カシオ計算機は「イメージングデータを用いた皮膚がん診断ソリューション開発」を、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(以下、AMED:エーメド)の事業「医療機器等における先進的研究開発・開発体制強靭化事業(先進的医療機器・システム等開発プロジェクト)」のデジタル化 / データ利用による診断・治療の高度化分野において事業採択を受け、2019年より継続した開発支援(研究補助)を受けています。

この医工連携で取り組んだ研究成果の発表の場として、2023年11月13日~16日にドイツのデュッセルドルフにて開催された世界最大級の医療機器展「MEDICA 2023(以下、MEDICA:メディカ)」のAMEDが出展するブース内にカシオを含む5社が共同出展しました。

今回はAMEDの桐部仁志氏、大庭宏介氏、小野瀬実里氏、カシオの石原宗幸氏、斉藤篤氏の5名に、MEDICAに出展した背景や意義、展示に対する来場者の反応、当日の会場の様子などを伺っていきます。

  • 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)
    (左から) 医療機器・ヘルスケア事業部 医療機器研究開発課 主査 森内将貴氏、同課 課長代理 大庭宏介氏、医療機器・ヘルスケア事業部 部長 桐部仁志氏、医療機器研究開発課 係員 小野瀬実里氏

  • カシオ計算機 メディカル企画開発部 企画開発室 リーダーの石原宗幸氏(左)、斉藤篤氏(右)

日本の健康・医療分野を推進するAMEDが、海外の展示会に参加した背景

――AMEDの活動内容と役割を教えてください。

桐部氏:「AMEDは日本の健康・医療戦略及び医療分野研究開発推進計画における、医療分野の研究開発で一体的推進の中核を担う資金配分機関です。国が定めた戦略に基づいて、医療分野の実用化に向けた研究開発を基礎段階から一貫して推進しています。

私が所属する医療機器・ヘルスケア事業部は、『医療機器・ヘルスケアプロジェクト』における事業推進が担当です。本プロジェクトはAI・IoTや計測技術、ロボティクス技術等を融合的に活用しており、幅広い事業内容を持っています。

診断・治療の高度化のための医療機器・システム、医療現場のニーズが大きい医療機器、予防と高齢者のQOL向上に資する医療機器やヘルスケアに関する研究開発等を行っています。

私の役割は各事業推進の指揮を執るとともに、今回の展示会への出展や様々なイベント開催等を積極的に推進することで、採択された研究開発課題の実用化に取り組むことです。

また、同じ部署の大庭は部内外の連絡調整や広報、小野瀬は医療機器開発の拠点整備事業の副担当を業務にしています」

――今回、MEDICAに参加した経緯や出展内容について教えてください。

桐部氏:「気軽に体感できない医薬品と異なり、医療機器やヘルスケアの分野は実物に触れて体感していただけます。このため、展示会は製品等の有効なPRの機会と考えて出展しました。

AMEDが採択している研究開発課題を早期実用化に向けて進めていくには、展示会等への出展はとても有効です。展示会を通じて、研究開発の段階から対外的にPRでき、海外でのニーズや研究開発の動向を把握して研究開発にも活かせるからです」

  • MEDICAへ出展したカシオブースの様子

大庭氏:「近年はコロナ禍の影響から国内外の展示会やイベントへの参加を見送っていました。今年は世界的に経済活動が活発化し、展示会やイベントへの参加者が新型コロナウイルス感染拡大前の人数に戻っています。この点を踏まえ、対外的なAMEDのPRやプレゼンス向上を図るために出展しました」

――AMEDの出展ブースのコンセプトを教えてください。また、その中で出展時にカシオ計算機に期待したことはなんですか。

小野瀬氏:「カシオを始めとする事業者の製品や、AMEDが支援し開発中の製品等のグローバル展開を支援するため、AMEDブースへの効果的な来場者誘引をコンセプトに、デザイン等を募集しました。

具体的には、AMEDのブースであることを遠方からでも視認しやすくし、明るく開放感のある展示ブースにしました。また、来場者がブースに入りやすく、製品等が視認しやすい配置を心掛けました」

大庭氏:「我々としては、ブースに出展した事業者には、出来るだけ多くの来場者に製品説明の機会を掴んでいただき、ビジネスにつなげて欲しいと考えました。

今回の出展者の中ではカシオの知名度が高く、AMEDブースの横を通りかかった来場者がブースに立ち寄るきっかけになります。世界中でビジネスを行っているカシオの出展は他の出展者への良い刺激となり、全出展者のビジネスのグローバル化に寄与するものと考えました」

  • カシオブースでは多数の来場者が足を止めていた

桐部氏:「医療機器のカテゴリーごとの世界シェアを見たとき、市場規模の大きないくつかの治療機器は米国系企業が高いシェアを占めています。国内市場に目を向けても主たる治療機器の供給は米国系企業が中心を担っている状況です。

このため、我が国で必要とされる医療機器が世界中の企業によって平時から安定的に供給されることに加え、治療機器も含めたより幅広いカテゴリーの医療機器が日本企業によって供給可能となることは重要な課題になっています。

また、少子高齢化が著しく進む中、国民の健康寿命の延伸のためには、医療の質の更なる向上が望まれます。

カシオ計算機が今回の出展をきっかけとして、AMEDが支援中の機器をいち早く製品化し、国内外に供給することで、医療の質の向上に貢献するものと期待しています」

医工連携で開発の進む、カシオのAI診断サポート装置

カシオが「MEDICA 2023」に出展したのは、ダーモスコピー診断画像でAI学習した、皮膚の良悪性疾患の早期発見に役立つ「AI診断サポート装置」です。

信州大学や東北大学病院臨床研究推進センターと医工連携して開発中です。国内だけでなく海外でも展開する計画で、海外は米国と、EU、UKの3地域から始める見通しです。

  • カメラで撮影した画像を専用のサービスにアップロードすることでAI診断のサポートを利用できる

今回、MEDICAで参考出展した製品のAIの解析結果は、診断そのものではなく、より専門機関への紹介を推奨するかしないかの診断支援をデモンストレーションしました。これは、医師が自身のダーモスコピー診断と照らし合わせて総合的に判断し、診療時の見逃しを減らすことに重点を置いているためです。

皮膚悪性疾患の治療が専門ではない医師による専門機関への紹介が増えると、専門機関での負担も増加します。AI診断サポート装置の活用により、医師の正確な診断をサポートし、不要な紹介の減少、医療費削減に繋がると考えます。

注目を集めやすいハードウェアから、AIへの関心を引き出す

――カシオがドイツで開催された「MEDICA 2023」に、AMEDと一緒に出展した経緯を教えてください。

石原氏:「当社は2019年にAMEDから事業採択を受けて開発しており、今年度が最終年度に当たります(2024年3月末で終了)。AIの開発も基本的に完了しています。今回、AMEDが共同出展する企業を募集していたので、海外市場におけるAI技術サービスの顧客ニーズの収集や、他社情報の収集などの目的で応募して採択されました」

――どのような来場者が多かったですか?

石原氏:「MEDICAは医師よりも医療業界の代理店(エージェント)が多く来場する展示会なので、当社のブースに足を運んでくれたのも、多くは代理店でした。

当社のメディカルの事業はまだ始まったばかりですが、海外市場ではカシオブランドは認知されていますので、我々に対する期待は高く感じました」

――期待の声はどのようなものが多かったのでしょうか。

石原氏:「ブースではAI診断サポート装置だけでなく、販売中の皮膚観察 / 撮影用デジタルカメラ(以下、カメラ)や皮膚観察用スコープ(以下、スコープ)も参考展示していました。すでにこれらの製品を知っている人もいましたし、代理店はハードウェアに目を引かれる傾向があるので、そちらでの良い評判が先に上がってきた印象です。

AIを医療分野で活用することで、より正確な診断が可能になることを来場者の方々は期待されていました」

――ブースやミーティングスペースで交流した来場者の中で、気になったり、印象に残ったりしたことはありましたか?

斉藤氏:「AI診断サポート装置は、海外では今回が初めての出展(試作機による参考出展)です。AI診断サポート装置がもうリリースされているのか、まだならいつになるのかという確認は多かったです。印象的だったのは、実際のリリースのときはどのような形になるのか、医療機器のクラス分類といった具体的なことまで気にしている人がいたことです」

――MEDICAへの出展はAI診断サポート装置の露出を図ることのほかに、顧客ニーズや他社動向に関する情報収集も目的としているとのことでしたが、そちらはどんな手応えでしたか?

斉藤氏:「ハードウェア面では、当社のカメラやスコープ等と同じジャンルに当たる製品が、多くはないものの幾つか見られました。AI診断サポート装置も韓国や台湾などアジア圏の企業が熱心に出展していました」

――製品だけでなく、見せ方などで印象的だったところはありますか?

斉藤氏:「韓国の企業で、顔面の3D撮影を行って、骨格のバランスなどを測定できる展示があって、見せ方がうまいなという印象を受けました。ブースに人の顔が出ていると目を引きます。

当社ブースでのAI診断サポート装置は、1台のノートPCをモニターにつないで、あらかじめ撮影したカメラから、画像データをPCに転送してデモンストレーションしました」

石原氏:「来場者の国籍は欧米だけでなく、アジア、アフリカ、中東、北欧、ラテンアメリカなど幅広く、MEDICAの知名度の高さと集客力の強さを実感すると共に、国によってニーズの違いが大きいことに気が付かされました。製品の使用目的とニーズがマッチした製品開発の必要性を改めて感じました」

「待ち遠しかった」と言われる製品に仕上げたい

――最後に今後の抱負について教えてください。

斉藤氏:「今回の出展で、ブース来場者や他の出展企業もそうですが、AIの活用への関心が高いと再認識しました。次期バージョンのAI開発もすでに着手しており、それをどういう形で世に出していくか、ニーズを精査して進めたいです」

石原氏:「今回はAIの出展が中心でしたが、AIと併用する当社のカメラと、参考出展していたスコープ の引き合いが思ったより多くありました。代理店からの問い合わせもAIより多かったのです。

海外では一眼レフカメラやスマートフォンにアタッチメントを装着して撮影するものが多く、当社のようなカメラはあまり見かけません。当社のカメラは起動した後、診療に関わる順番で、まずは引いた広視野の臨床画像を撮って、次にモードを切り替えてダーモスコピー撮影をすれば良く、シンプルな操作で高画質な画像が得られます。

代理店の関係者から見ると、当社のカメラは分かりやすくて簡単に使えると感じ、未発売のソフトウェアよりも、商材になりうるかどうかの判断がしやすかったのでしょう。

今後はAI診断サポート装置をリリースするまでに、引き続き情報収集しMEDICAで得られたニーズも踏まえて、需要にマッチした製品に仕上げていきます」

――ありがとうございます。

世界の医療への貢献が期待されるカシオのAI診断サポート装置

皮膚がんの罹患率は日本よりも欧米のほうが高く、それなのに国によっては皮膚科の専門医が減少傾向にあると言われています。カシオが開発を進める皮膚の良悪性疾患の「AI診断サポート装置」は、当社のカメラとセットで使えることで、一人ひとりの医師の負担を軽減できるものとして期待されています。

今回のAMEDと共同でのMEDICA出展により、日本の医工連携による「AIを活用した診断サービス」が先進的な取り組みであり、海外からも注目される市場であることが改めて浮き彫りになったと言えるでしょう。

医療技術の発達と患者の治癒に貢献するカシオの取り組みは、日本を代表する技術の1つとして今後ますます重要性を増すに違いありません。

[PR]提供:カシオ計算機