みなさんは、PCの製造現場を見たことはありますか?
一見、無人のベルトコンベアに製品が流れていくような“自動化されたもの”を想像してしまいますが、実際は人の目と手がなければ完成しません。アフターサポートや短納期に定評のある老舗国内PCメーカーの「エプソンダイレクト」は、こうした一つひとつの丁寧な作業で、多くのクライアントから品質に高い評価を得ています。
1日に数百台もの製品を生産しているというエプソンダイレクト。「お客様に寄り添う」をスローガンに掲げる同社では、お客様ごとの細かな要望に応えるため、多い企業で40個以上もの検査項目を一つひとつ手作業で確認して生産しているといいます。いかにして、品質を担保しながら実現できているのか。製造現場の努力と工夫に迫ります。
「次に触れるのはもうお客様」という緊張感を持って作業
今回訪れた長野県下伊那郡にあるエプソンダイレクトの提携工場(株式会社アイテク)では、ノートPC、Windows タブレットPC、ウルトラコンパクトPC(省スペースデスクトップPC)のほか、受付端末などに使われるタッチパネル液晶一体型PCの製造から出荷までを行っています。
PC業界は製品の性能で差別化を図るのが難しい側面があります。『お客様に寄り添う』をスローガンに掲げる当社では、お客様の細かな要望に応えることを差別化の武器にしており、そのためには製造現場がどうあるべきかにも注意を払っています。
そう語るのは、エプソンダイレクトの技術部で生産技術を担当する大輪秀俊氏です。大輪氏はパーツの調達先である海外のODMメーカーや、提携工場の現場を行き来して製造が上手く回っているか調整する役目を負っています。
工場で大輪氏との窓口を担っている齊藤慎一郎氏は、「私たちが工場から出荷した製品を、次に触れるのはもうお客様です。お客様にいかに品質の良い製品を届けられるかは、我々次第。しっかりやらなければなりません」と表情を引き締めます。
部材での差別化が難しいからこそ、品質管理がカギになる
一口に品質を保つと言っても、調達する部材だけが品質を左右するわけではありません。むしろ部材での差別化が難しい業界だからこそ、“組み立て時の品質管理にどれだけこだわるか”が差別化のための大きな鍵を握っています。
そしてクライアントの要望に応じた高品質を武器とする場合、必然的にPC工場で部材や工程を柔軟かつ的確に管理できることが重要になってきます。その第一歩はコミュニケーションだと齊藤氏は言います。
いかに品質良く届けられるか注意していても、お客様によって要望が異なり、現場だけでは判断できないこともあります。そのため、大輪さんとのやり取りは緊密で、電話やメールだけでなく、Teamsなどのツールも使ってすり合わせ、確実な作業を心がけています。
いくら現場が細心の注意を払って高品質に仕上げても、そもそものオーダーがクライアントの希望とズレてしまっていては元も子もありません。
大輪氏はクライアントのニーズを聞き取る作業の重要性が増してきたと言います。
以前までは営業がクライアントのニーズを聞き取り、それを共有するだけで十分でした。しかし一般的なオフィスの事務用途ではない、医療分野や受付端末、生産ラインなどの業務用途向けの納品が増えてくるにつれ、それだけでは不十分になったのです。クライアントの細かなニーズに応えようとすると、技術系の人間が営業と一緒に確認に行ってきちんと把握することが重要になってきました。
場合によってはクライアントに製造現場まで見学に来てもらうこともあるそうです。
過去にはゲーム業界のお客様から高負荷の状態で使うことを想定したエージング試験(※)の要望をいただき、しっかりした試験の環境を整えたことがあります。お客様に来ていただいて試験環境を見てもらったところ大変喜ばれました。
※実際の使用環境と同じように稼動させ、性能や機能が仕様通りに発揮されるか、不良な箇所がないかなどを事前に調べるもの
クライアントに満足してもらうことでビジネスとして続いていく。逆に些細な行き違いが原因でニーズを満たせなかったり、満足してもらえなかったりでは、ビジネスとして続かないと考えていることがわかります。
モノを売るためにはまず「お客様の困りごとを一緒に解決していく」、そのためには部門の垣根を越えて協力し、企業の枠も越えてパートナーと共に、一緒に解決していこう。そうした考え方が社風となっているエプソンダイレクトだからこその逸話と言えそうです。
では実際に、PC工場ではどのような品質管理が行われているのでしょうか。
クライアントに合わせて検査項目をカスタマイズできると言っても、どんな検査項目があるのかすぐに想像できない人もいるでしょう。それに大切な検査なら、どの製品に対しても実施したほうが良いはずだという考えも決して間違いではありません。しかし、検査には時間とコストがかかるうえ、クライアントによって製品の使い方はさまざまです。このため、業務上重視する機能は多少コストをかけてでも一般的な検査以上の厳密な検査を実施して、絶対に間違いのないようにしてほしいというニーズに対してどこまで対応できるかは企業によって差が出る部分なのです。
具体的な例に、タッチパネルのタッチ検査があります。画面を1センチ角ほどのマスで区切って、すべてのマスをタッチします。タッチした箇所が正常に反応しているか、タッチしていないところが反応することがないかを1つずつ確認する手間のかかる検査です。これは処方箋を扱う薬局などで使われる、特定用途向けのPCで求められることがあります。
用途を考えると小さな不具合が大きな事故につながりかねず、「不良品があったら交換します」という対応では不十分だというクライアントのニーズが理解できます。齊藤氏は、クライアントがタッチを指でするのかペンでするのかまで、大輪氏を通じてクライアントに確認してもらい検査を調整するそうです。齊藤氏の「お客様に合わせないと検査の意味がないですから」という言葉が印象的でした。
現場の差別化を推し進める独自開発の管理ツール「PCLS」
PC工場の品質管理を語るうえで特筆すべき秘密兵器があります。工場のソフトウェア部門で開発している工程管理ツールの「PC build Leading System」、通称「PCLS(ピクルス)」です。今年の5月からトライアルとして導入したばかりで、現在はブラッシュアップして完成度を高めています。ある程度改善されたところで工場内のすべての管理ツールとして切り替えられる予定になっています。
PCLSはバーコードリーダーとタッチパネルを備えた、スマートフォンより一回り大きな専用デバイスで利用します。二次元コードをスキャンすると、ネットワーク経由でデータを読み込み、1台の製品に対して使用する部品や行うべき作業が手順に沿って表示されます。
作業員は各自がこのデバイスを携帯し、1つの作業を完了するたびに画面上に表示される項目をチェックします。これにより、部品漏れや作業が未完了のまま次の工程に移ることを防ぐ仕組みです。
PCLSに切り替えていない従来の工程では、製造する案件ごとにチェックシートを印刷し、1台に1枚のシートを使って作業のたびにペンで記していくやり方でした。企業によっては検査項目が40項目近くに及ぶこともあり、これだとチェックの入れ忘れや、間違った項目にチェックを入れるなどのケースがしばしば発生していました。
PCLSを導入した案件では、チェック項目を間違うことが激減しました。しかも、もしチェック項目を間違えて入力しても次の工程ですぐに発見されて差し戻されるため、間違えたまま工程が先へ進んでしまうことがありません。
PCLSの利点は工程管理を現在進行系で漏れなく行えるだけに留まりません。
たとえば、作業ミスが出ればリカバリーの工程が発生します。通常、これを加味してある程度のバッファを取っておくものですが、作業ミスが減ればそれだけ時間とコストを節約できます。
万が一ミスが起きてもどの工程に不具合があったのかすぐにトレースでき、問題の再発防止にも役立てられます。また、部品の調達先ベンダーから傾向不良の連絡が入った場合でも、シリアルナンバーから追跡してお客様へ迅速に連絡ができ、影響を最小限に抑えることができます。
このほか、チェックシートで使用する紙の量も年間で見るとばかになりませんが、PCLSでペーパーレス化でき、紙の使用量はぐっと低減できる見込みです。
クライアントごとに異なる検査の要望にも応えられる柔軟なシステム
ここまででもPCLSの利便性の高さがうかがえますが、他社との差別化を図るうえで真価を発揮するのは個別検査に活用できる点です。
先述のとおり、エプソンダイレクトではクライアントからの依頼に応じて、個別の検査項目を設けて現場対応しています。クライアントごとに検査項目が異なるため、それぞれ工程管理を特別に組む必要があります。PCLSであれば、ネットワーク経由ですべての作業の工程を一元管理しつつ、各作業員に工程を割り振れるので、作業員は自分が何をすれば良いのかすぐに把握できます。
OSのインストールやスピーカーの確認を担当している作業員も、PCLSを導入してからチェック漏れが減ったと語ります。
お客様ごとに必要な検査がひと目でわかりやすくなったことで、何をやるべきか調べる時間が短くなりました。普段から使用していて感じる「こういう項目を増やしてほしい」といった要望を出すようにしています。
検査はクライアントごとに異なるため、どうしても時間がかかります。スムーズに流れない部分を少しでも効率化したい、そうした現場のニーズからPCLSが生まれました。
外部にシステム開発を委託すると、ちょっとした現場の声を反映するのが結構難しいのですが、PCLSは社内のソフトウェア部門が同じ建屋で作っています。そのため、現場の細かな気付きが開発者に伝わりやすいというメリットがあります。
現場からの声を反映した部分には、たとえば配送伝票の処理があります。クライアントの所在地や利用する運送会社によって、用意する配送伝票の書式や梱包への貼り付け方が異なります。こういった細かな部分にも、PCLSは有効です。伝票を段ボールの上部に貼り付けるもの、側面に貼り付けるもの、企業の要望により納品書も伝票と一緒に段ボール外に貼り付けるものなど、細かな要望にも応えられる工程管理を実現できました。
ビジュアルで確かめるエプソンダイレクトの高品質なPCが生まれる場所
最後に工場内を写真で見ながら、PCLSを実際に利用している姿や配慮の行き届いた現場の様子を確認しましょう。
工場に足を踏み入れると、手前から奥に向かってラインが作られています。そして一連の確認工程がスムーズに進むよう、組み立てる製品の種別や工程によってラインが分かれています。
PCLSによる工程管理の電子化は移行中のため、案件によってはまだ紙のチェックシートも利用しています。チェック項目の少ないクライアント用と多いクライアント用では、項目数に大きな差があります。
なおエプソンダイレクトでは、従来廃却していた部材を再利用し資源を循環させる「リファービッシュ品」の販売も行なっています。エプソンダイレクトのリファービッシュ品は、「無料貸し出しプログラム」による貸出機、展示会などで短期間使用した製品を同工場で十分なクリーニングや検査、修理を行い通常品同等の品質に生まれ変わらせた商品。通常品同等の動作保証、保守サービスも変わらず使えるうえ、お得に購入できます。エプソンダイレクトでは、PCLSでのペーパーレス化やこういったリファービッシュ品の販売など、環境にも配慮した活動を積極的に行なっていることが随所から感じられました。
長い時間をかけてきた老舗ブランドならではの積み重ね
PC工場の現場を見学して実感したのは、ラインで行われている1つひとつの作業が洗練されていて、一朝一夕でできあがるシステムではないことです。作業者が素早く確実に作業できるよう、小さな工夫が随所に溢れており、組み立てと検査の工程はPCLSによる高度な効率化が実現しようとしています。
営業と製造現場ではどうしても活動するフィールドに物理的な距離ができてしまいます。私たちのお客様がどのようなニーズを持っているのか、現場にきちんと理解してベクトルを合わせてもらうことが、お客様への価値提供につながっていると考えています。
PCLSでは組付けの仕方や注意する部分、ヒントになることは表示しますが、組み立て方そのものが変わるわけではありません。最後は人の手と人の目が頼りです。
二人からはクライアントのニーズを現場に確実に落とし込むための緊密な連携が感じ取れ、エプソンダイレクトの高い品質の背後にある、普段は見えない取り組みが見られました。
大輪 氏(左)と齊藤 氏(右)
[PR]提供:エプソンダイレクト株式会社