沖縄県のご当地ブランドとして全国的に知られる「ブルーシール アイスクリーム」。誕生して75年以上がたった今も、多くの人たちに愛されるブランドとして成長し続けています。

その歩みの軸は、「地元・沖縄と共に成長する」という思いと、それを実現するための戦略です。コロナ禍を経て、どのような道筋を描き、強化を図っているのか、フォーモストブルーシール株式会社(以下ブルーシール)代表取締役社長 村上 琢磨氏と、会社の成長を支える社員の方に、オリックス沖縄支店長の松本 尚之が伺いました。

沖縄県民の「楽しい思い出」に寄り添いながら成長したブランド

……まず、御社が沖縄に誕生した経緯を教えていただけますか。

村上社長(以下 敬称略):1948年、アメリカに本社を置くフォーモスト社が、沖縄に駐留する米軍関係者に乳製品を供給することを目的として、具志川市(現:うるま市)の米軍基地内に設立したのが始まりです。1963年に現在の本店がある浦添市牧港へ拠点を移し、アイスブランドとしての歩みをスタートさせました。

1960年代のフォーモスト社(提供:ブルーシール)

……商品の特徴はありますか。

村上:味の面では、沖縄の気候に適した味わいが特徴です。高温多湿な気候のため、コクがありながらも、さっぱりとしていて口どけの良さを感じられる味わいが好まれるんです。実は、創立時から伝わる100種類以上のオリジナルレシピが掲載された「オレンジブック」という"秘伝の書"があるのですが、そのレシピをベースに、沖縄の風土に合わせたアレンジを加えています。

牧港本店に展示されているオレンジブックのレプリカ

また、紅芋など地元沖縄の素材を生かしたフレーバーを積極的に展開しており、常に新しいフレーバーの開発にチャレンジし続けています。

……ブルーシールは、沖縄の方にとってどのようなブランドなのでしょうか。

村上:創業当時、アイスは貴重でぜいたくなものでしたので、お祝いやごほうびなどの特別なシーンに食べられるものとなりました。そこから何世代にもわたって地元の方々の「楽しい思い出」と共に愛されてきました。

私たちも、「地元の方々にアイスを通して笑顔をお届けしたい」という思いで活動し続けており、一例ですが、小学校の夏休み前最後の給食や地域イベントなどでアイスをご提供し、楽しい思い出のシーンをサポートする取り組みを昔から行っています。

沖縄の皆さまに育てられて、ここまで成長することができたのだと思います。

……近年は県外への展開にも取り組まれている印象です。そこにはどのような狙いがあるのでしょうか。

村上:アイスを通して沖縄の魅力を県外にも発信していきたいという思いから、直行便があり沖縄と親和性の高い東名阪を中心に展開しています。

先ほど申し上げたように、ブルーシールは楽しい思い出とともに存在するブランドです。沖縄に来てブルーシールを食べてくださった方々が地元に帰ってからも味わえる店舗があれば、沖縄で過ごしたひとときを思い出し、また沖縄に行きたいと思うきっかけになれるのではと考えています。

……県外の店舗で販売している商品も、沖縄で製造しているのですか。

村上:はい、沖縄の工場で製造した商品をお届けしています。当然ながら近年上昇する輸送コストの課題と向き合う必要はあるのですが、やはり沖縄で作っている商品を、同じように県外でもお楽しみいただけることに希少価値、情緒的価値があると考えているので、できるだけ県外で製造することは考えていません。

県内に関しては、独自の物流システムを構築しているため、例えば台風などの自然災害が起きて物流網に影響が生じた際も、可能な限り安定的に商品をお届けできる体制を整えています。

コロナ禍で気づいた「地元のお客さまに向き合う姿勢」の不足。沖縄と共に成長するために図った強化

フォーモスト ブルーシール株式会社 代表取締役社長 村上 琢磨氏

……近年、コロナ禍によって観光客が激減した時期がありました。経営にどのような影響がありましたか。

村上:当然ながら大きな打撃を受けました。それまで売り上げは右肩上がりで伸びており、2019年には約25億円に達していました。しかしコロナ禍で観光客が激減した2020年には17.8億円と大きく減収したのです。

ただ、この経験があったからこそ得られた気づきもありました。私たちは沖縄県民の方々の支持を得て右肩上がりに成長してきたと考えていたのですが、急成長の要因は、観光客の方々が増えたことだった。つまり、沖縄観光の人気上昇によって恩恵を受けていたに過ぎず、私たち自身の力で成長したのではないことが浮き彫りになったのです。

これまで沖縄の方々にずっとかわいがられ、助けていただいてきた企業なのに、そこに向き合う姿勢が足りていなかったのではないか。そんな気づきと反省のもと原点に立ち返り、「地元の方々にアイスを通して笑顔をお届けする」ためにすべきことは何かを考え、強化を図るきっかけとなりました。

……具体的には、どんな強化を図ったのですか。

村上:まず商品開発に関しては、沖縄県民の方々が求めている商品を本当に提供できているのか再考し、地元の方々が日常的に利用する機会が多い量販店に合わせた商品開発を行ったり、沖縄県産の素材の取り入れ方を見直したりしました。

例えば、主に沖縄県内のスーパー、コンビニなどで販売しているカップ商品は、消費者アンケートをもとにサイズやパッケージの見直しを検討。満足感を味わえる容量に増量し、従来のブランドイメージである楽しさ、明るさ、親しみやすさに加えて、若々しく活発なイメージをプラスしたパッケージにリニューアルしました。

リニューアルしたカップ商品。紙フタをシール状のフタに変更するなど、日常で手に取りやすい形状にこだわった。

沖縄県産の素材については、より地元の1次産業にお力添えできるような商品開発を行いました。コロナ禍では、観光商材やお土産商品に多く使われる紅芋などの農産物が大量に余ってしまう状況となり、その際はアイスへの活用を積極的に提案しました。それ以外にも地元の農家さんと連携し、新しい商品開発につながる素材を常に検討してます。

……沖縄の方々に対する情報発信やコミュニケーションのあり方も変化したのでしょうか。

村上:はい。先ほどお話ししたように、スーパー、コンビニなどで商品展開を強化したことにより、県民の皆さまの日常生活における接触機会を増やすことができました。それに加え、店舗イベントの見直しや、テレビCM・SNSなどさまざまな媒体での情報発信強化を行い、より沖縄の皆さまにブルーシールの情報が届くよう取り組んでいます。実際、来店いただく県民の方の数も増えました。

他にも、地域への貢献活動の一環として、オリジナルキッチンカーで保育園・幼稚園などに伺い、社員が絵本の読み語りを行う取り組みも2008年から継続しています。読み語りの後には、子どもたちにアイスをふるまうのですが、皆さんとても楽しみにしてくださって、キッチンカーが到着すると子どもたちが目を輝かせながら集まってきてくれるんです。ブルーシールを愛していただいていることを実感できる、社員もとても楽しみにしている取り組みの一つです。

地域への貢献活動の様子(提供:ブルーシール)

象徴である牧港本店をリニューアル。より“沖縄と融合”した店舗に

そんな地元に愛されるブランドであるブルーシールの象徴ともいえるのが1963年に誕生した牧港本店です。幅広い世代のお客さまの思い出が詰まった店舗でしたが、建物の老朽化により建て替えられることとなり、1年4カ月の「リフレッシュ休暇」を経て、2024年7月にリニューアルオープンしました。

リニューアルで目指したことや、お客さまからの反応について、牧港本店マネージャーの伊舎堂 菜花氏に話をお聞きしました。

フォーモスト ブルーシール株式会社 牧港本店 マネージャー 伊舎堂 菜花氏

……伊舎堂さんは、リニューアル前から牧港本店に関わっていらしたのですか。

伊舎堂:はい。2024年で入社3年目になるのですが、1年目に牧港本店の店舗社員として配属されました。店舗の「リフレッシュ休暇」中は近隣の店舗をいくつか担当し、リニューアル後に牧港本店のマネージャーに就任しました。

……牧港本店のリニューアルが決定したとき、お客さまの反応はいかがでしたか。

伊舎堂:リニューアル前にもう一度訪れておきたいと、非常に多くのお客さまにご来店いただき、たくさんのお声や寄せ書きをいただきました。本店で過ごした思い出のエピソードや励ましのお言葉など、一つひとつのメッセージに胸が熱くなりましたし、皆さまから愛されている場所なんだということを改めて実感しました。

お客さまからいただいたメッセージカード。本店での思い出や好きなフレーバーについてなど、さまざまなコメントが寄せられた。

……今回のリニューアルではどんなことを目指したのでしょうか。

旧本店は、1963年にスタートした当時からの建物で、古き良きアメリカンダイナーのような雰囲気でしたが、新本店では、その空気感はそのままに沖縄らしさをうまく融合させることを目指しました。

例えば、床の白黒タイルや赤いレザーシートをはじめ、旧本店と同じデザインやアイテムを用い、空気感は大切に残しつつ、花ブロック(沖縄の建築で多く用いられる、空洞で柄をデザインしたコンクリートブロック)など沖縄らしさを感じさせる要素も新しく取り入れています。

私の着ている制服の袖にもミンサー織の模様があしらわれています。

連日にぎわう牧港本店のカウンター前。アメリカンダイナーの雰囲気を残しつつ、沖縄の建築に多く見られる花ブロック(写真左下の白いブロック)などの要素が取り入れられている。

もう一つ大きな変化として、直営店で初めてドライブスルーを導入しました。沖縄は“車社会”でドライブスルー文化が定着しています。車から降りずにアイスを楽しむことができるので、小さなお子さま連れのお客様や仕事帰りの方など、地元のお客さまのニーズに寄り添える形として挑戦しています。

他にもお客さまの思いやご意見をできる限り取り入れながら、リニューアルを行い、地元・沖縄の方々に愛される店舗になるよう、スタッフ一丸となってアイデアを出し合いました。

……リニューアル後の反響はいかがですか。

伊舎堂:想像以上に多くのお客さまにお越しいただき、スタッフ一同うれしい悲鳴をあげています。「広くなったね」「楽しめる場所がたくさんあるね」といったお言葉もいただけました。

2階には、ブルーシールの歴史を紹介するコーナーなどが設けられており、1階とは違った雰囲気を楽しめる。

すでに多くのお客さまにご来店いただいていますが、もっともっと沖縄県民のお客さまに足を運んでいただき、ブルーシールのアイスを楽しんでいただきたいです。ちょっとしたイベントのときや夜ご飯のあとなど、身近ないろんなシーンに使っていただけるようなお店にしてきたいと考えています。

商品を通じて、沖縄の発展や魅力・価値向上に貢献したい

最後に、再び村上社長にお話を伺いました。

……今後はどのようなことに取り組んで行かれるのでしょうか。

村上:取り組みたいことはたくさんあるのですが、根底にあるのは、やはり「多くの方々にアイスを食べて笑顔になっていただきたい」という思いです。沖縄県民の方々に「わったー(私たちの)アイス」と言っていただけるよう、求められている商品やサービスを提供し続けていきたいと考えています。

現在でも、お客さまの声を商品やサービスに反映するスピード感を大切にしているのですが、そこをもっと上げていきたいですね。地元製造であり、物流拠点を有していること、また研究や企画などの本社機能も牧港本店に隣接しており、意思決定を素早くできます。この強みを生かして向上できることはまだまだあると思います。

同時に、ブルーシールの商品や情報発信を通して、沖縄に足を運んでくださる方々を増やすことにも貢献していきたいと考えています。県民のみなさんと共に沖縄のさらなる発展や魅力・価値向上に向けてわれわれができることに、微力ながら取り組んでいきたいと考えています。

<取材を終えて>
オリックス株式会社 沖縄支店 支店長 松本 尚之

ブルーシールさまが地元の方々に愛されながら成長し続けている理由を、深く理解することができました。沖縄県は、距離や天候の影響など他県とは異なる面があり、サプライチェーンの課題を持つ企業が多くあります。そのような中で、地元製造を行い、独自の流通システムを有する強みは、大変勉強になりました。

ブルーシールさまのさらなる事業拡大や生産性向上に向け、​補助金制度などオリックスが有する専門的な知見をもって、お力添えしていければと考えています。

オリックスグループは、沖縄県で自動車関連や不動産関連の事業、コールセンター業務などに従事する1000名以上の雇用を創出しております。
オリックス沖縄支店としましては、雇用だけでなく、ブルーシールさまのような地域に根差した企業をサポートさせていただき、沖縄県のさらなる経済活性化に貢献していきます。

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