33年連続で杉素材(丸太)の生産高日本一を誇る宮崎県。その豊富な森林資源の流通に多大な貢献をしているのが創業112年の外山木材株式会社です。最新の自動化製材技術により、高品質な建築材や足場板の大量生産を実現し、九州地方のみならず全国に販路を広げ、都内の公共施設でも製品が使用されるなど、その信頼性は揺るぎないものとなっています。
「適正価格で原木を買うことが、素材生産業者の事業継続に、ひいては山を守ることにつながる」というスタンスをベースに事業を続けながら、製材の過程で生じる端材などをチップ・バイオマス燃料として余すところなく利用するなど、持続可能で環境に配慮した経営にも注力しているとのこと。
本記事では、経営の中核を担う3兄弟、代表取締役副社長 外山 勝浩(まさひろ)氏(長男)、専務取締役 外山 正次郎(しょうじろう)氏(次男)、専務取締役 営業本部長 外山 貴之(たかゆき)氏(三男)に外山木材の沿革、強み、そして未来への展望について伺いました。聞き手は、オリックス宮崎支店 南平 拓郎です。
父の背中を見て。3兄弟がそれぞれの経験を生かして経営をサポート
……まずはお三方のご経歴と担当業務を教えてください。
勝浩氏:私は大学卒業後、ハウスメーカーに3年ほど勤務し、2012年に外山木材に入社しました。現在は副社長として、営業を軸としながら経営全般に携わっています。次いで入社したのが、三男の貴之です。大学卒業後は3年間、愛知県にある木材流通会社で働いていました。現在は営業部門を統括しています。
正次郎氏:私が2023年4月の入社で、主にバックオフィス全般を担当しています。それまでは10年ほど、東京にて農林系の系統金融機関に勤めていました。家業に入る決心をしたのは、業界が大きな転換期を迎えているなか、頑張っている兄と弟、そして経営者の父・正志を支えたいという思いからです。幼いころ、自宅と隣接する工場で父が仕事に打ち込んでいる姿をずっと見ていたこともあり、東京で働く間もいつか実家に戻って力になりたいと常に考えていました。
貴之氏:自分も同じで、子どもの頃に見た父の背中の影響が大きいですね。当時はまだ社員30人ほどの小規模の会社でしたが、外部団体の要職で忙しくなった祖父に代わって、父が若くして経営を引き継ぎました。「日本一の製材工場」を目指して、2009年には日本トップクラスの生産規模を誇る志和池工場を建設。その後もリスクを取って投資を続けました。口には一切出さないものの、父が抱えていたプレッシャーは相当なものだったと思います。いま、ハウスメーカー、木材流通、金融と、それぞれの業界を経験した兄弟3人の力を合わせて次の100年につなげていこうという決意で経営を行っています。
……では、あらためて外山木材の事業概要と強みについて教えてください。
勝浩氏:当社は1913年創業の製材工場です。丸太を仕入れて、それを板や柱などの建築材、あるいは土木建設の現場で使われる足場板などに加工して出荷するという仕事をしています。
建築材は、プレカット工場に出荷し、そこからハウスメーカーや工務店に流通します。九州・中国地方が主ですが、全国に販路があり、都内の公共施設などでも当社の製品を使用いただいています。
足場材は販売店のほか、直接、建設会社に納品することも多く、こちらも北海道から沖縄までが商圏です。杉足場板の年間生産量は120万枚で日本トップクラスを誇ります。建設現場の足場と聞いて、金属製のものを想像される方が多いかと思いますが、木の足場もまだまだニーズがあります。金属製のものと比べて単価が圧倒的に安く、何万枚も使用するような場合にはトータルの金額が大きく変わってきます。なので、橋や高速道路といった大規模な公共工事の現場では使用されることが多くなっています。
貴之氏:大量に使用する話ともつながりますが、会社としての強みはやはり圧倒的な生産力です。現在、宮崎県都城市に3工場、鹿児島県志布志市に1工場を有しており、4工場を合わせた年間生産量は国内トップ3に入ります。特に2019年に完成したここ志布志工場は、日本最大規模の工場で、最新式のコンピューターシステムを導入。近年、注目を集めているCLT材(直交集成板)(※1)の原板の製造にも対応しており、システムが機械メーカーとオンライン接続しているため、万が一トラブルが発生した際でも即時対応できます。
勝浩氏:そして、この生産量を支えているのが、南九州地方の豊富な森林資源です。現代の木造住宅は、木材を人工的に乾燥させて強度を高めたKD(キルンドライ)材を用いるのが主流になっているのですが、雪が降らず温暖な気候で育った南九州産の原木はこの人工乾燥にとても適しているのです。
当社は伝統的な原木市場を通じた仕入れに加えて、原木市場を介さず、20~30の素材生産業者から直接原木を仕入れることで、量、価格、質ともに安定した調達を実現しています。
(※1) ひき板(のこぎりなどで木材を切り出して作られる板で一般的に厚さは10〜20mm程度のもの)を繊維方向が直交するように積層接着した大判パネル。高強度、軽量、断熱性に優れ、工期短縮が可能な環境配慮型の建材
転換期を迎える木材業界。業界と環境、持続可能性の両立を目指す
……製材業界の最新動向について教えてください。
勝浩氏:人口減少等に伴う新設住宅着工数の減少により、木材自体の需要も年々減少しています。そのため製材業界全体で苦しい状況が続いており、製材事業者の廃業等も進んでいます。
一方で、コロナ禍をきっかけに始まった世界的な木材価格の高騰、いわゆる「ウッドショック」(※2)の影響により、外国材から国産材への回帰が進みました。特に2022年あたりは国産材の需要が跳ね上がり、価格が急騰したため、業績が上向いた製材事業者も多かったと思います。当社も2022年度の売上高は、約74億円と過去最高を記録しました。しかしそれも一過性のものです。いまは国産材の価格も落ち着き、以前と同様に厳しい経営状況の事業者が大半だと思います。
正次郎氏:ただ、為替、輸入コストなどの要因から、外国材への揺り戻しは起こりにくいと考えています。特に海外から木材を輸送してくる際には、大量の化石燃料が消費されるため、CO2排出量削減の観点から国策として国産材の利用が促進されています。
CO2排出量削減については、業界全体で取り組まなければいけない課題です。人間と同じで木も年齢を重ねるほどCO2の吸収量が減ってしまいます。樹齢20年前後でCO2吸収量はピークを迎え、60年では3分の1程度になるというデータもあります。そのため、樹齢40年程度で伐採し、新たに植樹して次の世代につなげていくというサイクルが地球環境にとっても望ましいのです。
勝浩氏:それにもつながる話で、今まで丸太は安く買って安く製品を売るというのが、この業界の暗黙の了解でした。ただそれだと業界全体が長続きしない。やはり、適正な価格で販売して、かつ適正な価格で原木を買い取るということが重要だと考えています。そういった考えのもと、先ほどお話ししたように、原木市場を介さずに生産者と直接取引を行っています。適正価格で原木を買い取ることが、生産者の事業継続につながり、ひいては山を守ることにも寄与していくわけです。
貴之氏:足元でできる環境負荷軽減の取り組みも進めています。例えば、乾燥機の熱源には製材過程で生まれる端材や樹皮を用いていますし、製紙用チップとして大手製紙会社に販売しています。木材は本当に捨てる部分のない資源です。その大切な資源を守り、プライスリーダーとして適正価格を維持していくことも当社の役割だと思っています。
……人材育成で工夫されていることはありますか?
勝浩氏:高齢化が進んでいる業界にあって、若い社員が多いのも当社の特徴です。平均年齢は37歳(現場工員を除く)で、年に数名、新卒採用も行っています。そうした若い社員に「自分の意見を持ってもらう」ことを大事にしています。例えば、この志布志工場の立ち上げの際には、若手社員の意見を取り入れながら設備やレイアウトを決めていきました。生産性を追求し働きやすい職場環境を、自分たちでつくってもらいたかったのです。
また、学歴や年齢によらず、能力・やる気重視の評価制度を採用しています。4工場を統括する常務執行役員は37歳です。といっても、高卒入社なので、もう20年近く勤務しているベテランでもありますが。
ここまでお話ししてきたような取り組みを続けてこられたのも、多くの若手にモチベーション高く仕事をしてもらっているからだと思っています。いま期待の若手のホープを呼んできますので、彼の話を聞いてみてください。
(※2) 2021年頃から発生した木材の価格高騰現象。米国や中国での住宅需要増加、コロナ禍による物流混乱などが原因とされ国産材価格も大きく高騰した
IT系企業からの転身。コミュニケーションで職人技と機械の知識の両方を培う
ここで若手社員を代表して、2017年入社の菅間 隆介さんに話を聞きました。
……現在のご担当を教えてください。
菅間氏:志布志工場の製材ラインの管理者として、約20名の工員をまとめています。製材ラインは、1本の丸太から採材の位置や、鋸入れの手順を決める「木取り」という作業に始まり、実際に鋸で木材を切り出す「ひき割り」までが主な担当です。木は生き物ですから、同じ産地のものでも1本1本形状や性質が微妙に異なります。それぞれに合わせて「木取り」をして、うまくひけた時は、達成感がありますね。入社前は、福岡にあるIT系企業で働いていました。もともと体を動かす仕事がしたいと思っていたので、日々、気持ちよく働けています。
……仕事をするうえで気をつけていることはありますか?
菅間氏:なるべくメンバーとコミュニケーションをとるようにしています。自分よりも経験豊富な社員に教えてもらうこともまだまだ多いです。志布志工場は自動化が進んでいて、機械の知識も求められます。例えば、「クリアシステム」は、センサーによって原木の形状を瞬時に計測して、過去のデータから適切な木取りを導き出してくれる装置です。そうした機械操作のノウハウと、職人技ともいえる目利きの技術を磨いて、よりいい仕事ができるように頑張ります。今後、さらに責任あるポジションをめざします。
目下の目標は海外販路の開拓とDX化。目指すは「日本一の製材会社」
再び、お三方に話を伺いました。
……最後に今後の展望について教えてください。
貴之氏:私は海外販路の拡大が大きな目標です。北米ではヒノキ科の針葉樹「ウエスタンレッドシダー」がウッドデッキ材やフェンス材といった屋外用の建材として人気です。その「ウエスタンレッドシダー」に日本の杉の風合いが似ているということで、近年、需要が伸びていています。
また、ベトナムをはじめ、東南アジアの成長著しい国々とも商談を進めていきたいですね。日本人駐在員向けのほか、日本文化の広まりとともに和室に興味を持つ人が増えつつあると聞いています。まだまだニーズは少ないと思いますが、国内の需要減少は避けられないので、そうした海外の市場に新たな活路を見いだしていきます。
正次郎氏:「DXによる業務改革」が当面の課題です。主にバックオフィス系の業務において、紙ベースのやりとりをはじめ、アナログな部分が少なからず残っているので、効率化、省人化を進めていきたいですね。そこから生まれたリソースを営業に集中させて、さらに販路を拡大していきたいと思います。また、最近は、大手企業がオフィス内に木材を使った空間を設けるなど、木の価値が再評価されつつあります。風合いや香りなど、木は唯一無二の建材ですから、この魅力を広く発信していきたいと思います。
勝浩氏:父の意志を継いで、「日本一の製材会社」を目指します。2023年にはホールディングス会社を設立しました。新規事業の参入も積極的に検討したいですね。例えば、ホームセンターなどの小売業や杉の薬理作用に着目した商品開発に加えて、同業他社とのM&Aも検討しながら木材の可能性を切り開いていきます。当社の事業を拡大することが業界全体の成長に必ずつながるはずです。利益を山に還元していくという経営方針も変えずに、続けていきます。兄弟3人で力を合わせて頑張ります。
……本日はありがとうございました。
<取材を終えて>
オリックス宮崎支店 課長代理 南平 拓郎
木材は住宅を中心に建築になくてはならないものですし、その中で規模や品質、安定供給の面からも、外山木材さまは非常に大きな役割を担われていると思います。
近年、SDGsの動きが本格化する中、製材の過程で発生する端材を燃料に使うだけでなく、高品質の製品を安定的に供給しながら山元・素材生産業者への還元を積極的に行って再造林を促す等、まさしく持続可能な社会の実現に向けて取り組まれていると感じました。
オリックスも環境分野には力を入れていますし、今後も多方面から支援させていただき、一緒に宮崎を盛り上げていければと思います。
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