「内航海運」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。国内の港から港へ貨物を運ぶ仕事のことをいいます。運ぶものは食料品や日用品から、鉄鋼やセメント、石油などの資材、ときには新幹線の部品までさまざま。トラックによる陸運では運べない巨大なものも船なら運べます。内航海運は私たちの生活に欠かせない大切な仕事なのです。

そんな内航海運業界が現在抱えている課題が「人材不足」。このまま内航海運に関わる人が少なくなり続ければ、社会そのものに影響が出ることは避けられません。

そこで今回は、九州地方海運組合連合会青年部のメンバーに集まっていただき、座談会を開催。船員という仕事の魅力や人材に求める資質、業界の未来について語り合っていただきました。これまで船員という仕事に抱かれがちだった“ネガティブなイメージ”も払拭される、興味深いお話が聞けました!

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〇プロフィール

杉本憲彦氏
辰和海運株式会社 代表取締役

浦山秀大氏
株式会社雄和海運 代表取締役

木村友彦氏
昭栄海運株式会社 代表取締役

田町秀氏
有限会社田町運輸 代表取締役社長

大山瑞貴氏
真宝海運有限会社

坂田憲昭氏
有限会社坂田海運 代表取締役社長

日本社会を支える物流業「内航海運」

ーーまずは「内航海運」という仕事についてご紹介をお願いします。

いわゆる物流業ですね。内航海運はそのなかでも国内の港から港へ船で物を運ぶ仕事です。貨物輸送の規模を示す指標のトンキロベースでは、物流全体の44%を占める重要な業界で、特に産業基礎物資と呼ばれる輸送を担っています。たとえばセメントやガソリン、鉄といった日本の産業を支える物資の輸送が中心です。

トラックなどの陸運と違って、船による海運は一度の輸送で大量の物資を運べますからね。一般的な船だと1,600tの荷物を運べますが、これをトラックに換算すると160台分にもなります。トラックだと160人のドライバーが必要ですが、船なら5人で運べます。


  • 株式会社雄和海運 代表取締役 浦山秀大さん

ーー船はかなり省エネなのですね。内航海運に携わる会社は全国にあると思いますが、特に九州地方ならではの特徴はありますか?

船のトン数が小さめで、企業規模も家族経営で小規模なところが多いイメージですね。ここに集まったメンバーもそうですが、家業として昔から船会社をやっている人ばかりです。会社数も他の地方に比べると多いのかな。九州地方だけで約400社、全国の約20%の事業者がいますから。


家族全員で船に乗っているというところも多いですよね。おじいさんもお父さんもお母さんも、甥っ子も姪っ子もみたいな。家族が船で暮らしているような感じです(笑)。


もちろん家族以外の社員もいて、みんな仲良く仕事をしていますけどね。


  • 辰和海運株式会社 代表取締役 杉本憲彦さん

船乗りのイメージが覆る!? 個室もWi-Fiも完備で長期休みも!

ーー船員さんというと、一度船に乗って沖に出るとしばらく家には戻らないイメージがあります。

そうですね。だいたい2〜3カ月船に乗って、その後1カ月くらいの長期の休みをとるのが一般的です。といっても3カ月間、働きっぱなしというわけではないですよ。会社員と同じようにちゃんと普段の休日もあります。だから、1カ月の休みというのは“夏休み”的なまとまった休暇だと捉えていただくといいかもしれませんね。それに、内航船は国内の港をまわるので、ちょこちょこいろいろな港に停泊します。そのたびに陸に上がって買い物もできるし、居酒屋へ飲みにも行けるし、時間がある場合なら観光だってできます。


  • 昭栄海運株式会社 代表取締役 木村友彦さん

うちの船はお酒が好きな人が多いです。他の船には全国の歓楽街制覇を目指している人もいるらしいです(笑)。


SNSでつながっている全国の友だちに会いに行ったりもできますよね。その人が船を見に港まで来てくれることも。僕は趣味のビールで仲良くなった友人に会ったりしています。それで、その地方のお酒がおいしいお店を紹介してもらったこともありました。


うちの乗組員はゴルフ好きな人が多いですね。停泊中にレンタカーを借りて全国のゴルフ場を回っているみたいですよ。


  • 有限会社田町運輸 代表取締役社長 田町秀さん

  • 有限会社坂田海運 代表取締役社長 坂田憲昭さん

ーー旅費のかからない旅行って感じで楽しそうです(笑)。「一度海に出たらしばらく陸には戻らない、それまでの間ずっと仕事」といった印象がありました。

そこはけっこう誤解されるところなんです。たぶん船乗りというと漁船を想像されるのかもしれませんね。小さな船で個人の部屋なんてなくて、ごはんもみんなで一斉にかき込むみたいな。内航海運の仕事はまったく違います。一人ひとりに個室が用意されていますし、Wi-Fiも完備。実際に見ていただくと、たぶん「こんなに豪華なの!?」ってびっくりされると思います(笑)。


北海道で地元の友だちとばったり!? “船乗りあるある”が面白い!

ーーそこはたしかにイメージで語られがちかもしれませんね。そうなると気になるのが船員のお仕事です。どのようなものなのでしょうか。

船の仕事はセクションが大きく3つに分かれます。船の操船を行う甲板部、エンジンを整備する機関部、食事を作る司厨部です。船を走らせている間は基本的に当直制で、4時間当直をこなしたら8時間休憩して、また次の当直が回ってくるというイメージです。


小さい船だと司厨部はないことも多いですね。その場合、食事は各自で作ったり、持ち回りで作ったりします。


船員の仕事の大きな魅力のひとつが、「食費がかからない」ことなんですよ。港に着いて陸に上がっているときは自分で払いますが、司厨部がある船に乗っている間は食事が提供されますし、自炊する場合は給料にプラスアルファで1人5万円とかそれくらいの食料費がもらえるんです。


全国の港を回りますから、各地で名物を食べられるのも魅力ですよね。


そうそう。港でご当地のおいしい食材を買い込んで、船の甲板でバーベキューしたりします。沖に出て、錨を下ろして停泊中に海を眺めながらとか。


  • 次の港でのBBQに向けて準備中!

ーー最高じゃないですか!

最高です(笑)。


時化のときは大変なこともありますが、海はいいですよ。たまに出張で東京に行って朝の地下鉄に乗ると、もう満員電車がきつすぎて……。


ーー都心はすし詰め状態で毎日30分とか1時間乗るのが当たり前ですからね。

船は通勤時間ゼロですからね! 満員電車で揉まれることもありません。時間も節約できるし、自分の時間も確保できます。すごく良い環境だと思います。


船の仕事ならではのおもしろいエピソードもいろいろありますよ。たとえば僕らは友だちにも船員が多いのですが、地元で会うよりも全国各地で会うことのほうが多かったりします(笑)。


  • 真宝海運有限会社 大山瑞貴さん

あるあるですね(笑)。


中学の同級生に7年ぶりに会ったのが北海道のパチンコ屋だったことがあります(笑)。同じ港に地元の船がずらりと並ぶことも少なくありません。そんなときは友だちの船で飲み会が始まることも多いです。


ーー長期休みはどのように過ごされる方が多いのでしょうか。

僕は高いところが好きなので山登りとか。でも長期休みが終わるころにはまた海が見たくなるんですけどね。


20代のころは全国の友だちのところを転々として、ゴルフをしたり飲みに行ったり、海とまったく関係ないことをすることもあれば、沖釣りに行くこともあったり。


趣味に没頭できますよね。


  • まとめて休みがとれるので、全国各地のキャンプ場を回る方も

未経験でもOK! 異業種からも転職組も増加

ーーここからは業界の課題についてお聞きします。

業界としては人手不足が課題なんですが、実は九州地方に限っていえばそこまで悪くないのが現状で。船員の有効求人倍率は全国だと平均5倍くらいですが、九州だと約2.6倍ほどです。九州地方は全国の内航海運業界への人材の供給地にもなっています。


とはいえ高齢化は進んでいるため、そこは危機感を持っています。


そうですね。船員の人材数はここ数年ずっと横ばいなんですが、一方で船乗りの25%は60歳以上という現実があります。この方たちがどこかのタイミングで一気に抜けたら、かなり大きな影響が出る恐れがあると思っています。もちろん若手の育成にも力を入れていますが、追いついていない状況です。新卒だけでなく、転職で業界に入ってきてくれる人が増えてほしいですね。


ーー何か対策はとられているのでしょうか。

地元の高校で内航海運の仕事説明会の開催などは行っています。とにかく知ってもらうことが大事だと考えています。私のいる長崎県壱岐市は小さい島なんですが、意外と船の仕事って知られていないんですよ。学生さんにはぜひ将来の仕事として意識してほしいと思っています。


ーー船の仕事の知識を持っていないために難しそうな印象を抱いてしまい、ハードルを上げてしまっている面もあるかもしれませんね。「経験がないと船に乗ってはいけないんじゃないか?」と。

そんなことはなくて、ぜんぜん未経験でもOKなんです。むしろ最近多いのが、大学を卒業された方が一度別の仕事に就かれたあとに内航海運業界に転職されるケースです。完全に未経験だけど、興味を持って業界に入ってくる方が増えているんですよ。


一人前になれば、“5年で家が建つ”ほどの給料がもらえる

ーー未経験でも大丈夫とのことですが、必要とされるスキルや資質は何かありますか?

適応能力とコミュニケーション能力ですね。これは船の仕事のデメリットでもありますが、やはり一度乗ると2〜3カ月は家に帰れないわけです。そうなると家族や恋人にも会えません。また、船の中なので近くのコンビニへ出掛けるのも無理です。そういった環境や働き方に適応できるかどうかはやはり大事です。

また、船の仕事はひとりでやるのではなく他のメンバーと協力しながら進めるもの。メンバーとはひとつの船の中で長期間一緒に過ごすわけですから、良好な人間関係を築くためのコミュニケーション能力は必要です。


機関部に限っていうなら、エンジンなどの知識があると早く活躍できると思いますね。もちろん知識がなくても大丈夫ですが、持っていると武器になります。


甲板部や機関部の仕事には国家資格もあるんです。学校で取得する人もいれば、先に船に乗ってから勉強して取得する人もいます。


ーー船員の給料はどれくらいなのでしょうか。

他の一般的な仕事と比べてもベースはかなり高いと思っています。ハローワークの求人情報と比べるとわかりやすいですね。


成長の度合いによっても変わりますが、たとえば5年で一人前になれたとします。すると、その3年後には高級車が購入でき、その5年後には家が建つんじゃないでしょうか。それくらいの給料はもらえます。


ーーそれはかなりの高給ですね。給料額は大事ですし、そこから興味を持つ人も多そうです。

最先端の技術や労働環境の改善などに取り組む「ミライ研究会」

ーーまた、船員の働きやすさのさらなる向上に向けて動いている法人「ミライ研究会」があると伺いました。そちらについても教えていただけますか。

ミライ研究会は内航海運の未来に関する研究を行っている法人です。労働環境の改善や簡素化、合理化、安全性向上、環境への配慮などを目指して活動しています。最近だと最新設備を搭載した次世代内航船「SIM-SHIP」の運用を行っています。最新設備を載せた船はものすごく高価なのですが、そうした技術が省人化につながれば経済的なバランスもとれますし、人手不足対策にもなると考えています。


ーー労働環境のさらなる改善などが実現すれば、これから内航海運業界に入ってくる方にとってもより魅力が増しそうですね。最後に内航海運のお仕事に興味を持った方に向けてメッセージをお願いします。

内航海運は日本社会を支えるやりがいのある仕事です。給料も良いですし、通常のお休み以外に長期休暇もとれます。家族に会えないなどの寂しさはありますが、だからこそ会える時間をより大切にできるともいえます。未経験でも大歓迎です!


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