ともにつくる、誰もが参加しやすい社会 
「誰もが参加しやすい社会」をつくりたい。こんな壮大な想いに対して、ヤマハだからこそ音楽を通じてできることがある。「おとまち@福井」と「She's Got the Groove」そんな二つのプロジェクトに共通する「Key」をどうぞ。

ヤマハは日本国内だけでなく、海外でも音楽の力でインクルーシブな社会をつくる活動を行っている。その代表例が、中南米において音楽を通して女性たちをサポートするプロジェクト「She's Got the Groove(SGG)」だ。

音楽を通じて自己表現する機会を女性たちに提供し、性別に関係なく「自分はなんだってできる」と感じてもらう。演奏体験を通して女性たちに自信を持ってもらい、彼女たちがポジティブに生きていく後押しをする。メキシコから始まったこの取り組みはいま、すべての女性たちを勇気づける活動として他の中南米の国へも広がり始めている。

ドラムが私の居場所をつくってくれた

「She's Got the Groove」は、女性差別がまだ根強いラテンアメリカの社会問題を改善するために始まった。中南米では長年にわたり、女性に対する暴力や差別が大きな社会問題となっていた。賃金格差や雇用格差など、経済面の課題も深刻だ。

アルゼンチン出身で現在はメキシコを拠点に活動するプロドラマーのシンティア・コンシアさんも、音楽業界における構造的・意識的な差別と闘ってきたひとりだ。9歳の頃にドラムに出会い、14歳から本格的に習い始めた。だが、「ドラム=男性の楽器」というイメージが強く、家族からはピアノや歌といった“女性らしい音楽”を勧められた。シンティアさんが誕生日に買ってもらったのはピアノだった。自分が最も必要としていたドラムセットは、2年間アルバイトをして自分で買ったという。街のジャムセッションに参加しても、「女性だから」という理由で順番を飛ばされたり、見下されたりすることも少なくなかった。

  • ドラマーのシンティア・コンシアさん

「こんな思いをするくらいならと、ほかのキャリアを模索したこともありました。でも、私を引きつけてやまないのはやはり音楽でした。だから音楽のプロ以外の道など考えられなかった」とシンティアさんは言う。そこでドラムの腕を磨き、見下されてもスキルで見返した。次第にその腕前が認められバンドに誘われるようになり、家族も彼女が本気で取り組んでいると知って心からサポートしてくれるようになった。

このようにドラムを通じて自分の居場所をつくってきたシンティアさんは、ほかの女性たちにも同じ体験をしてもらいたいと、2019年、音楽によって女性をサポートするNGO「Ella Sueña(エヤ・スエニャ:彼女は夢を見るという意味)」を設立。その活動がのちに、ヤマハとともに女性を後押しする挑戦へとつながっていく。

女性がドラムをたたいてもいい

ヤマハのメキシコ販社「ヤマハ・デ・メヒコ」が音楽における男女格差に気づいたのは、ある市民参加型のイベントがきっかけだった。

ヤマハは以前から、一般の人々にドラムに触れてもらうイベントを定期的に開催していた。楽器店の店頭にドラムを2台用意し、片方にアーティスト、もう片方にはその場に立ち寄った人に座ってもらい、即興のセッションをするというものだ。しかし、ドラムが「男性の楽器」と思われていたせいか、女性たちはなかなか座ろうとしない。そこで周りの目が気にならないよう女性限定のドラムイベントを開催したところ、多くの女性たちが参加し大いに盛り上がったという。これがきっかけとなり、音楽の力で女性をサポートする「She's Got the Groove」がスタートした。

プロジェクトはコンセプトに賛同する女性アーティストを探すところから始まった。2年ほど「Ella Sueña」で活動していたシンティアさんは、すぐにSGGの想いに共感して参加を決めた。もともと「Ella Sueña」が行っていた、小学校を訪問して女の子たちにドラムを体験してもらう活動もSGGの取り組みとして継続することになった。コロナ禍には対面での活動ができずに苦労したが、演奏動画を募るオンラインコンテスト「ドラム・チャレンジ」や、中南米の11カ国から女性アーティストが参加するオンライン音楽イベントを企画して活動の輪を広げていった。

シンティアさんが「いつも私たちの活動をサポートしてくれる」と感謝しているのが、SGGのチームリーダーを務めるヤマハ・デ・メヒコのアルベルト・ドラドだ。自身もプロのドラマーとして活動していたドラドは、昔から男女格差に意識的だったわけではない。しかし、3年前に結婚したのを機に、「妻が日々の生活や仕事の場面で乗り越えなければいけない、多くのハードルがあることに気づかされた」という。

  • ヤマハ・デ・メヒコ セールス&マーケティング部 アルベルト・ドラド

ドラドと協力しながらSGGを続ける中で、シンティアさんも確かな手応えを感じている。数年前に彼女がメキシコの公園でライブイベントを開催した時には5人だった女性参加者が、2023年は10代から50代までの、さまざまなバックグラウンドを持つ19人にまで広がった。「いつかは女性ドラマーを40人くらい集め、もっと大規模なイベントを開きたい。そんな大きな夢もありますが、いまはSGGが着実に成長していることに満足しています」(シンティアさん)。

「なんだってできる」と伝えること

シンティアさんがライブイベントと同じくらい力を入れているのが、メキシコ各地の小学校を回って女の子たちにドラム演奏を体験してもらう活動だ。椅子やテーブル、缶など身近にあるものでドラムセットを組み、40分で1曲たたけるようになるワークショップを行う。それによって、まずは女性ドラマーの存在を子どもたちに知ってもらう。そして実際にドラムをたたく体験を通じて、音楽に性別は関係ないこと、「自分はなんだってできる」と心から感じてもらうことが目的だと言う。

「ドラムには力があるんです。ドラムをたたいていない時の私は控えめで謙虚な性格。でも、ドラムをたたき始めると、堂々と、パワフルにたたくことができる。自分でもどこからそんなパワーが湧き上がってくるのかわからないけれど、ほら、こんなに力強いサウンドを奏でることができる。『女性にも力がある』と、みんな驚きます。こんなふうにドラムを通して、人々は女性に耳を傾け、女性を尊重するようになると思うのです」(シンティアさん)

女性たちを後押しするシンティアさんの物語は、実は彼女自身の気づきの物語でもある。「ドラムが大好きだから、ドラムを通して誰かの役に立てることがすごくうれしいのです」。インタビューの途中、シンティアさんは感極まって涙を浮かべながら話してくれた。以前は世界中に名の知られたビッグスターになることが夢だった。でも、いまは、自分が有名になることより、自分のスキルと経験を生かして、次世代の女性たちをサポートすることにやりがいを感じている。シンティアさん自身の変化がSGGの活動の大きな原動力になっているのだ。

SGGの今後の課題は、「いかに認知度を上げられるかだ」とドラドは言う。そのためには、シンティアさんのようにプロジェクトに賛同してくれる女性アーティストを増やしていくこと、そしてメキシコに限らず、他地域にも活動を広げていくことが必要だ。メキシコから始まった「女性たちのグルーヴ」。シンティアさんやドラドの想いを乗せて、人々に自信をもたらす大きなうねりが、国境を越えて響き始めている。

音楽の力で女性をエンパワーする「She's Got the Groove」と、音楽を通して街を元気づける「おとまち@福井」。地球の反対側で紡ぎ出された二つのインクルーシブなストーリーを貫く想いはなんなのか――。次回はいよいよ二つのプロジェクトに共通する「Key」に迫ります。

(取材:2024年1月)


シンティア・コンシア|CINTIA CONCIA
アルゼンチン生まれ、メキシコ在住のプロドラマー、ヤマハアーティスト。2019年に女性をサポートするNGO「Ella Sueña」を設立。2021年よりヤマハとともに「She's Got the Groove」を推進している。

アルベルト・ドラド|ALBERTO DORADO
ヤマハ・デ・メヒコ セールス&マーケティング部所属(ドラム担当)。「She's Got the Groove」プロジェクト担当。プロのドラマーとしての活動を経て、2022年に入社。

※所属は公開当時のもの

参考:She's Got the Grooveはこちらをご覧ください


ともにつくる、誰もが参加しやすい社会
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ともにつくる、誰もが参加しやすい社会
#3 垣根を越えた共奏は「自分ごと」から始まる

The Key
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