楽器としての高いクオリティとハイセンスなデザインで人気を博しているカシオの電子ピアノ「Privia」。スタイリッシュで持ち運びもできる小型軽量の電子ピアノであるPriviaの登場は、発売当時、マーケットに大きなインパクトを与えました。発売から20周年の節目を迎えたPriviaについて、企画段階から携わってきたカシオ計算機株式会社 執行役員 サウンドBU 前田卓紀事業部長、サウンドBU 安藤仁エキスパートにインタビュー。歴史を振り返ると共に、Privia誕生の背景や最上位モデル「PX-S7000」などについて、お話を伺いました。
発売から20年―Priviaと共に歩んできた道
――おふたりはPriviaの誕生に深く関わってきたそうですが、開発当初について教えてください。
前田氏 初代Priviaの開発は2001年頃にスタートしました。当時、商品企画や開発側の窓口は安藤が担当、事業企画や販売戦略、プロモーション戦略の窓口を私が担当し、二人三脚でやってきました。
安藤氏 Priviaは、事業的な必要性がきっかけで生まれたんです。いろいろなメーカーが電子ピアノをつくっており、それを追うようにカシオも電子ピアノに参入し、1991年には「CELVIANO(セルヴィアーノ)」という本格的な電子ピアノのブランドを発表しました。しかし、2000年代初頭にはマーケットが成熟しており、後発だった我々は苦戦していたというのが正直なところです。
前田氏 当時、電子ピアノのニーズは大半がアコースティックピアノの代替需要でした。そのため、CELVIANOもアコースティックピアノを模範とした商品企画でした。しかし、電子ピアノの販売流通やブランドイメージは、すでに他メーカーに独占されている状況で、カシオが入り込める余地はなく、苦戦していたんです。
ほかにも、ピアノ自体のマーケットの変遷も苦戦した理由のひとつです。90年代初頭に日本を中心に電子ピアノのマーケットができ始めてから需要が加速したものの、主力ユーザーである子供層は先進国の少子化や習いごとの多様化が顕著となり、マーケットは減衰していきました。
「重厚長大」から「軽薄短小」―Priviaが電子ピアノのイメージを刷新
――そうした背景でPriviaの企画が始まったのですね。他メーカーとの差別化やカシオならではの強みはどのように考えられていったのでしょうか?
安藤氏 ピアノを買おうとするときに、まずユーザーが考えることのひとつが「置き場所」です。ピアノは大きく重いので、購入するとずっと同じ場所に置くことになります。開発当時は、アコースティックピアノのように重厚長大なものが良しとされていたので、電子ピアノと言えど「小さく、軽く」という部分にフォーカスしたものは、存在していませんでした。
実際、住居スベースには限りがありますし、ピアノの大きさ重さに不都合を感じている方もいるはずです。そこから「例えば、リビングから子供部屋などへ容易に移動できるような“置き場所を固定せずに機動性のあるもの”が求められていくのではないか」と考え、新しい電子ピアノの姿をつくりたいと思いました。
――「ピアノはこうであるべき」というイメージをいったん解いたのですね。
安藤氏 電子ピアノはアコースティックピアノに近づけることが最優先、最重要です。しかし、その技術を使っていたのでは軽くて小さいものにはなりません。従来よりも重さや大きさ、さらには価格も半分程度にするという今までの常識では考えられない目標を立て、電子ピアノを構成するすべての部品、デバイスを新規に開発しました。そして、幾度とない試作と実験を繰り返し、苦労に苦労を重ね、なんとか2003年にPriviaの発売にこぎつけたんです。
前田氏 従来の作り方や設計の仕方、部品の使い方など、これらをすべてリセットして考え直すことができる柔軟性と企画力は、カシオならではかもしれません。
カシオが培ってきたものづくりや音響技術をPriviaに集結させる
――コンパクトさと音質の両立は、どのように実現したのでしょうか。
前田氏 カシオは電子楽器1号機の「Casiotone 201」の開発当初より、リアルで良い音を再生するためのデジタル技術や設計技術、ものづくりの考え方があり開発してきた資産があります。電子キーボードで培ってきたコンパクトな筐体づくりのノウハウと音響技術を組み合わせることで、コンパクトながらも豊かな音をPriviaで再現できる自負はありました。
――カシオの強みをフルに発揮し、企画からわずか2年足らずで初代Priviaが誕生しました。多くの人に製品を届けるために、どのような販売戦略を練ったのでしょうか。
前田氏 Priviaのコンパクトさは、新規ユーザーの開拓だけでなく、売り方や見せ方、展示の仕方を変える契機になると開発時点から思っていました。そのため、開発と同時進行で販売戦略やプロモーション戦略を練っていました。
古くからピアノの販路は楽器専門流通がメインのため、初めてアコースティックピアノや電子ピアノを買おうとすると、ほとんどの人が教室や楽器店に相談すると思います。そうすると、どうしても先行楽器専業メーカーの製品が推奨されやすい環境となるわけです。そこで我々が考えたのが、スーパーマーケットやホームセンター、家電量販店をはじめ、一般流通に持ち込むこと。コンパクトで軽いので、売り場スペースが狭いところでも2台、3台とディスプレイでき、顧客接点も増やせました。そこで、ショッピングのついでに「手頃な価格のピアノがあるから、子どもに習わせてみようか」といった、目的購入から衝動購入へといざない、新たな需要を開拓できると考え販売戦略を策定しました。――ユーザー層も広がったのでしょうか。
前田氏 顕著だったのは20代女性ユーザーの伸びです。子どもの頃にピアノを習っていたけれど、しばらく離れていた人が「Priviaの大きさなら部屋に置ける」ということで、購入されていたんです。弾きたいときに、自分が好きな音楽を気軽に奏でられるという、Priviaの魅力が伝わったのだと思います。Priviaという名の由来である「Private(プライベート)」と「Piano(ピアノ)」にふさわしく、練習だけでなく、趣味として楽しく楽器や音楽に向き合ってもらえるような存在として親しまれているようで嬉しいです。
カシオイズムを発揮し、新たな価値を創造して人々に喜んでもらえるものを
――初代Priviaからこれまでに多くのモデルを発表してきましたが、2023年に誕生した「PX-S7000」は、これまでにないインパクトをもたらしました。特にこだわった点を教えてください。
前田氏 音響技術や鍵盤タッチへのこだわりはもちろん、よりライフスタイルに寄り添えるものにしたいと考え、試行錯誤しました。特に最後まで、こだわったのが“音色/音響づくり”と“外装デザイン”です。電子ピアノでも配置は壁付けにすることがほとんどだと思うのですが、リビングの真ん中に置いたり、窓の外の風景を眺めながら弾いたり、あの曲のその音を楽しんだり、これまでにない使い方ができるように工夫しました。カラーはベーシックなブラックとホワイトだけでなく、インテリアに調和するようにと「ハーモニアスマスタード」もラインナップに追加。360度どこから見ても美しいモダンなデザインと、高い演奏性と表現力を実現するテクノロジーを両立した電子ピアノとして、国際的な権威のあるドイツの「iFデザインアワード2023」で最高賞の「iFゴールドアワード」 を受賞しました。
そんなPX-S7000の世界観をトータルでユーザーに届けるべく、電子ピアノ椅子にもこだわりました。これまでのピアノ椅子のイメージを払拭するものを目指し、老舗インテリア会社である株式会社関家具のブランド「CRASH GATE(クラッシュゲート)」とコラボ。その結果、デザインと機能を両立させた「CC-7」を生み出すことができました。――ピアノをより身近に感じられるようにしたPrivia。そして、もっと身近に楽しめるようライフスタイルに寄り添った結果がPX-S7000ということなんですね。
安藤氏 店先などに自由に触れることができる鍵盤楽器があったら、お子様が何気なく触ってみたりしますよね。家にアコースティックピアノがあったとしても、そのように気軽に弾いたりしないと思います。「さあ、弾こう」となると、楽譜を用意して、ピアノ椅子の高さを変えて、蓋をあけて、ピアノに向かってといったように、弾くまでにいくつかのハードルがあるのかもしれません。もっと楽器を身近に感じて、音楽を楽しめる存在としてピアノに触れてほしいと思っています。これはPriviaに限らず、カシオのサウンド事業の根底にある想いです。だからこそ、これからもライフスタイルに寄り沿える製品を創造していきたいです。
――Priviaはいわば背水の陣からのスタートでしたが、絶対にやり遂げるという意志があったと思います。その原動力はどのようなものだったのでしょうか?
安藤氏 私は入社時からシンセサイザーを担当した後、CELVIANOの1号機以来、電子ピアノの開発に関わってきたので、個人的にピアノへの思い入れが強くあります。そして、今までにないピアノをお客さんに届けたいという想いもありました。これはカシオのDNAかもしれませんね。
企画段階では、「筐体が小さければ音は良くないだろうし、鍵盤のタッチも劣るはず」という意見もあり、正直乗り気な人はいなかったんです。それでも、前田は「やろう」と言ってくれたので、意を決して開発に取り掛かりました。マーケットが成熟していた当時、Priviaのコンセプトは、カシオならではの存在感を見せるという意味でも挑戦してよかったと感じています。前田氏 もともと音楽や鍵盤楽器が好きでカシオに入社しましたが、カシオのCZシリーズというシンセサイザーに感銘を受けて、まだ世の中にないユニークさとプレイヤーが喜んでくれるクオリティの高い電子鍵盤楽器をカシオで作ると決めていたんです。自分はエンジニアではありませんが、安藤というパートナーと想いを分かち合いながらPriviaに向き合ってきました。
Priviaが誕生したとき、実際に見て、弾いてくれさえすれば絶対に喜んでもらえるはずだと思いました。ですので、この素晴らしいPriviaという楽器を知ってもらうために、「ピアノの歴史は、カシオが変える。」というキャッチコピーで、当時は業界でも少なかった新聞全面のカラー広告とテレビCMを使用して、プロモーションを推進しコンシューマーへも浸透を図り新顧客の開拓に努めました。その後、発売から3年ほどで、電子ピアノマーケットにおいてナンバーワンシェアを獲得できました。これは大きな自信になりましたね。これからも音で日常を豊かに彩っていきたい
――Priviaやカシオのサウンド事業について、今後の展望を教えてください。
前田氏 Priviaはベーシックなモデルからステージピアノまで、多様なラインナップを取り揃えてきましたが、今後もニーズの多様化に合わせてバラエティにあふれた製品をつくり続けていきたいと思っています。「ピアノだから」と肩ひじを張らずに、好きな音楽を好きにPriviaで弾いて楽しんでもらいたいと願っています。ユーザーの皆さんの電子ピアノへのニーズも、楽器や音楽との接し方も、これからますます変化していくことでしょう。これに対し、今後もカシオは楽器や音楽の新たな楽しみ方を創造し、ハードウェアと共にお届けしたいと思っています。
カシオのサウンド事業のステイトメント「Sound for Soulful Living」にならい、新しい音体験を作り、生活に「喜び」をもたらしていきます。カシオの技術力や音の資産、柔軟でユニークな発想力を活かしながら、音で人々の生活を豊かにしていけるように頑張ります。20周年を迎え、さらなる進化が期待されるカシオのPrivia。多くの人を魅了するPriviaのこれからに期待が高まります。
[PR]提供:カシオ計算機株式会社