コロナ禍が収束傾向にあるなかで、屋内・屋外を問わず、さまざまなリアルイベントが開催されるようになった。これに伴い、多人数が一堂に会するイベント会場では、スマホのモバイル通信回線が輻輳(1ヵ所に集中)し、インターネットに繋がりにくいという課題が顕在化。キャッシュレス決済(電子決済)やモバイルオーダー、ライブ配信といった、コロナ禍の影響で普及したサービスが提供できず、来場者の利便性を損なう事態を引き起こしている。

そこで注目されているのがイベント開催に合わせて、短期間で会場内にWi-Fiスポットを設置するイベントWi-Fiサービス「一夜城Wi-Fi」だ。今回は、数万人の来場者が訪れる大規模イベントを定期的に開催している、横浜赤レンガ倉庫の主催イベント事業のメンバーとWi-Fiを提供したNTTブロードバンドプラットフォーム(以下、NTTBP)の社員に話をうかがい、イベントWi-Fi導入のメリットを紐解いていく。

  • (左)NTTBP アライアンス営業部 梶浦 光太郎 氏/(右)横浜赤レンガ イベント事業部 佐野 秀斗 氏

大規模イベントで活用する電子サービスが増加し、スマホのモバイル通信回線がパンクする事態に

明治末期から大正初期にかけて建設された国の模範倉庫を、文化・商業施設として活用する横浜赤レンガ倉庫。海に面した歴史的建造物という最高のロケーションでショッピングやグルメが楽しめる、横浜を代表する観光スポットの1つだ。同施設では、季節ごとにさまざまなイベントが催されており、ピーク時には1日に8万人を超える来場者がイベント会場に足を運んでいる。

そんな横浜赤レンガ倉庫だが、近年ではコロナ禍の影響で暮らしの中に浸透したデジタル活用への対応に課題を抱えていた。昨今はイベント会場においても、電子決済やモバイルオーダーといった電子サービスが利用されるように。数万人の来場者が訪れる状況のなか、携帯キャリアのモバイル通信回線がパンクし、インターネットが利用しづらい状況も出てきていたという。

同施設でイベントの企画から環境整備、運用にまで携わる、株式会社横浜赤レンガ イベント事業部 アシスタントマネージャーの佐野 秀斗氏は当時をこう振り返る。

「年間13本の主催イベントを開催しており、クリスマスシーズンは1日に数万人を超える方がこのエリアに来られます。横浜赤レンガ倉庫だけでなく、周辺の公園にも人があふれる密集状態では、どうしてもモバイル通信回線が繋がりにくく、来場者同士の連絡が取れない、イベントに出店しているテナントでキャッシュレス決済やアプリのクーポンが使えない、といった問題が多発していました。」(佐野氏)

「キャッシュレス決済の利用率が上がるなか、安心・安全なイベント運営を実現し、来場者に満足していただくためには、ネットワークインフラの整備が不可欠と判断し、Wi-Fi環境の構築に着手しました。」(佐野氏)

Wi-Fi環境の構築を考える際には、Wi-Fiスポットを敷地内に常設するという方法が一般的となるが、同施設では選択できなかったと佐野氏。

「歴史的建造物であり、横浜市の景観条例への対応もあって建物自体に設備を取り付けることができないため、イベントごとにWi-Fi環境を作り込んでいく必要があった」と説明する。

豊富な実績を誇るNTTBPの「一夜城Wi-Fi」を採用し、キャッシュレス決済の課題を解決

とはいえ、イベントを開催するたびにWi-Fiスポットを構築・運用し、イベント終了後に撤去するのは効率的な手法とはいえず、コストも増大してしまう。そこで同施設が着目したのが、NTTBPが提供しているイベントWi-Fiサービス「一夜城Wi-Fi」だった。

イベントWi-Fiとは、短期間で構築できるレンタルWi-Fiサービスのこと。数あるサービスのなかから、NTTBPの一夜城Wi-Fiを採用した理由について、佐野氏は次のように語る。

「やはりNTTグループが提供するサービスということの安心感が大きかったです。導入実績も豊富で、大規模な屋外イベントでの活用事例もあり、弊社のニーズに合致するサービスと考えてお声がけさせていただきました。弊社の主催イベントは内容によって会場のレイアウトが異なるため、最適なWi-Fiスポットの設置場所も都度変わります」

さまざまなアクセスポイントが用意されている一夜城Wi-Fiだが、2022年末のイベントでは、キャッシュレス決済向けに「中継無線」タイプを選択したそう。大規模イベントのWi-Fi環境を構築してきたNTTBPのノウハウを活かした提案をもとに、会場内にWi-Fiスポットが設置された。

「一夜城Wi-Fiは非常にポータブルで、レイアウトに合わせて柔軟に設置でき、NTTBPの担当者も効果的なWi-Fi通信設備や設置場所などを一緒に考えてくれるなど、親身にサポートしてくれました。こうした面を評価し、2022年11月~12月の「クリスマスマーケット in 横浜赤レンガ倉庫」で試行的に導入して検証を行い、確かな効果が得られたことで本格的な導入を決定しました。」(佐野氏)

  • クリスマスマーケット in 横浜赤レンガ倉庫

佐野氏は、キャッシュレス端末の決済に有線LANの配線が必要だったことがイベントWi-Fi導入のきっかけになったと語り「館内からLANケーブルを引き回すのは物理的に難しく、会場内にWi-Fiスポットを設置し、そこから有線LANを引くという方法を選択。それを実現する手段として一夜城Wi-Fiを導入しました」と話す。

一夜城Wi-Fiサービスの開発・提供に携わり、横浜赤レンガ倉庫への導入支援も担当しているNTTBP アライアンス事業部 パートナー営業推進室 主査の梶浦 光太郎氏は、同サービスの特徴と強みについて次のように語る。

「コロナ禍をきっかけに、イベント会場でも電子決済をはじめ非接触のサービスが使われるようになり、ライブ配信も普及し、イベントごとに臨時の通信回線が必要になってきました。こうしたニーズに対応するために生まれたのが、一夜城Wi-Fiとなります。」

「“簡単に設置して、簡単に撤去できる”というコンセプトで開発しており、単にWi-Fiスポットを提供するのではなく、お客様と密接なコミュニケーションを取り、イベントごとに最適な機器構成と設置場所を提案するというスタンスでサービスを提供しているのが特徴です。もちろん、高速で安定した通信環境を短期間で提供できることも大きな強みと考えています」(梶浦氏)

佐野氏は「NTTBPさんは非常に足繁く会場に来てくださり、最適な設置場所を提案していただきました。現地で実際に見て、アドバイスいただけるのは大変ありがたいと感じました」と密接なサポートを高く評価する。

梶浦氏は「設置場所や配線の取り回しだけでなく、景観も意識する必要があるのが大変でした」と語り、機器を入れたボックスを赤レンガカラーに塗って周囲に溶け込ませたと、当時の工夫を振り返る。

  • 機器を入れたボックスが赤レンガカラーになっている。

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イベント設営初期からNTTBPが参画し、設営事業者と連携した効率的なWi-Fi環境構築を実現

こうしてキャッシュレス決済端末の有線LAN接続用に導入された一夜城Wi-Fiは、想定どおりの効果を発揮する。「導入前は、毎日夕方になると通信が不安定になるなど、キャッシュレス決済が使えなくなる時間帯があったのですが、導入後は使えない時間帯がほぼ“ゼロ”になりました。通信に関するテナントからのクレームもほとんどなくなり、大きな効果を実感しています」と佐野氏は語る。

この成果を踏まえ、横浜赤レンガ倉庫のイベントでは一夜城Wi-Fiが活用されるようになり、2023年4月のイベントからは、来場者が利用するモバイルオーダー向けのフリーWi-Fiスポットも提供開始。現在は店舗(テナント)向け、来場者向けの2つのパッケージが用意され、イベント内容に合わせて活用されている。

また、導入に至るプロセスもイベントを重ねるごとにブラッシュアップ。当初は横浜赤レンガ倉庫とNTTBPがレイアウト図面を見ながら最適な配置を決めるといった流れで進められていたが、現在は横浜赤レンガ倉庫とイベント施工業者間で行われる設計会議にNTTBPも参加。

会場レイアウトの設計段階から入り込むことで、より効率的かつスピーディにWi-Fi環境を構築できるようになっており、コストの削減からイベント施工業者の負荷軽減まで、さまざまな効果が現れているという。

横浜赤レンガ倉庫では、現在も継続して一夜城Wi-Fiを活用し、テナント・来場者双方に優れた体験を与えるイベントを開催し続けている。「2024年1月に開催した『酒処 鍋小屋2024』においても高品質なWi-Fiを提供でき、大勢のお客様にモバイルオーダーを使っていただけました」と佐野氏は手応えを口にし、さらに公式アプリの利用促進にも、多人数接続を想定したWi-Fiスポットが役立っていると話を続ける。

「弊社では横浜赤レンガ倉庫イベント公式アプリの利用促進にも力を入れています。2023年12月のクリスマスマーケット in 横浜赤レンガ倉庫では、アプリ会員限定で、入場料の割引やお得なクーポンの配布などを行いました。その際、会場の入口付近でフリーWi-Fiに接続し、その場で会員登録を行う来場者も数多く見られました。モバイル通信回線では接続が不安定で会員登録ができない方も出てくることを考えると、これもイベントWi-Fiサービスの導入効果と考えています」(佐野氏)

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イベントWi-Fiで新たなイベント体験の創出を目指す、横浜赤レンガ倉庫とNTTBPの取り組みに注目

横浜赤レンガ倉庫では、今後のイベントにおいても一夜城Wi-Fiの活用を続けるとともに、高速で安定したWi-Fiスポットのより効果的な活用を模索していくという。

「先ほど話した公式アプリの利用促進として、イベントにおけるアプリ連携の強化、たとえば会員だけの来場特典など、リピーターを作るための施策も打ち出していければと考えており、それを含めてNTTBPさんにはさまざまな提案をいただいています」(佐野氏)

「これまでのプロジェクトを通じて我々のイベントに対しての“NTTBPさんの本気度 ”は伝わってきているので、今後も共創して新たな体験を提供できるイベントを作り上げていきたいと考えています」と、佐野氏は今後の展望を語る。

これを受けて梶浦氏も「これまで1年半近く支援させていただき、いろいろと見えてきたところがあります。インフラ環境のアップデートも含めて、横浜赤レンガ倉庫のビジネス拡大に繋がる提案をしてきたいと考えています」と力を込める。

横浜赤レンガ倉庫の今後のイベントとしては、下記の開催を予定している。

■3月29日~4月21日「フラワーガーデン2024」

■4月26日~5月6日に「ヨコハマフリューリングスフェスト2024」

もちろん、これらのイベントでも一夜城Wi-Fiが活用される予定だ。

「フラワーガーデンは、横浜赤レンガ倉庫が文化・商業施設としてオープンした4月12日のアニバーサリーとして、普段は石畳の広場に花畑を作るイベントで、春と海の雰囲気を感じながらお花を楽しんでいただけます。一方のヨコハマフリューリングスフェストは、ドイツの春祭りをイメージしたイベントで、ドイツビールやフード、ドイツ楽団の演奏などを楽しむことができます。GWの開催ということで、お子様向けのアトラクションも用意しており、夜にはシーサイドシネマという野外で映画を上映するイベントも開催します。安定したWi-Fi環境も用意しておりますので、ぜひ足を運んでいただければと思います」(佐野氏)

多種多様なイベントに合わせて、最適なWi-Fi環境をすばやく構築する横浜赤レンガ倉庫+NTTBPの取り組みは、日本全国にあるイベント会社・イベント会場にとってのモデルケースとなる可能性を秘めている。両社の協業により生み出される“新しいイベント体験”には、今後も注目していきたい。

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