2023年に訪日客の旅行消費額が過去最高を記録するなど、右肩上がりに推移している日本の観光業界。インバウンド消費は日本経済を支える柱(ハイテク製造業に次ぐ輸出産業)になりつつあり、ますますの市場拡大が見込まれています。
中でも成長が期待されているのが、旅館・ホテル業界。近年は宿泊に費用をかける旅行客が増加しており、そんなニーズの高まりに応えるべく、業界全体で人材確保に注力しています。賃金アップやより良い労働環境の実現に動く旅館・ホテルは少なくなく、就職先としても人気の予兆を見せているのです。
では実際のところ、旅館・ホテル業界は今後どのような発展を遂げていくのでしょうか?今回は、地域エコノミストで国内外の観光産業に詳しい藻谷浩介さんをファシリテーターとして迎え、兵庫県旅館ホテル生活衛生同業組合のメンバーが座談会を実施。京都のホテルで執行役員を務める奥直子さんをゲストに加えて、旅館・ホテル業界で働く魅力と将来性について語っていただきました。
座談会参加者 <ファシリテーター>藻谷浩介さん
株式会社日本総合研究所の主席研究員。平成合併前3,200市町村のすべてと海外140か国を自費で訪問し、地域特性を多面的に把握。地域振興、人口成熟問題、観光振興などに関し、精力的に研究・著作・講演を行う。<ゲスト>奥直子さん
金融機関から出向し、現在は京都にあるホテルの執行役員を務める。経営企画や総務人事にも携わっている。<兵庫県旅館ホテル生活衛生同業組合>上村早苗さん
淡路島にある旅館の女将。<兵庫県旅館ホテル生活衛生同業組合>田岡聖司さん
城崎にある旅館の代表取締役。<兵庫県旅館ホテル生活衛生同業組合>金井一篤さん
有馬にある旅館の主人。
インバウンド消費額20兆円も夢じゃない!旅館・ホテルは日本の成長産業!
コロナ禍で大打撃を受けたものの、今や完全に息を吹き返した観光業界。有馬・淡路・城崎で旅館を経営する3名は、その盛り上がりを肌で感じていると口を揃えます。
有馬では、コロナ禍を経て、韓国を中心に海外からのお客さまが増えています。宿泊者の総数は、コロナ前を超える勢いです。 |
淡路島は関西圏の中ではコロナ禍からの回復が早い傾向にあり、少し前から観光客の姿が目立っていました。今後はインバウンド需要の高まりにも期待しています。 |
コロナ前、城崎には約6万人の外国人観光客がいらっしゃっていましたが、その水準に戻ってきています。かねてから多かったアジア系に加え、アメリカや中東からのお客さまが増え、多様化している印象です。 |
注目すべきは、有馬・城崎の観光業界を回復に導いた訪日外国人旅行者の存在。その数は、さらに増加の一途を辿るに違いないと藻谷さんは断言します。
旅館・ホテルはインバウンドの恩恵を受けられるため、数の減りゆく日本人だけを相手にする産業に比べると成長の余地は多分にあります。しかも、この恩恵は始まったばかり。 たとえば、2023年の訪日者数が最多の韓国では、国民のおよそ7人に1人、親日として知られる台湾は6人に1人が日本に来ている計算になります。一方で、アメリカではおよそ170人に1人、インドネシアにいたっては660人に1人と、欧米はもちろん、東南アジアにもまだまだ伸びしろがあります。他にもインドや中国にも膨大な潜在重要があり、そのうえ、中東や中南米の国々からも観光客が増えているのが今年のトレンドです。 |
世界を基準にすると、昨年はおよそ300人に1人が日本に訪れていますが、今後100人に1人まで増える可能性は十分に考えられます。 |
いわば“先行事例”として、訪日外国人旅行者から高い人気を誇っている京都。奥さんが働くホテルでは、桜や紅葉の季節になるとインバウンドが殺到するため、年間宿泊者の約4割を外国人客が占めるまでに至っているそうです。
藻谷さんは、いずれ兵庫の旅館・ホテルも京都のようになるのではないかと予想します。
例えば城崎では、人々が浴衣を着て楽しそうに温泉街を練り歩いていますよね。15年ほど前、そんな光景を見て「外国人観光客が必ずこの場所の存在に気付くだろうな」と確信していましたが、その通りになりました。 少々交通が不便でも関係ありません。自然が豊かで、エリアごとに特色ある魅力を秘めている兵庫の実力が世界に認知されさえすれば、外国人観光客がこぞって訪れるでしょう。 |
藻谷さんいわく、旅行が好きで長く滞在する外国人観光客は、往復の航空券を安くしてその分を日本国内での消費に回す傾向があるそうです。
インバウンド消費額は現在8兆円規模で、政府は2030年までに15兆円を目標に掲げていますが、もっと早くに20兆円は目指せるのではないでしょうか。 |
このことは旅館やホテルにとって、まさに朗報。成長への追い風になるでしょう。
宿泊業にとって「人」は最も大切な財産。働き方改革やハラスメント対策で労働環境は劇的に改善!
成長が見込まれる旅館・ホテル業界ですが、深刻な課題が横たわっています。それが「人手不足」。「人の温もりが求められる仕事であるため、AIやロボットで代替するのは難しい」と田岡さんが話すと、上村さんと金井さんも同意しました。しかし、藻谷さんは「長期的に人手不足が続く」と警鐘を鳴らします。
日本に住む0~4歳児は400万人少々で、50年前の約1,000万人と比べてなんと6割も減っています。年々新卒者が減っていくわけで、長期的に人手不足が続くのは明白です。とはいえ、先ほども言った通り、潜在顧客は世界中にたくさんいて、これからますます忙しくなることは間違いないでしょう。 人材を確保するには他の産業に比べ賃金を上げることが必要です。そのためには稼働を上げて売上を増やさねばならないというジレンマがあるわけですが、人手不足に対して対策は打っていますか? |
当旅館では有馬の町中のお店で食事や体験プログラムを楽しんでいただくなどして、旅館の外の人たちの力も借りながら連泊してもらいやすいサービスを作ったりしています。少ない人数でも売上を上げられる仕組みに変えられるように試行錯誤しているところです。 |
淡路島では外国人材も採用していますが、日本人であれ外国人であれ、賃金をアップしないことには人材を確保することはできません。 AIが普及していくにあたり、人が手がけるサービスの価値は逆説的に上がっていくのではないかと考えていますので、さらに品質を高めて高単価な事業にしていくための取り組みを進めています。 |
城崎温泉ではエリア内の旅館・ホテルによる合同入社式と合同研修会を開催し、垣根を越えたつながりを強めて定着率の向上を図っています。今年は約40名の新入社員が参加してくれました。 |
採用した人に長く働いてもらうには、賃金はもちろん、労働環境も鍵を握ります。城崎の取り組みは、その一環といえるでしょう。「旅館やホテルは過酷な職場というイメージが世間的にあるのでないか」との藻谷さんからの指摘に対し、様変わりしている旅館・ホテルの実態を明かしてくれました。
休みが取りにくい職種と思われがちですが、例えば当旅館は年間68日の休館日を設け、スタッフは週5日勤務です。一般の企業と変わらない働き方ができる旅館・ホテルが増えてきていますよね。 |
有馬には年間145日も休館している旅館もあるほどです。当旅館も週に1度のペースで休館してメリハリをつけて運営していますし、ここ10年ほどで労働環境は急速かつ劇的に変わっています。 |
お客さまから「この日は、城崎温泉エリア一帯がお休みなんですか?」とお問い合わせをいただくことがあるくらい、休館日を設ける旅館・ホテルが定着しつつあります。 |
京都のホテルでも、レストランで定休日を作ったり営業時間を短縮したりするような取り組みが見られます。業界全体で働き方改革が進んでいるのではないでしょうか。 |
この変貌に藻谷さんは驚きつつも、納得の様子でした。
旅館・ホテルは労働集約型産業で「人」ありきの業界ですので、人を大切にしようという意識改革が他の産業に先駆けて進んでいるのかもしれませんね。 |
マネジメント層に対してアンガーマネジメントをはじめとしたさまざまな研修を実施するようになりましたし、どこの旅館・ホテルもハラスメントには厳しい姿勢で臨み、撲滅に向けて力を入れています。 |
奥さんも「世代間ギャップは一朝一夕に埋まるものではない」と前置きしながらも「コンプライアンス研修を繰り返すことは重要」と述べました。
上村さんは「宿泊業にとって『人』は貴重な財産でもある」と強調。人手不足な時代において「人」をぞんざいに扱う旅館・ホテルは淘汰されていくのではないかと危機感を募らせます。
経営者がスタッフを「人」として扱わないような旅館・ホテルは、お客さまへのサービスに表れます。他の業界とは違い、直接フィードバックをいただきやすいので、お客さまの目が光っている分、研修の実施やハラスメント対応を含めて人に投資するのは当然です。 |
顧客からのフィードバックがダイレクトに届くのは、働くやりがいにもつながっているのだとか。上村さんが「これこそが旅館・ホテルで働く醍醐味」と胸を張ると、奥さんは「夢のある仕事」と応えました。
そのうえ、兵庫県は自然が豊かなので、山や海に囲まれて働きたい人にはぴったりです。城崎でも釣りやゴルフ、スキーやスノボが趣味のスタッフがたくさんいて、休みの日にはエンジョイしています。 |
自然を満喫しながらも神戸や大阪の都心まで足を伸ばしやすく都市型生活を維持できるのは、いわゆる“トカイナカ”的な兵庫の観光地で働く魅力のひとつといえるのかもしれません。
世界は、これから兵庫を知る。兵庫の旅館・ホテル業界の将来性は抜群!
最後、藻谷さんに総括していただきました。
人口が減少していく日本において、観光業は数少ない成長産業です。その理由は、世界中にまだまだ潜在顧客が眠っているからに他なりません。特に、遠い国から来る観光客は長期滞在する傾向にあるため、観光業の中でも宿泊業にかかる期待は大きなものがあります。 しかも兵庫は、その実力がまだまだ全然知られていません。成長の余地は相当あると言って差し支えないでしょう。また、AIやロボットで代替できない仕事のため、就職先の将来性としても抜群です。人を大事にできる企業が生き残り、賃金水準も上がります。 |
「世界に目を向けて、広い視野でがんばってほしい」とエールを送った藻谷さん。兵庫の旅館・ホテル業界の未来は明るい。そう希望を感じられる座談会でした。
[PR]提供:兵庫県旅館ホテル生活衛生同業組合