飲むだけで頭が冴えわたり、仕事や勉強が10倍はかどる魔法の薬……と聞くと、誰もが欲しくなるはずですよね?
そんなイメージで世界中に広まったのが『スマートドラッグ』と呼ばれる概念です。
しかし、魅力だけがひとり歩きしており、具体的な種類やリスクについての情報はあまり知られていないのが実情。
知らずに危険な成分を摂取してしまうと、中毒や最悪の場合死に至る危険な副作用があなたの身に起こることもありうるのです。
今回はそんな『スマートドラッグ』の危険性や、安全に摂取できる成分について解説していきます。
『スマートドラッグ』とは? 3種の分類と危険性
『スマートドラッグ』とは、認知機能や記憶力など、脳機能の向上を目的として摂取される成分の総称です。海外では「向知性薬」を意味する『ヌートロピック』と呼ばれることもあります。
基本的には、集中や覚醒を司るドーパミンやノルアドレナリン、アセチルコリンといった神経伝達物質を増やす作用や、脳の血流を増加させる作用をもつ成分が該当します。
ここでポイントとなるのが『スマートドラッグ』や『ヌートロピック』は定義が曖昧な言葉であるということ。受験勉強やビジネスでの競争激化が起き始めた1970年代から使われはじめた言葉なので、歴史が浅く明確な定義がまだないのです。
実際のところ、危険な成分が入ったサプリから食事でも摂取している成分が入ったサプリまで、脳機能を向上させるものは全て『スマートドラッグ』と呼ばれることがあります。
では、具体的にどのような分類ができるのでしょうか? 法律やリスクの観点からは、大きく3種類にわけることができます。
① 無許可・無処方での販売が禁止されている薬物
『スマートドラッグ』の中で最も危険なのが、「無許可・無処方での販売が禁止されている成分」。
よりダイレクトにいうと、麻薬及び向精神薬取締法や覚醒剤取締法で規制されている薬剤や、厚生労働省が無許可での個人輸入を禁止している薬剤が該当します。
具体的には、中枢神経刺激剤としてADHDやナルコレプシーの治療に使われる『メチルフェニデート(商品名:コンサータ、リタリン)』や、覚醒剤として有名な『アンフェタミン(商品名:アデロール)』、『スマートドラッグ』としての乱用が社会問題となった『ピラセタム』や『アトモキセチン(商品名:ストラテラ)』などが規制対象に指定されています。
これらの薬は脳内でドーパミンやノルアドレナリンなどの覚醒物質を強制的に増加させるため、集中力の向上や疲労感の払拭、強力な覚醒状態などを引き起こす性質があるのです。法律の規制通り、麻薬や覚醒剤に近い性質があるわけですね。
元々は個人輸入により入手可能で、治療の用途とは異なる『スマートドラッグ』として乱用されていました。しかし、強い依存性や健常な方の乱用が社会問題になったことで法律が改正され、現在では厳格に流通管理が行われています※1※2。
通常は処方された人しか入手できないため、もし流通していたら確実に違法な物か偽造品のどちらかです。
また、万が一、個人輸入で正規品が手に入るとしても、無許可で購入すると麻薬及び向精神薬取締法違反で一年以下の懲役もしくは20万円以下の罰金の罪に当たるので注意しましょう※3。
『スマートドラッグ』として安易に使用するにはあまりにも代償が大きすぎる、危険な薬品だといえます。
※1参照:第4回大麻等の薬物対策のあり方検討会
※2参照:厚生労働省通知(平成30年11月26日付け薬生監麻発1126第3号)
※3参照:麻薬及び向精神薬取締法 第七十条十五号
② 個人輸入&購入が可能な医薬品
2つ目が、個人輸入により入手が可能な海外製の医薬品。
法的には強い規制がないものの、覚醒作用のある薬剤が『スマートドラッグ』として使用されているのが実情です。また、海外ではサプリメントとして販売されている製品が日本では医薬品に該当するケースもあります。
薬剤としては、いくつかの向精神薬が乱用されています。そして海外でサプリメントとして販売されている医薬品成分としては、DMAEや5-HTPなどが薬剤の代用としてメジャー。
向精神薬は規制がなくても作用が禁止薬物と似ている物もあるため、当然依存性や中毒症状などの副作用がつきまといます。
また、いくら海外でサプリメントとして扱われていても安全とは限りません。医薬品に指定されるのは副作用のリスクが高いからであり、実際の健康被害が出ているからなのです。
個人輸入で入手できる薬品は手軽に使用できたり、医薬品だと気づかずに使えてしまったりするため、リスクは法律で規制されている成分よりもはるかに高いといえるでしょう。
本来、薬品の個人輸入は海外で受けた治療を継続するため、もしくは日本で承認されていない治療を迅速に行うために許可されている救済措置です。
しかし、実際には健常な方が本来の用途とは異なる目的で使用する薬剤を手に入れているのが実情になっています……。
③ 認知機能向上に有用なサプリメント
最後は、日本国内で食品として取り扱われるサプリメントです。
『スマートドラッグ』として使用されている成分の中では最も安全性が高いため、唯一使用をおすすめできる種別になります。
栄養素として自然な形ではたらくため、効果は医薬品よりマイルドですが、臨床試験で認知機能や学習能力、記憶力の向上が確認されている成分は数多くあるのです。
薬物のような依存性や副作用がほとんどなく、継続して摂取できるため日々のパフォーマンス向上に役立てるにはピッタリ。
もし『スマートドラッグ』を試してみたいなら、日本国産のサプリメントを検討するとよいでしょう。
危険な『スマートドラッグ』(薬剤)の副作用とは
医薬品に該当する『スマートドラッグ』は高い危険性をはらんでいることがよくわかりましたね。実際に起こりうる副作用についても、詳しく見ていきましょう。
ちなみに「どうせ起こるのは一部の人でしょ」と安心しているあなたは要注意。『スマートドラッグ』は脳の中枢神経に影響を与える薬剤が多いため、そもそも副作用が起きやすいのです。
実際、危険な医薬品に該当する『スマートドラッグ』を使用したことがある人は、約半数が何かしらの副作用を経験しているといったデータも存在します※4。
さらに怖いのが、そもそも健常な人が摂取することを想定して作られていないため、『スマートドラッグ』として摂取した時の副作用に関するデータが非常に少ないこと。研究でも、健常な人が使用すると想定より重篤な副作用が起こる可能性が示唆されています※5。
では、具体的にどのような副作用が起こるのでしょうか。
※4参照:Poll results: look who's doping
※5参照:Modafinil and methylphenidate for neuroenhancement in healthy individuals: A systematic review
① 思考力が低下する
生産性を高めるために摂取するはずの『スマートドラッグ』ですが、実はかえってパフォーマンスが悪化するリスクもあることを覚えておきましょう。
とある研究では『スマートドラッグ』として利用されるメチルフェニデート、モダフィニル、デキストロアンフェタミンの3種をそれぞれのグループに摂取させ、ナップザック問題と呼ばれる複雑な計算課題に取り組んでもらいました。
すると、薬を飲んだグループは試行錯誤の回数が増えたものの、正答に対して体系的にアプローチする力が低下し、思考の質が低くなることがわかったのです※6。
単純作業ならまだしも、複雑かつ論理的な思考が必要な学習や仕事で薬剤を使うのはあまり得策ではありませんね。
※6参照:Not so smart? “Smart” drugs increase the level but decrease the quality of cognitive effort
② 不眠
脳の中枢神経に強制的な作用を引き起こす『スマートドラッグ』は、不眠の副作用が発現することもあります。
特に注意すべきなのは、覚醒作用のあるセロトニンやノルアドレナリンを増加させる『スマートドラッグ』です。
実際、『スマートドラッグ』として知られる多くの向精神薬には不眠の副作用があります。
パフォーマンスを高めたいはずなのに不眠でどんどん体力が削られていく日々……。想像しただけで恐ろしいです。
③ 幻覚や幻聴
安易に『スマートドラッグ』を利用すると幻覚や幻聴に悩まされるリスクも……。発症のメカニズムが不明であることも恐ろしいポイントです。
データ上では『スマートドラッグ』として乱用されるブプロピオンの臨床試験で、幻覚の発現率が2.8%、妄想の発現率が1.4%との報告があります※7。
※7参照:Bupropion-induced psychosis: folklore or a fact? A systematic review of the literature
④ 自殺念慮
自殺念慮とは、自ら命を絶ちたいという考えが精神を支配する症状を指します。
抗うつ剤にはもともと自殺念慮の副作用が知られていますが、『スマートドラッグ』として使用される薬剤の中には、抗うつ薬も含まれているので注意が必要です。
データではセロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を服用した人は自殺念慮のリスクがおよそ1.6倍になるとのデータも報告されています※8。
※8参照:自殺予防の観点から見たうつ病の治療
⑤ 突然死
自殺念慮が起きないとしても、最悪の場合は意思に反して突然命を失うリスクすらあるのです。
覚醒作用のある成分は心拍数や血圧を上昇させて身体に負担をかけるので、一歩間違えれば最悪の事態になることはイメージしやすいはず。
米国のデータでも、7歳から19歳の突然死564件を分析したところ、原因不明の突然死のうち10件は『スマートドラッグ』として使用される成分が原因であると示唆されました※9。
※9参照:Sudden Death and Use of Stimulant Medications in Youths
【目的別】安全に使用できる『スマートドラッグ』3選
ここまで医薬品に該当する『スマートドラッグ』の危険性をお伝えしてきました。
通常の用途とは異なる目的で医薬品を使用すると大きなリスクを負うことになるのがよくわかりましたね。
一方で「スマートドラッグで少しでもパフォーマンスを高めたい」「安全に使えるスマートドラッグはないのか?」と考える方も多いはず。
ここからは日本で食品として扱われている、安全に使用できる『スマートドラッグ』を目的別にご紹介します。
① 記憶力を高めたいならバコパモニエラ
バコパモニエラは古くから「知恵の草」として知られる水草の一種。
ヨーロッパやアジア圏では昔から脳機能改善のために民間療法として摂取されてきた実績があります。
そんなバコパモニエラは、現代になって強い抗酸化作用や学習能力を司るアセチルコリンを増やす作用があるとわかり『スマートドラッグ』としてますます期待されているのです。
実際の研究でも、12週間にわたってバコパモニエラ抽出物を1日300mg摂取したところ、視覚情報処理速度や学習効率、記憶の統合力が大幅に改善したという結果がでています※10。
特に注目されているのが「バコサイド」と呼ばれる特殊な有効成分。
サプリメントを検討する時は、有効成分である「バコサイド」の量が十分含まれていることが保証された素材を選ぶとよいでしょう。たとえば「バコサイド」が40%以上含まれていることが保証された『バコピン』と呼ばれる高品質な素材も市場に出回っています。
※10参照:Chronic Effects of Brahmi (Bacopa monnieri) on Human Memory
② 集中力を高めたいならムクナ
ムクナは、脳内でドーパミンの原料になる「L-ドーパ」が豊富に含まれている希少な植物です。
適量摂取することで、薬とは異なり自然な形でドーパミンを増やすことができるため、集中力や覚醒感を高めたい方に重宝される素材といえます。
研究では「L-ドーパ」を200mg摂取させて処理能力を計測しました。すると摂取した直後に覚醒レベルが高まり、認知機能を大幅に引き上げることが確認されたのです※11。
ムクナを『スマートドラッグ』として摂取する場合、有効成分である「L-ドーパ」が豊富に含まれている製品を選ぶようにしましょう。
たとえば『バイオドーパ』と呼ばれるムクナ抽出物は、「L-ドーパ」が必ず30%以上保有されていることが決まっている素材です。
※11参照:Levodopa enhances explicit new-word learning in healthy adults: a preliminary study
③ 疲れ知らずでパフォーマンスを発揮したいならS-アリルシステイン
S-アリルシステインは、ニンニクに極々わずかに含まれている有効成分です。
非常に強い抗酸化作用を有しており、古くからニンニクが健康によいとされるのは、S-アリルシステインのパワーであるともいわれているほど。
脳内に入って作用することもわかっており、精神的な疲労と肉体的な疲労、どちらにも効果があることが研究でも明らかになったのです。
実際、S-アリルシステインを1日2mg摂取しながら4週間パソコンによるタスクをこなしてもらった研究では、精神的負荷における疲労感や集中力の悪化が大幅に軽減されたことがわかっています※12。
S-アリルシステインは長期間の学習や業務を行う際に頼れる『スマートドラッグ』になってくれること間違いなしです。
『スマートドラッグ』を使うなら医薬品ではなくサプリメントを選ぼう
ここまで『スマートドラッグ』の危険性や、安全に摂取できる『スマートドラッグ』を紹介してきました。
身体に不自然かつ強制的な作用をもたらす医薬品は、本来と異なる用途で使用すると思わぬ事故につながることもあります。
脳機能を高めて日々のパフォーマンスを高めたいなら、安全に継続できる栄養素(サプリメント)を選ぶのが吉ですね。
特に近年では高齢化による認知機能の衰えが社会問題になっているため、脳機能を高める食品やサプリメントは続々登場しています。
臨床試験データが豊富な成分を選ぶことで、自然な形で高いアウトプットを発揮できるコンディションを整えることができるでしょう。
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