皆さんは、多くの建設現場に欠かせない「コンクリート圧送」という技術をご存じですか?固まる前の生コンクリート(以下、生コン)を、コンクリートポンプの油圧で型枠内に送り込む技術のことで、ビルや高速道路、橋をはじめとするコンクリート建造物を造るのに欠かせません。
そんな現場で、主にコンクリート圧送に使われるのが、長〜いブームと呼ばれる管を持ったポンプ車。山形市に本社を置く「株式会社ヤマコン(以下、ヤマコン)」は、国内最大級のポンプ車(なんとブーム長46m!)を保有しています。コンクリート圧送の先駆者として知られ、その高い技術力で、羽田空港のD滑走路や新国立競技場などの巨大建造物も手掛けてきました。
山形県発の企業は、どのようにして国を代表するような建造物のコンクリート圧送を担うまでに至ったのでしょうか。今回は、オリックス山形支店 次長の安西 和義がヤマコンを訪ね、佐藤 隆彦 社長や社員の方に、高い技術を有する理由やその軌跡についてお話を伺いました。
高度経済成長期の建設ラッシュで生まれた新技術を、向上・普及させ続けてきた企業
----今日はよろしくお願いいたします。まずは改めて、ヤマコンの沿革について教えてください。
佐藤氏:弊社の創業は1966年、高度経済成長期の真っ只中にコンクリート圧送の専門会社として誕生しました。当時は東京を中心に建設ラッシュで、建設工法が急速に進歩した時期でもあります。「コンクリート圧送」もその頃に生まれた技術です。
一般的な鉄筋コンクリ―トの構造物は、鉄筋のまわりを型枠で囲み、そこに生コンを流し込んで造られます。昭和前半までは、現場でセメントや砂利、水などを混ぜ合わせて生コンを作り、それを職人が一輪車で運んで人力で型枠に流し込んでいました。しかし、そのやり方では増え続ける建築需要に対応できなくなってきたんですね。そこで、あらかじめプラントで生コンを大量に作って現場に運ぶ方法が採られるようになりました。
----ぐるぐる回転する、コンクリートミキサー車の登場ですね?
佐藤氏:そうです。ミキサー車はドラムを回転させることで生コンをかき混ぜ、材料の分離を防いでいます。劣化を防ぎながら、工場から大量の生コンを運んでいるわけです。しかし、生コンが十分にあっても、人力で型枠に流し込んでいては作業効率が上がりません。「じゃあ、流し込みも機械化しよう」と、昭和40年頃に登場したのがコンクリートポンプ車。ミキサー車で運ばれた生コンを油圧で型枠まで効率的に運ぶことができるようになりました。
そして、当時ポンプ車を開発した重機メーカーの社長が山形県出身の方でした。県の財界関係者と懇談会をするなかで、「建設の近代化に向けた新事業をぜひ山形で興そう」という機運が高まり、1966年に弊社の前身となる山形コンクリートサービス(株)が設立されました。全国に先駆け、コンクリート圧送の専門会社が山形で産声を上げたわけです。ただ、創業当初はコンクリート圧送の価値がまだ認知されておらず、しばらくは苦労したようです。少しずつ仕事をいただき、事業を拡大していったと聞いています。
その後、成長を続け1995年に「ヤマコン」に名称を変更。今では東日本の16拠点で、約130台のコンクリートポンプ車を保有するに至りました。2019年に導入したロングポンプ車は、ブームの長さ46mで国内最大級。新国立競技場の建設でも活躍したんですよ。
----ブームの長さが求められる理由は何ですか。
佐藤氏:建築物の高層化・巨大化にともない、近年はポンプ車の大型化が求められているんです。ブームが長ければ、その分施工範囲が広がりますから。
実は、映画『シン・ゴジラ』(2016年)にも弊社の大型ポンプ車が登場しているんです。進撃するゴジラに対し、口から血液凝固剤を流し込む役割です。関東支店に配備された38mのブーム式を使用しています。ぜひ弊社のポンプ車の活躍を見ていただけたらうれしいですね。
早期からの県外進出が、現在の“強さ”につながった
----国家的なプロジェクトにも参画されるに至った、ヤマコンの強みは何でしょうか。
佐藤氏:一つは、人材でしょうか。この業界は比較的小規模な企業が多く、弊社のように組織的に広域にコンクリ―ト圧送事業を手掛けている会社は、わたしたちが知る限りほぼありません。現在は東日本を中心に16拠点に展開していますが、各拠点で採用を行うため人材の層が厚いですし、それぞれリーダーが必要なので人材育成にも力を入れてきました。
----ヤマコンが広域に展開できた理由は何だったのですか。
おそらく山形という土地柄が大きかったのだと思います。かつては技術が今ほど発達していなかったため、冬場は生コンの品質が劣化してしまう課題がありました。さらに雪が多い土地であるため、山形県内では冬場の工事がほとんど発生しなかったんです。ですから、仕事を確保するために、雪の少ない太平洋側などへの展開を早期から視野に入れていました。マイナスをプラスにするという発想で他県へ進出したことが、今につながっていると思います。
----人材育成は、どのようなことに取り組まれているのですか?
佐藤氏:技術の研さんを図るために、「コンクリート圧送施工技能士」をはじめ、「コンクリート圧送基幹技能者」「コンクリート技士」などの関連資格の取得を推奨し、会社をあげてバックアップしています。取得した際には賃金アップなどで応え、モチベーションを維持できるようにしていますね。
また、数年に一度、山形本社で「圧送技能五輪大会」を開催しています。各拠点の精鋭が集まり、コンクリート圧送の技術を競い、共有し合うイベントなのですが、同業他社の方からも「参加したい」との声をいただくようになりました。普段なかなか一緒に仕事をする機会がない各拠点同士の交流の場にもなっています。
自分の仕事が地図に残る。それが一番のやりがい
では、現場で働く社員の方たちは、どんな思いを持って仕事に取り組み、技術を高めているのでしょうか。入社10年目を迎えた、安部 礼司さんに話を伺いました。
----現在はどのようなお仕事を担当されているのですか。
安部氏:山形県内で最大の、38mブームを持ったコンクリートポンプ車を担当しています。基本的に現場には一人で向かい、リモコンでブームを操作しながらホースを操って生コンを流し込みます。高層建築などのブームが届かない大きな現場には二人以上で行って、配管をつないでコンクリート圧送を行います。
建物の基盤となる部分なので表からは見えづらいのですが、建物の強度や耐久性を左右する重要な工程を担うため、「建物を形造っているのは自分たちだ」と自負していますね。設計通りの強度にするため、不安定な生コンの品質を変えずに圧送することが求められます。夏場は特に固まるのが早いため、時間との闘い。経験や知識、技術が問われる、体力も頭も使う仕事です。
----どんなところにやりがいを感じますか?
安部氏:これまで、山形駅前にある県民ホールや高速道路など数多くの建設に携わってきたのですが、自分の仕事が地図に残ることが何よりうれしいですね。近くを通るときには、息子に自分が担当したものだと伝えています。
38mブームという大型の車を任されて、とてもやりがいを感じているのですが、最近は「もっと大きなポンプ車に乗りたい」という欲も生まれてきました。やはり長い方が効率的に動けますし、現場で「届かない」場面に出会うのが悔しいんですよ。大きくなればなるほど操作も難しくなりますから、より自分の技術を高めていきたいですね。
山形県の方に、誇りに思ってもらえる会社になりたい
では、企業として今後はどのようなことを目指していくのでしょうか。最後に佐藤社長に伺いました。
佐藤氏:まずは、さらに“強い会社”となるために、レジリエンスの強化が必要だと考えています。東日本大震災では、海岸から2㎞の距離にあった仙台支店が2階まで水没しました。幸い人的被害はありませんでしたが、車両が流されるなど業務再開までに相当の時間がかかりました。そうした経験から、災害やパンデミック(感染症の世界的大流行)が発生した際でも、事業を継続できるようBCP(事業継続計画)を策定し、内閣官房国土強靱化貢献団体として「レジリエンス認証」を取得しました。
具体的な取り組みとしては、一人のオペレーターがさまざまな機器を使いこなせるよう教育したり、同型のポンプ車を複数台ずつ導入したりと、技能と機器類の平準化を図っています。また、津波で書類がすべて流されてしまった経験から、データ管理のデジタル化を推進しています。クラウドにも各種データを保管し、会社のPCがダメになってもデータを守れるようにしています。
----“強い会社”となるために、実践的な取り組みがスピーディーに進められているのですね。
佐藤氏:今年で創業57年を迎えたのですが、「100年企業を目指す」ということを長期目標として掲げています。まだまだ先は長いのですが、時代の変化に柔軟に対応し、フロントランナーとして新しいことに挑戦し続けたい。「コンクリート圧送」に対しても、新たな技術や機械の導入、普及なども進め、業界全体をさらに発展させていきたいと考えています。
また、こうした地道な取り組みを、地元への貢献にもつなげていきたいですね。実は2018年に経済産業省より「地域未来牽引企業」の選定を受けました。早くから他県へ展開していたこともあり、「地域への貢献」の観点で選定されたことに最初は驚いたのですが、県外への進出により、逆に地元山形に経済成長や人的交流を還元できている点が評価につながったとのことです。
私たちが県外でお客さまに信頼されているのも、「寡黙で真面目」という山形の県民性がルーツにあればこそ。地元への感謝の気持ちを忘れずに、県民の方々に誇りに思ってもらえるような会社でありたいと思っています。
----ありがとうございました。
取材を終えて オリックス山形支店 次長 安西 和義
お話を伺い、「コンクリート圧送」という技術がいかに私たちの身近な建築を形造り、社会を支えているのか深く理解できました。間近で見せていただいた大型のコンクリートポンプ車は大迫力。地元の子どもたちからの人気も高いそうです。大型設備や新たな技術を積極的に取り入れ、チャレンジを続けているヤマコンの姿勢に大きく刺激を受けました。本業で使われているコンクリート圧送ポンプ車のリース取組に加え、近年では、太陽光発電事業や不動産事業など新たな事業を立ち上げるにあたりご相談をいただいております。オリックスグループとして、今後も多方面から事業を支援してまいります。
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