カシオ計算機は、子宮頸がんの早期発見に有効なコルポスコピー(子宮腟部拡大鏡診)という子宮頸部の観察や撮影を目的としたデジタルカメラ「コルポカメラ DZ-C100(以下、コルポカメラ)」を、欧州地域でも販売を開始した。なぜいまコルポカメラを海外展開するのか、国内と海外でのマーケティングや販売戦略の違い、今後の予定などを、メディカル企画開発部でマーケティングを担当する高橋実氏と中川慎太郎氏に聞く。
コルポカメラが子宮頸がんの早期発見に果たせる役割は決して小さくない
――コルポカメラの特長や、販促施策についてお伺いする前に、コルポカメラを海外で販売を開始する背景について理解したいと思います。まずは海外の子宮頸がんの現状や検診の受診状況などについて教えてください。
中川氏:「世界保健機関(WHO)の2021年のレポートによると、子宮頸がんは女性のがんの中で4番目に罹患者数が多いと言われています。世界で年間約60万人の女性が罹患し、約34万人が亡くなっています。
コルポカメラを海外で初めて販売を開始する欧州においては、年間約5.8万人が罹患し、約2.6万人が亡くなっています。ちなみに日本では年間約1万人が罹患し、約2,900人が亡くなっています」
WHOでは子宮頸がんの根絶を目指し、2030年までに以下の大きく3つの目標を立てている。
・15歳までの少女の90%にHPVワクチンを接種
・35歳までに女性の70%が高性能スクリーニング検査を受け、45歳までに再度行う
・頸部疾患と特定された女性の90%が治療を受ける
この3つの対策がすべて成功すれば、2050年までに子宮頸がんの発生を40%以上減らせ、500万人の死亡が減らせるとWHOは見込んでいる。医療機器であるコルポカメラは、このうちの「高性能スクリーニング検査」で重要な役目を果たすのだ。
中川氏:「欧州地域の多くの国では、30歳以降の5年間隔のHPVウイルスのスクリーニング検査を推奨し、約70%が検査にアクセス可能というデータがあります。スクリーニング検査自体はよく実施されており、普及していると言えます。
それにも関わらず子宮頸がんは罹患者が多くて、2018年の調査によれば、イギリス、オランダ、スウェーデンでは、過去10年間で罹患者が15~30%増加したというデータがあります。
もちろん、これはスクリーニング検査の精度が上がって、発見できているからかもしれません。子宮頸がんの確定には、子宮頸部を観察するコルポスコピーという診断技術が用いられます。コルポカメラを使うと観察や撮影が容易に行えるため、重要性は今後も増していくと考えています」
――コルポカメラの重要性が高まる理由は、その特長を把握することで理解しやすくなりそうです。国内での医療従事者からの評価はいかがでしょうか。
中川氏:「コルポカメラは一般のデジタルカメラでは撮影の難しい子宮頸部を、カメラに備わるLEDライトで子宮頸部を明るく照らしながら、ピントを合わせることができます。静止画と動画の撮影に対応し、静止画は通常/グリーン/偏光の3種類の画像を、ワンシャッターで撮影でき、同じ画角の高画質な画像が簡単な操作で見比べられます。国内市場において、2022年3月の発売以来、全国の産婦人科の医療現場に導入していただいています。
カメラスタンド「CST-100M(以下、カメラスタンド)」は単体で購入できますが、使い勝手の良さから、コルポカメラとセットでの購入が多い傾向にあります。購入された先生方からは、以下のような嬉しいお声をたくさん頂いています。
1つ目はワンシャッターで通常、グリーン、偏光の3種類の画像を撮影できることで診断をサポートするための画像を簡単に記録できます。
2つ目は従来型のコルポスコープではピント合わせに技術や経験が必要でしたが、コルポカメラでは容易になっていることです。タッチフォーカス機能を搭載しており、液晶モニター上でタッチした領域にワンタッチでピントを合わせることができます。
3つ目は別売のカメラスタンドが用意されていることです。観察したい位置にスムーズにカメラを動かして固定でき、コンパクトかつ軽量で取り回しやすくがよく、キャスターも付いているので移動や収納も簡単です」
まずはイギリス、スペイン、ドイツ、フランス、イタリアの主要5カ国に焦点
――コルポカメラの海外展開は、なぜ欧州から始めるのですか。また、欧州の中でも特に注力する国はありますか?
高橋氏:「コルポカメラとカメラスタンドを8月28日にプレス発表し、9月5日にEU諸国とイギリス市場で同時に販売を開始しました。この販売に先立ち、EU加盟27カ国での欧州医療機器規則(EU MDR)とUK医療機器規則(UK MDR)における、それぞれの適合宣言が完了しました。
特に重視しているのは、イギリス、スペイン、ドイツ、フランス、イタリアの主要5カ国です。医療の先進性やコルポスコピーの普及状況よりは、国としての経済的な大きさが理由です。他の国でもコネクションができればもちろん、販促を進めていきます。
大陸にはカシオヨーロッパ、イギリスにはカシオエレクトロニクスという販売会社がそれぞれあるので、連動しながら展開していきます」
――欧州でのマーケティング活動はどのように行いましたか?
中川氏:「コミュニケーションがいままでなかった領域に踏み込もうとしているので、まずは欧州にコルポスコピー関連のどのような学会があるか調べるところから始めました」
高橋氏:「産科婦人科学会などに出展し、コルポスコピーに携わる産婦人科の先生に直接会ってアピールしたのです。製品に触れて評価してもらうと、興味を持たれる先生が必ずいますので、自分の病院で試用してもらいました。高評価をくださった先生には、コルポスコピーで診療している他の先生を紹介してもらい、アプローチを広げていきました」
中川氏:「学会でのアプローチは現在も継続していて、10月に開催予定のEFC(European Federation For Colposcopy)という汎欧州学会の運営事務局にコンタクトして、多くの先生が聴講されるトレーニングセッションの中で時間をもらえることになりました。
そこでは製品を口頭でプレゼンテーションできます。コルポカメラに実際に手で触れてもらう場も設けられるので準備を進めています。学会に向けた活動の中でひとつの手がかりが得られたのは、チャレンジャーである我々にとって大きな一歩ではないかと考えています」
高橋氏:「コルポカメラは国内同様、販売代理店は経由せずに直販のみで展開する予定です。それでも調査を兼ねて販売代理店向けの展示会となるMEDICAに、2020年にバーチャル開催で初出展し、2021年に本出展しました。このときは来場者に皮膚科向けのダーモカメラと一緒に展示したのですが、コルポカメラへの関心のほうが高かったくらいです」
――先行して発売したダーモカメラの販売やマーケティングで培ったノウハウが活きた場面はありましたか?
高橋氏:「学会に参加して、製品の評価などに協力してくれそうな先生を探すのは、ダーモカメラの時からずっとやってきた方法なので、その点はまさにノウハウが活きています。
また、欧州で皮膚科のアプローチをしたとき、現地スタッフの中で興味深いマーケティング方法を見せてくれたフランス人がいました。その方は、SNSで個別にコンタクトしていくやり方で、数百人の人脈を広げました。同じことを産婦人科でも行って、パリの有力な若手の先生にコンタクトできました。これも過去の成功事例を活かせたケースだと思います」
中川氏:「先生方とコミュニケーションをとるときに、製品の機能面だけをピックアップしてアピールするのではなく、それらの機能が先生方の日常の診療にどのように役立つかを考えるように心がけています。先生にとって重要なのは、カメラそのものではなく、このカメラでどれだけの患者を疾患から救い出せるかです。この点は皮膚科と変わりません。
その他では、カメラ本体やカメラスタンドが、全体的に検査を受ける患者さんにとって威圧感が少ないデザインになっていることも訴求できると考えています。皮膚科向けのダーモカメラも、患者さんに威圧感を与えないデザインが好評価でした」
群雄割拠の欧州市場、認知向上がカギ
――欧州で展開するうえでどのような課題が残っていますか? その課題を解決するためにどのようなことを考えていますか?
中川氏:「国内と海外で一番大きな違いは、競合他社の数です。市場を独占するような大手はなく、群雄割拠しています。信頼ある日本製という点は有利に働きますが、医療分野における当社の認知度の向上がカギになります。
いろいろな国のたくさんのメーカーの製品がある中で、認知を上げていくには、いかに多くの先生に存在を知ってもらい、関心を向けてもらうかが重要です。
他社から販売されている従来型のコルポスコピー用のカメラは、双眼鏡のように両眼で覗いて使う双眼方式の拡大鏡とカメラレンズが少し離れた場所にあります。このため、目で見たままの写真にはならず、ピント合わせも難しいのです。
当社のコルポカメラはカメラ方式で対象の部位を液晶モニター上でリアルタイムに確認でき、タッチフォーカスでピントを合わせて、見たままの光景が高画質で撮影できます。静止画だけでなく動画も撮れます。このあたりは現状では唯一無二の存在で強みです。学会などでこれらの特長を評価して頂ければ、認知向上に繋がると思っています」
高橋氏:「言葉だけではイメージしづらいかもしれませんが、学会で他社の展示を見回すと、コルポカメラとカメラスタンドのセットに比べて、他社製品は非常に大きな機器として設置されていることが少なくありません。当社はコンパクトさだけでも目を引くインパクトを持っています」
――――発売にたどり着くまでに、どのような苦労がありましたか?
中川氏:「当社はコルポスコピーの業界ではチャレンジャーです。コネクションがない状況から、協力していただけるKOL(Key Opinion Leader)を探すべく、つながりを広げている段階です。学会などの糸口はあるので、なんとかコミュニケーションを取って、興味を引くよう愚直に働きかけました」
高橋氏:「先程、中川も述べていましたが、先生方の興味はカメラそのものではなく、医療行為にどう役立つかです。医師には医師のペースがあるのでこれを乱してはなりません。このため、未発売の製品の存在を認知して、試して、評価して、購入したいかどうか回答を得るまでのリードタイムが長くなりがちです。それを待ち続ける忍耐が苦労と言えば苦労でした」
――実際に試用した欧州の先生からの評価はどのようなものでしたか?
中川氏:「フランスのクリニックの先生にコルポカメラをご使用していただく機会がありました。画質面を中心に、これまで使用してきた製品とは違って高精度だという評価を頂戴しました。タッチフォーカスの機能など、今までの製品ではないような機能を中心に使いやすいとの声もいただき、気に入っていただけました。
この先生にフランスでコルポスコピーを推進している他の先生をご紹介され、勧めてみてはどうかとアドバイスをいただきました。次回,コルポカメラを貸し出してご使用いただくことになりました。
フランス以外にも各国でコルポスコピーを一生懸命やっている先生がたくさんいます。学会で知り合いになれたら、そこから貸出提案を行って実際に試用の評価をいただくというサイクルを広げていきたいと考えています」
世界市場を見据えるチャレンジャーとしての高い意識
――欧州のあとの海外での販売スケジュールはどのような予定でいますか?
高橋氏:「このあとは、医療認証の取れているアメリカで今期中の発売を計画しており、市場調査含め準備を進めています。医療認証を申請中の台湾、オーストラリアなども順次発売予定です。台湾では来年の8月に学会が開催されるので、市場調査も兼ねてカシオ台湾として出展する予定です。
ダーモカメラを展開するエリアは、コルポカメラも展開したいと考えています。このあとの展開を考えると、欧州地域の市場でいかに成功を収められるかが、もうひとつのカギになると思うので力を入れています」
――最後に今後の抱負や意気込みなどについてお聞かせください。
中川氏:「コルポカメラは将来、AI診断のテクノロジーとのシナジーも見込める製品です。子宮頸がんで苦しむ患者さんを少しでも減らすことに貢献できる製品なので、より多くの先生に働きかける活動を強力に進めていきたいです」
高橋氏:「当社は機器販売をビジネスにしていますが、機器を販売しておしまいというのではなく、新しい提案をするトータルソリューションだと考えています。また、コルポカメラでもオンラインを使った直販にこだわります。どちらもチャレンジであり、新しいことをする面白さと、子宮頸がんの早期発見や早期治療という形で社会に貢献できる達成感もあります。直販なのでユーザーの声をフィードバックで受けられますから、それをまた開発にフィードバックして、どんどんいいサイクルにしていければと思います」
――本日はありがとうございます。
コルポカメラは開発に当たって産婦人科の先生方に監修を受け、現場のニーズに即した使い勝手の良さを実現している。販売上の慣習の違いや医師からの認知に違いはあれど、人体の仕組みは国内も海外も変わりはなく、国内で高い評価を得ているだけに、海外でも使ってみれば良い評価につながることは間違ないはずだ。
海外でゼロベースからのマーケティングは決して平坦な道のりではなかったはずだが、チームの高い志に触れていると、チャレンジャーとして非常に前向きに取り組んでいることが伝わってくる。欧州を皮切りとした展開がワールドワイドへと続いていくのを期待して見守りたい。
[PR]提供:カシオ計算機