自然環境のもとでの生活や宿泊を楽しむ「キャンプ」は、ファミリー層やソロキャンパーなど近年のアウトドアブームを経て、健康的なレジャーとして世の中に定着した。キャンプ人口は順調に増加しているが、一方でキャンプ場を運営する企業や地方自治体においては、運用効率や収益面での課題に直面しているケースも少なくないのが現状であり、抜本的な運営改革とサービス品質の向上が求められている。NTT東日本 ビジネス開発本部 営業戦略推進部の岡本 理氏と吉原 健人氏に、キャンプを取り巻く課題や現状をうかがった。
加えて11月1日に設立したNTT東日本とテルウェル東日本が共同出資した新会社「NTT Landscape(ランドスケープ)」の目指す展望についてもお伝えする。
アウトドアの文化として定着した「キャンプ」だが、人手不足による運用負荷増大やサービス品質低下が課題に
自然を楽しむアウトドアの代名詞ともいえるキャンプだが、近年の新型コロナウイルス感染症拡大、いわゆるコロナ禍を機にアウトドア需要が高まったことで新たなブームを迎えた。コロナ禍から数年を経た現在、キャンプブームは落ち着いてきているが、キャンプ場の稼働率は順調に推移しており、一過性のブームからアウトドアの文化として定着したといえる。
こうして成長市場の1つとなったキャンプ事業だが、施設運営の負荷増大と、それに伴う利用者の利便性低下などによる収益面での課題が顕在化している。キャンプ場は全国に5,000施設以上存在し、そのなかの約2,000施設は地方自治体が運営しているが、その大半が十分な収益を得られていないのが実状だ。このため、民営化に舵を切り、キャンプ場運営の経営を民間に委託する地方自治体も増えてきているという。
とはいえ、単に民間に委託しただけで収益が上がるわけではない。少子高齢化に伴う労働人口の減少は、アウトドア事業にも及んでおり、生活圏から離れた場所にあるキャンプ場では人手の確保も困難。初心者キャンパーやファミリー層などアウトドア活動に不慣れな利用者に対して十分なサービスを提供できていないケースもめずらしくない。成長事業であるキャンプ事業のポテンシャルを活かすためには、キャンプ場運営の仕組みを抜本的に変革する必要がある。
「地域のミライを支える価値創造事業を中心としたソーシャルイノベーション企業として、地域社会のみなさまとともに、持続可能な循環型社会の共創を実現する」というパーパスを掲げるNTT東日本グループでは、全国各地域に広がるキャンプ事業が持続的な地域経済の発展に寄与するものと捉え、キャンプ場のスマート化を目指す新規事業をスタートさせた。本プロジェクトの発案者の1人であるNTT東日本 ビジネス開発本部 営業戦略推進部の岡本 理氏は、キャンプ事業を立ち上げた経緯について次のように説明する。
「NTT東日本グループのパーパスを実現するという視点でキャンプというコンテンツを見たときに、キャンプ場には、外からのお客様を地域に呼び込む力があると実感しました。ただ多くのキャンプ場では人手に頼った運用により効率化が課題であり、昨今のビジネストレンドであるデジタル化、DXが進んでいない傾向があります。そこで、NTT東日本が得意とするICT、DXの知見を活かして自然とテクノロジーを融合、すなわちキャンプ場をスマート化することで、持続可能なキャンプ場運営を実現し、地域社会と連動した新しいキャンプの楽しみ方を提供できるのではないかと考えました」(岡本氏)
勘と経験に頼った、従来のアナログ的な運用からの脱却
こうして、NTT東日本に所属するキャンプが好きなメンバーが集結し、キャンプ事業開発プロジェクトが始動した。その1人であるビジネス開発本部 営業戦略推進部の吉原 健人氏は、キャンプ場運営において解決すべき課題をこう語る。
「多くのキャンプ場は、現在も勘と経験に頼ったアナログ的な運用をベースとしており、運用改善や変化に乏しい部分があるといえます。また、施設を含めて大きなポテンシャルはあるものの、お客様のニーズに合わせたサービス提供や、施設を改善したりといったことができておらず、お客様を取りこぼしている印象を受けました。そこで私たちのチームでは、キャンプ場をより魅力ある施設にしていくための改善すべき課題として『運用効率化の実現』『地域経済を活性化させる仕組みの構築』『ニーズにマッチした施設改修の実施』の3つをあげ、ICTを活用した課題解決の取り組みを検討していきました」(吉原氏)
Web上での予約が当たり前となった現在においても、キャンプ場の施設予約は電話や往復ハガキでしか予約できないケースもまた多く見られると吉原氏。また現地でのチェックインについて同じ時間帯に多くのお客様が来訪し、何十分もの待ち時間が生じることもめずらしくないと語り、「これがお客様の満足度低下につながる要因の1つとなっています」と現状を分析する。こうしたアナログ的な業務は、従業員の負荷増大にもつながっている。吉原氏は「受付業務にリソースが割かれて、お客様に提供するサービスの品質低下を招いてしまっているキャンプ場も少なくありません」と話す。
地域経済を活性化させる仕組みとニーズにマッチした施設については、顧客満足度に直結する課題といえる。「キャンプ場を訪れたお客様が、キャンプをするだけで帰ってしまうのは、地域としても非常にもったいないと感じました」と吉原氏は語り、地域コンテンツと連携させた“キャンプ+α”の体験の提供や、清潔感・安全性・非日常性などの利用者ニーズに応えた施設開発・改修が、収益改善につながると話を展開する。
こうした課題を解決するため、データ利活用が不可欠と判断したNTT東日本は、キャンプ場スマート化ソリューションの実証実験に着手。まずは受付業務の効率化を図るためスマートチェックインアプリを開発し、これまで検証を重ね、従業員の負荷軽減と利用者の満足度向上を図ってきた。
キャンプ・まちづくり分野の『フィールドDX』を通じた地域活性化
11月1日に設立したテルウェル東日本と共同出資した新会社「NTT Landscape」で、NTT東日本は本格的にキャンプ場の運営にも乗り出す。なお、先述したキャンプ事業開発プロジェクトにおける取組みも事業内容として含まれている。
社長に就くNTT東日本 ビジネス開発本部 営業戦略推進部 担当部長の木下氏は、フィールドDX事業について「地域の自然やコミュニティとDXを融合し、新たな価値を創造する事業」と説明する。
たとえば「キャンプ場運営事業」では、NTT Landscapeが公営キャンプ場などの運営権を取得し、DXを活用した運営効率化×リノベーションによる魅力向上を通じた経営改善(黒字化)を目指す。よって、キャンプ初心者も熟練者も、従来と比べてより快適にキャンプを楽しめるような施設にする。
「DX推進事業」では人手に頼った受付業務の課題を解決するため、アプリケーションでチェックインできる「スマートチェックイン」を導入し、待ち時間を短縮させた。そしてテルウェル東日本が提供する無人ストア「スマートストア」は同社の「ピックスルー」アプリを活用することでいつでも商品購入できるようにした。場所によっては、NTTアグリテクノロジーの提供する農産物の自動販売機の設置も検討しているという。こうした知見を全国5,000カ所のキャンプ場にも横展開していきたい考えだ。
潜在顧客との接点を増加させる「アウトドア研修事業」
このほか「アウトドア研修事業」ではキャンプ場を有効活用し、身体を動かしながらミッションに取り組むアウトドア研修の提供を予定している。法人やキャンプ未経験者など、潜在顧客との接点を増加させるための取り組みの一つだ。JTBとも協業して販売する。
木下氏は「私たちは普段、スマートフォンやコンピュータに囲まれた生活を送っています。けれど人間も生き物です。アウトドア好きな人にはもちろん、なじみのない人にとっても、湖のほとり、森の中など自然豊かな場所で過ごす気持ちの良さは、何事にも代えられないものがあるのではないでしょうか。私たちはDXの力で地方自治体の財政改善にも貢献しながら、皆さまに素晴らしいアウトドア体験を提供する事業を目指していきます」と話し、今後の展開に期待を寄せた。
「まちづくり事業」で持続的なキャンプ場運営と周辺地域の誘客・消費促進を目指す
「まちづくり事業」では、キャンプ場の魅力向上による域外からの人流促進、および周辺施設への送客を通じて地域経済の活性化に貢献していく。地域経済の活性化としてキャンプ場の魅力向上により人流を創出させ、アプリ等による周辺施設(観光施設や道の駅・商店街)へ送客を狙う。
そして、防災対応型トレーラーハウスを自治体等に提供することで、応急住居としての活用を視野にいれ、地域レジリエンスの強化にも寄与する。
地域の未来を支える価値創造事業を中心とした事業構造に転換を図っているNTT東日本グループ。これまで農業、eスポーツ、文化芸術などの専門領域に6社7事業を展開してきたが、今回新たにNTT Landscapeが加わった。地域と連動することで、持続的なキャンプ場運営と周辺地域の誘客・消費促進を目指す同グループの取り組みにますます期待したい。
キャンプ場のスマート化を起点とした地域活性化の
取り組みについて詳細・お問い合わせはこちら>>
[PR]提供:NTT東日本