福岡県北九州市に本社を置くコスモ海洋株式会社(以下、コスモ海洋)は、海洋測量調査を中心に、危険物探査、潜水工事、海洋土木工事などの事業を展開しています。1992年に3名で創業した同社は、現在では九州エリアのみならず、全国各地の海域調査や工事を請け負い、最先端の測深システムの導入により国家的なプロジェクトにも携わる業界のトップランナーへと成長。そして2022年には創業30周年を迎えました。

年々ニーズと重要性が高まるインフラ老朽化への対応から、メタンハイドレード・洋上風力・船舶大型化に伴う海洋測量調査など環境面に至るまで、幅広い価値を提供している同社。本記事では、同社代表取締役の金丸 哲士氏に、これまでの歩みや事業の強みや未来への展望についてお話を伺いました。聞き手は、オリックス北九州支店の猿渡 真悟です。

機雷の探索からスタートし「海の調査・施工のスペシャリスト」に

コスモ海洋株式会社 代表取締役 金丸 哲士氏

……まずは、コスモ海洋の沿革について教えてください。

金丸:当社は1992年に、私の父である金丸 市郎(現:取締役会長)が脱サラして立ち上げた海洋測量調査の会社です。門司(北九州市)と下関(下関市)を隔てる関門海峡は、古くから日本の海上交通の要衝であり、そのため太平洋戦争末期には旧日本軍の混乱を狙う米軍によって大量の機雷が投下されました。その数は5000個以上ともいわれ、日本全国に遺棄された機雷の半数近くがこの周辺海域に集中したとされています。父は遺棄された機雷や不発弾などの危険物の探査を行う会社に勤めていて、42歳の時に一念発起して仲間2人と独立したのです。

その後、測量技術にたけた人材が入社したことで海底地形の測量調査を手がけるようになり、海洋土木工事の管理業務経験者が入社したことで海底の土砂を除去する浚渫(しゅんせつ)工事や護岸工事を請け負うようになりました。積極的に事業を拡大しようとしてきたわけではなく、ご縁があって入社された社員のスキルや経験を生かそうとしてきた結果、ごく自然に事業領域が拡大してきたのです。

今は船舶の安全な航行のために必要不可欠な「測量」を中心に、「探査」「工事」「潜水」「環境」「提案」の6事業を展開しており、「海の調査・施工のスペシャリスト」を自負しています。約8割が官公庁をはじめとする行政関連の案件で、民間の案件は2割ほどです。依頼は全国各地からあり、国防に関わる仕事も数多く手掛けてきました。

コスモ海洋株式会社が展開する6つの事業

  • 測量
    • 高精度な海底地形の測量を可能にする世界最先端の測深システムを導入
    • シングルビーム測深機、マルチビーム測深機、サイドスキャンソナーを用いた精密な測量技術
  • 探査
    • 機雷や爆弾の探査、海底埋設物の探査における豊富な実績
    • 創業当時から培った海上水平磁気探査・潜水探査の技術と経験
    • 工事
    • 港湾工事、護岸工事、浚渫工事などの幅広い実績
    • 測量・探査・工事・潜水の一貫したサービス提供により、効率的なプロジェクト管理が可能
  • 潜水
    • 潜水士による水中での施工・調査
    • 水中溶接・切断、海洋構造物の清掃など、専門的な水中作業に対応
  • 環境
    • 地形調査、水中ドローン調査、潮汐・潮流調査などの環境調査
    • 最新鋭のナローマルチビームシステムや水中ドローンを用いた高度な環境調査技術
  • 提案
    • 海洋に関する総合的な知識と技術を生かした建設コンサルティングサービス

……3名からスタートして国家的なプロジェクトにも携わる企業へ、というのは大変な成長かと思いますが、鍵はどこにあったのでしょうか。ターニングポイントとなった出来事などありましたら教えてください。

金丸:転機となったのは、2011年の東日本大震災です。陸上の交通網が寸断されたため、海路で被災地に救援物資や自衛隊員を送り届けることになったのですが、地震や津波の影響で海底がどのような状況になっているのかがわからない。もし災害支援の船が座礁してしまえば、元も子もありません。「一刻も早く、被災地沿岸の海底地形を把握できないか」ということから、当社の保有する「マルチビーム測深機」が注目されたのです。この機器は、それまでの「シングルビーム測深機」と比較して一度に広範囲の地形調査が可能で、大幅に時間が短縮されることに加え、海底地形をより正確に捉えられるというものです。2009年に他社にさきがけて導入した機器ですが、導入当初は認知度が低く、使用依頼はほとんどありませんでした。

しかし、国の要請に応えて、青森から三陸沖の海底地形調査を迅速に終えたことで、その有用性を広く認識してもらえたのです。その後は徐々に依頼も増え、今や「マルチビーム測深機」は海底地形調査の主流となっています。

(左)マルチビーム測深の様子。(右)マルチビーム測深記録のイメージ

加えて、マルチビーム測深機で取得したデータの解析力も当社の強みです。現地の調査チームと本社の分析チームが連携してオンラインでデータを授受。われわれの業界では、調査から分析まで数日から1週間程度かかることが多いのですが、当社は大体1日あれば大まかな解析結果を出すことができます。

また当社は測量だけでなく工事も手掛けますので、測量データに基づく解析結果を、施工者であるお客さまの目線に合わせてご提供することが可能です。機動的かつリアルな目線でのデータ解析により、「工事に必要なコストと時間を大幅に抑えられる」とお客さまから喜んでいただいています。

メタンハイドレード、洋上風力、船舶大型化など海底調査で幅広い価値を提供

計測機器設置作業の様子

……海底調査の目的としては、近年どのようなものがあるのでしょうか。

金丸:近年は、やはり「環境」に関する分野の依頼が増えています。例えば、次世代エネルギーとして注目される海底資源の一つである「メタンハイドレード」です。これは天然ガスの主成分であるメタンが水分子と結びついたもので、海底下に氷状で眠っているのですが、日本周辺の海域にも大量に存在していると言われます。その採掘技術の開発のため海底地層の調査や試掘などが必要で、その依頼が増えています。

また、大手コンサルタント会社からの依頼で、洋上風力建設のための事前調査も請け負っています。風の強さ、波の高さや向き、潮流などを計測して、発電に最適なエリアを見極めるのです。特に海底に固定した基礎に風車を設置する「着床式」という工法では、海底地形や地盤の強弱が重要になるため、当社の測深技術が大いに生かされます。

そして、既存インフラのメンテナンスや改修のための調査・施工依頼も増加傾向です。例えば沖縄の石垣島周辺で、何十年も前に敷設された海底パイプラインの調査という案件がありました。当時の施工図面も残っておらず、しかも沖縄で土地勘もない。そのような状況のなか、現地の同業の会社と連携することになったのですが、われわれが北九州から来たということで最初はなかなか信用してもらえませんでした。しかし当社の技術者が本当に頑張ってくれて、次第に協力関係ができあがり、無事に調査を終えることができました。

加えて、近年は環境負荷を軽減する目的で船舶の大型化が進んでいるため、港湾岸壁の水深を確保するための整備も各地で進められています。当社では調査ダイバーを派遣して、海中から補修工事が必要な箇所を調査し、工事計画の立案まで対応しています。そのほか、災害や事故で壊れた護岸の補修、消波ブロックの製作や設置工事、船の係留施設の建設などの海洋土木工事の依頼も途絶えることがありません。

浚渫(しゅんせつ)工事の様子

……海洋工事の調査から計画まで一貫して請け負える、そして難しい課題への対応力の高さが御社の特長であると感じました。一方で専門的なスキルを持った人材が多く必要になりそうですが、人材育成において工夫されている点はあるのでしょうか。

金丸:新入社員のほとんどが未経験者なので、なるべく早く現場経験を積ませるようにしています。調査船を係留するためのロープワークから調査機械の基本的な扱い方といったことまで、なるべく早い段階で先輩社員が指導していきます。また当社はドローンを用いた測量など、新技術の導入に意欲的ですので、そうした新たな技術を用いたオペレーションは若手に積極的に任せています。社員の4分の1は20代ですが、80代の社員もおり、そうした大ベテランの社員から技術や知見を承継できることも当社の魅力だと思っています。

実際に調査で使用する、全国各地の海図を広げながら語る金丸氏

ここまでお話ししてきた事業の特殊性から、最近では全国から就職希望者が集まるようになりました。「海の仕事」に憧れる若者が、当社を探し当てて応募してきてくれるのです。今、期待の若手社員3名を呼んできますので、彼らの話をぜひ聞いてください。

「海」を仕事に。全国から若者が入社

ここで、技術部で技師の清水 雅史さん(愛知県出身)、中川 あやさん(茨城県出身)、そして総務部の内田 貴子さん(福岡県出身)の3名にお話を伺いました。

……皆さんがコスモ海洋に入社された経緯と、現在の担当について教えてください。

コスモ海洋の未来を担う若手社員。左から清水さん、内田さん、中川さん。和やかな雰囲気でのびのびと働いている様子を語っていただいた

清水(技師):私はもともと下関にある水産大学で海洋生物系の勉強をしていましたが、全国各地の海域で仕事ができることに魅力を感じてコスモ海洋への入社を決意しました。入社後は主に「測量」「探査」の仕事に携わり、希望どおり全国各地に出張できました。3年目の今年から「工事」担当になったのですが、大規模な建設プロジェクトになると、半年ほど現地に滞在することもあります。初めて名前を聞くような島を訪れておいしいものを食べたり、独自の文化・風土に触れたり。そんな、さまざまな経験ができる今の仕事が大好きです。

中川(技師):私は入社2年目で、主に深浅測量と磁気探査の仕事に携わっています。最近、先輩からのアドバイスでドローン操縦の資格を取りました。目視確認しづらい岸壁などの状態を空撮の画像で確認し、補修工事の必要性の有無を判断したりしています。

私は小さいころから海が大好きで、泳いだり、砂浜でカニを捕まえたりして遊んでいました。高校卒業後は、東海大学海洋学部に進学。就職活動中に、同じ大学の卒業生の金丸社長とお話しする機会をいただいて当社を知りました。雰囲気の良さと若い社員が多いということに魅力を感じて入社を決めました。

内田(経理):私は入社1年目の経理担当です。前職が忙しすぎて体調を崩し、休職することになりました。転職先を探していたところ、コスモ海洋が見つかり、取得したばかりの簿記の資格を生かせる経理担当して採用していただきました。優しい先輩が多く、無理なく仕事ができています。

……仕事のやりがいと今後の目標についてお聞かせください。

中川(技師):海に携わりながらさまざまな仕事を経験させてもらって、知識や技術がどんどん増えていくことが楽しいですね。仕事関係だけでなく、より多くの“海に関わる人”と接点を持ちたいと思い、海水浴シーズンには、近郊の海水浴場でライフセービングのボランティアにも携わっています。これからどんどん後輩が入社してくると思うので、しっかり技術指導ができる先輩になりたいですね。

内田(経理):私はまだ入社したばかりで、覚えなければいけないことがたくさんあるので、経理の勉強を続けながら建設業経理検定などの資格を取得していきたいと思っています。現場で働く社員の皆さんのサポートをしていきます。

清水(技師):海の中の状態を詳しく知れることが、おもしろいですね。例えば漁礁ブロック(※2)の設置状況などを測量データで解析するというのはこの仕事以外ではなかなかできない経験です。また、工事の分野でいえば、例えばそれまで何もなかったところに巨大な防波堤を築き上げた光景をみると、大きな仕事をしているんだという実感があります。早く先輩方に追い付けるよう勉強を続けて、海洋のスペシャリストになることが目標です。

(※2)漁礁とは魚が集まる海底の隆起部を指す。漁礁ブロックとは人工魚礁の一種で、主にコンクリート製の構造物のこと。海底に設置され、魚類の生息環境を改善し、漁業資源の増殖を促進するために使用される

海洋調査・探査大国日本。目指すのは、世界に羽ばたくコスモ海洋

最後に、金丸社長に今後の目標について伺いました。

……創業30年を迎えましたが、次の30年に向けての意気込みをお聞かせください。

金丸:現在日本では、高度成長期につくられたものの老朽化が問題になっていますが、それは海洋領域も例外ではありません。港湾や岸壁などのインフラ整備が今後ますます求められるようになり、それに応えることがわれわれの使命だと思っています。ただ、一社単独でできることには限りがありますので、各地の会社と連携しながら、地域の人々の暮らしや安全を守っていきたいと思います。

その一方で、日本の海洋調査・探査の技術は世界有数だと自負していますから、アジア圏を中心に各国への技術提供も積極的に行っていきたいですね。単に機材を提供するだけでなく、その使い方もきちんと指導して、各国が独自に調査・探査ができるようになれば、世界の海はより良いものになるのではないでしょうか。“世界に羽ばたくコスモ海洋”になれるよう、これからも頑張っていきます。

……本日はありがとうございました。

<取材を終えて>
オリックス北九州支店 次長 猿渡 真悟

これまでやり取りをさせていただいたなかで事業内容についてはおおむね理解をしているつもりでしたが、今日改めて今後のビジョンも含めたお話を聞き、コスモ海洋さまのような会社が海の安全を守ってくれているからこそ、インフラや物流が停滞することなく、私たちの豊かな生活が成り立っていることを改めて実感しました。普段、なかなか知ることができない「海洋」の仕事に関するお話は、いつもとても勉強になります。また、若い社員の方々が生き生きと働かれている姿も印象的でした。コスモ海洋さんの今後の事業成長のため、オリックスとして全力でサポートできればと思います。

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