった感動を忘れられず、どうしてもナラを演じたかったと言います。
例えば、「サウンド・オブ・ミュージック」で演じたリーズルは7人兄弟の長女で、他の6人は子役。なので、私の子どもっぽい見た目の雰囲気にもマッチしていたように思います。でも、「ライオン・キング」のナラはカッコ良くて、気品のある凛としたイメージ。私に務まるのかなという不安はありました |
抑えきれないナラを演じたいという気持ち―。不定期に行われる試験では熱心にアピールを続けました。
すると、浅利先生から「やってみるか?」と声をかけてもらえたんです。ナラには力強い歌声が必要なのですが、それを認めていただけたような気がして嬉しかったですね |
ヤングナラを演じていた子役が、10年の時を経て大人になったナラを演じる。この運命的なストーリーが現実のものになったのは、池松さんの執念があったからこそでしょう。
元気いっぱいのヤングナラと違い、ナラはシリアスなシーンから登場します。どれだけ練習しても安心できず、いつも足が震えていました |
押しつぶされそうなプレッシャーと戦う日々。心身ともに限界を迎えそうになったとき、いつも救ってくれたのは観客の拍手でした。
「舞台に立つ喜びや充実感を子どもたちに伝えたい」。結婚後、妊娠した池松さんは5年にわたって在籍した劇団四季を退団。出産し、キッズボイストレーニングスクール「U musicroom KIDS」を立ち上げました。きっかけは、当時3歳の娘に歌を教えたことだったそうです。
ほんの10分ほどで、驚くほど上達したんです。子どもの吸収力のすごさを目の当たりにした瞬間でした |
SNSや口コミで徐々に評判は広がり、今では3歳~10歳までの子どもたちがレッスンに通っています。
喉は人それぞれ違っていて、それが個性でもあります。子どもたちには、まずは音楽や歌うことを好きになってもらえたらと思っています |
Roots
とりあえずやってみる。
チャンスを掴んだ背景にある父親の存在
「U musicroom KIDS」のレッスンは、ピアノだけではなく、バイオリンやオーボエ、チェロやフルートなどの生演奏をバックに行うこともあるそうです。
良い音をたくさん聴くと、子どもたちの感性も磨かれます。「耳と目は贅沢に」というのが父からの教えでもありまして |
地元福岡で多角経営をしながら困難を乗り越えてきた父親の存在が、心の支えになっていると池松さんは言います。
父は何でもチャレンジしてみる人で、そんな背中を見てきたから前を向く力が養われたのだと思います。クヨクヨしていたら喝を入れられます(笑) |
父親の姿や劇団四季での経験、これらが池松さんのめげない心を育ててきたのでしょう。
やりたいことを、とりあえずやってみる。ついマイナス面を考えてしまいがちですが、考えるのは行動を起こしてからでも遅くはないハズです。やってみて、がんばっていれば必ずチャンスはやって来ると私は信じています |
音楽活動を志して地方から上京してくる若い人たちをサポートするため、防音設備などが整った物件を紹介できるように宅建の資格を取った池松さん。今後は、舞台に立ちたい子どもたちの夢を叶えるために、プロダクションの設立も視野に入れているそうです。
池松さんの前向きな強い心を学び取った子どもたちが舞台で躍動する日は、そう遠くないかもしれません。
アート引越センターは、一件一件のお引越に思いをこめて、心のこもったサービスで新生活のスタートをサポート。お客さまの「あったらいいな」の気持ちを大切に、お客さまの視点に立ったサービスを提供していきます。
interview photo : Kei Ito
[PR]提供:アート引越センター(アートコーポレーション)